第31話 王子の苦悩
「転移者が牢から逃げ出しただと!?」
王宮内の被害確認を命じていた騎士からの急報を受け、王子は絶叫した。
「今すぐ捜索隊を編成しろ! 転移者を逃がしたりしたら、今の何倍も被害が大きくなる!」
「しかし、王宮警護の騎士も最小限にして、王都へ竜の討伐に出ているのです。これ以上は——」
「そんなことは分かっている! 王都から今すぐ数人連れ戻して転移者の捜索に当たらせろ!」
王子に怒鳴られた騎士は、弾かれたように部屋から出ていった。
「くそっ、この忙しいときに……」
王子はぐしゃりと髪をかきむしった。
転移者の捜索は思うように進まなかった。
それも当然のことだ。王宮も王都も大混乱で、どこに行っても人で溢れかえっている。その上、そこら中がれきだらけで視界も悪い。そんな状況で、たった一人の転移者を探すのは、無謀と言うほかなかった。
その間にもドラゴンによる被害はどんどん拡大していく。
王子も、机に突っ伏して頭を抱えることしかできなかった。
万事休すか、と思われたが、街をがれきの山にしてしばらく経ったころ、突然ドラゴンたちは、波が引くようにどこかへ飛び去って行った。
いったい何だったというのか。
誰もが呆然として、がれきと化した街を見つめることしかできなかった。
*
その後、「王都の結界が割れ、そこからドラゴンが入ってきた」という王都の住民の証言に基づき、結界の調査が行われた。
調査の結果、結界が人為的に破壊されたことが明らかになり、王宮は再び大騒ぎとなった。
「今回の転移者のスキルは『魅了』じゃなかったのか!?」
「まさか転移者が結界を破壊するなんて……!」
「しかも、今回の転移者は一度も王宮から出していないんだぞ!? 王宮から結界までどれだけ距離があると……今回の転移者は未知のスキルを持っていると見て間違いない」
「ドラゴンが襲撃してきたのも、転移者が仕掛けたんじゃないのか!?」
「二つ以上のスキル持ちなんて前代未聞だぞ……いったいどうなっているんだ……」
「いや、転移者については未だに不明な点も多い。ありえないことではないだろう」
「もしや『自身の願望を実現する』スキルなのでは!?」
不安が不安を呼び、混乱はさらに大きくなる。
王宮の会議はいつまでも続いたが、結論が出ることはなかった。
ただ一つ言えるのは、今回の転移者はこれまでにない未知の、それも凄まじい力を持ったスキルの持ち主である、ということだけだった。
ドラゴンたちが消え、がれきとなった王宮と王都を探し回っても、転移者はどこにも見つからなかった。
すでに王宮の外に出てしまったのは確実。最悪の場合、王都の外にまで出てしまったかもしれない。
転移者がどこに行ったのか分からない——そんな絶望的な状況に、誰もが顔を青くした。
人間を洗脳し、遠距離で結界を破壊し、ドラゴンの襲撃すら自在に起こせる。そのスキルが、この国のどこかで突然使われた日には、この国は本当に滅亡してしまう。
あるいは、国を乗っ取って、新しい国を作ることすらできてしまうだろう。
王は急いで王都や周辺の街の民に呼びかけ、捜索の張り紙もあちこちに貼らせた。
それでも転移者が見つかることはなかった。




