第34話 ドラゴン2
今日も今日とて使用人のお仕事。
麗らかないい天気の中、私はもう一人の使用人のおばちゃんと二人で洗濯をしていた。
もちろん外での作業だが、気温が暖かいから手に当たる冷たい水が気持ちいい。
「ココロちゃーん! 私そろそろお夕飯の仕込みをしなきゃいけないから、残りの洗濯は任せてもいいかしら?」
「全然大丈夫ですよ! 行っちゃってください」
「ありがとう~。じゃあ、よろしくね」
「はーい」
私は笑顔でおばちゃんを見送った。
さて、私は残った洗濯をやらなければ。
とはいえ、二人でやっていたからもうほとんど終わっている。すぐに終わるだろう。終わったら私も夕飯づくりを手伝わなければ。
洗濯物とむきあうためにしゃがみこんだ。その瞬間。
ドカーーーン!!
いつだかと同じように、空から黒いドラゴンが降ってきた。
洗濯物が勢いよくひっくり返る。たらいの水が地面に広がって私の足を濡らした。
私が驚いて固まっていると、ドラゴンはこちらを見てしゃべりだした。
「や、やっと見つけた……おめーはどこまで逃げてんだ……探すのめちゃくちゃ大変だったじゃねぇかよ……」
「え」
王宮から逃げ出した、あの時と同じ声。同じドラゴンだ。
ドラゴンは前足と頭を下げて、かがむような姿勢を取った。
?? 急にどうしたんだろう。
「おいお前。なにぼさっとしてんだ。さっさと乗れ」
「え、ドラゴンに、ですか」
「他に何があんだよ」
「な、なんで」
なんで私がドラゴンに乗らなきゃいけないの!? なんで急にそんな話に!!?
全く訳が分からない。
頭に大量に「?」マークを浮かべた私に、ドラゴンはイラついたような声を出した。
「長々とこんなとこにいるわけにいかねーんだよ。いいから早くしろ」
「の、乗ってどうするんです……?」
「さっさとしろっつってんだ!」
「うわっ!?」
ドラゴンは私の襟首をくわえて放り投げた。投げられた私は少しのあいだ宙を舞い、ドラゴンのごつごつとした背中に落ちる。
「つかまれよ。落ちるぜ」
「えぇっ!!?」
反射的にドラゴンの首に腕を回す。
ドラゴンはばさり、と翼を力強く動かした。その衝撃で、周囲の木々がおおきくざわめいて揺れる。
私は腕に力を込めた。そして全身に大きな衝撃が来たと思ったときには、もうドラゴンは飛び立っていた。
あっという間に地面が遠ざかる。
もう町の家々が人形の家のように小さく見えた。
「え、え、飛んでる!!?」
「そりゃ飛ぶだろ」
私の混乱に、呆れたような声で応えるドラゴン。
下を見てわかる高さと、周囲を吹き抜ける風の強さに、私の喉がヒュッと音を立てた。回した腕に、さらに力が入る。
ドラゴンはひたすらまっすぐに飛び続けた。
っていうか! これ! いつまで続くの!!? そもそもどこに行くの!!??
「あ、あの! 今どこに向かってるんですか!?」
「すぐにわかる!」
そのまま、辺境の町からはるか彼方に見えていた山まで飛んで来てしまった。さっきまでいた町はもうどこにも見えず、眼下には緑ばかりが広がっている。
「もう着くぞ」
ドラゴンの声に私が顔を上げると、小さく建物が見えた。だんだんと近づき、その輪郭がはっきりしてくる。
城のようだ。あちこちが崩れている、大部分が蔦に覆われた城が見えてきた。見たところ、廃墟のようだ。
ドラゴンは城門の前まで行って着地した。
私はドラゴンの背に手をのせて、ゆっくりと下りる。
地面に立つと、平衡感覚がおかしくて、足がふらふらとした。そのままよろけて石でできた門の柱に手をつく。
そんないろいろと限界な状態の私を放って、ドラゴンはさっさと門をくぐっていった。
「さっさと入れ」
「は、はい」
私は何とか足を動かしてドラゴンについていく。
荒れた庭を通り、ドラゴンに促されるまま、鍵のかかっていない玄関から城の中に入った。
城の中はやはり廃墟と言った様子で、埃と蜘蛛の巣だらけ。たまにがれきやガラスの破片もころがっているような有様だった。
一体、私は何でこんなところを歩いてるの……
ちらりとドラゴンを見上げても、ドラゴンはひたすら前をみて歩みを進めるだけだ。
そうしている間に、どんどん城の奥へと入っていく。
どこまで行くんだろう、と思っていると、ドラゴンは一つの扉の前でピタリと止まり、座り込んだ。
え、何。ここからどうしたらいいの。開けたらいいの?
私はドラゴンと扉を交互に見るが、ドラゴンはうんともすんとも言わない。
そしてしびれを切らした私がドアノブに手をかけようとしたとき、扉はギィッと音を立ててひとりでに奥へと開いた。
部屋の中は思いのほか明るかった。
明かりがついているわけではなく、天井に穴が開いている。壁にもヒビが入っていた。
扉の正面の壁際に、大きな椅子が置かれている以外は何もない部屋だ。
天井から差し込む光が逆光になって見づらいが、よく見るとその椅子には男が座っていた。
いや、少年と言った方が正確かもしれない。背は低そうだ。
私の隣にいたドラゴンが、さっさと部屋に入り、少年の斜め後ろに座る。
それを確認して少年は口を開いた。
「よく来たな、転移者」
少年は不敵な笑みを浮かべ、こちらを見ている。
「俺は魔王ゼクス! お前、魔王の右腕になれ!」




