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第22話 ロックスの本音

 俺——ロックスは、ケインと共に転移者の部屋の前で、ただ立ち尽くしていた。


 俺は今回初めて転移者の護衛兼監視担当となった。

 別に立候補したわけではなく、騎士団内で順番に回していた当番が偶然今回は俺に当たっただけだったのだが。とはいえそんな事情もあって、俺は今回の転移者がこの世界に来てから、ずっと彼女の監視をしていた。


 その上で正直なところ、俺は今回の転移者が周囲の言うような危険人物にはどうしても思えなかった。ただ、見知らぬ場所で一人怯えているだけの子供にしか見えなかった。


 だが彼女が現れてから今日までずっと、国は一貫して彼女を今までの転移者同様の危険人物である、という考えを崩していない。

 そこで俺は、今までの転移者のせいで彼女は誤解されているのでは?と考えた。

 彼女のことを、『今までの転移者』という色眼鏡抜きに見て判断してもらわないと、この国は対応を誤ってしまうのではと心配になった。

 そしてそれを上に伝えるのは、彼女の監視として近くで見ていた自分たちの役目ではないだろうか。


 このことを上に伝えるべきか、伝えるならばどう伝えるべきだろうか。上手に伝えないと、余計に彼女が危険人物とみなされてしまいそうだ。そんなふうに考えてなかなか報告できずにいたら、ついに事件は起こってしまった。


 以前の転移者に家族を殺された騎士の一人が、訓練所の前を偶然通りかかった彼女に斬りかかったのだ。カッとなったのだろう。

 もちろんすぐにその騎士は取り押さえたが、転移者はかなり怯えて動揺した様子だった。彼女に戦闘の経験などないことは見るからに明らかだ。それが急に襲われて、恐怖を感じないはずがない。

 よほど恐ろしかったのだろう。この事件以降、転移者は自室に引きこもり、全く部屋から出てこなくなってしまった。


 この事件を起こした騎士の家族を殺したのは以前の転移者であって、今回の転移者である彼女に罪はない。それなのにこんなことになってしまって、本当にかわいそうだと思う。もっと早く止めに入れていればと悔やまずにはいられない。


 彼女が部屋から出てこなければ、俺たち護衛騎士はこうして彼女の部屋の前に立って扉を見守る以外にできることがない。

 だからせめて、彼女に本当にスキルがないのか、上に公正に判断してもらうべきだろう。彼女が言っていることが嘘ではないと判断されれば、これ以上あの騎士のようなことを考える者はいなくなるだろう。そうなれば、彼女は今より少しは安心して過ごせるようになるんじゃないだろうか。

 俺にできることはそれらいしかないが、それがせめてもの償いにならないかと、そう思ったのだ。


 だからこの自分の考えが、行動が、どんな結果を引き起こすのか。本当に浅はかなことだが、この時の俺には全く理解できていなかった。



 俺は自分の考えを、まずは信用できる騎士の同僚であり、親友でもあるケインに打ち明けることにした。

 ケインも俺と共にずっと転移者の監視をしていたから事情はわかっているし、俺よりずっとコミュニケーション能力が高い。きっと力になってくれるだろうと思ったのだ。


「……なあケイン」

「どうした?ロックス。退勤時間にはまだ早いぞ」

「そうじゃない。……今回の転移者のことだが、」

「? おう。出てこないな」


 ケインは目の前の扉をちらりと見た。

 俺はそのまま本題を切り出した。


「……彼女は、もしかして彼女がずっと言っている通り、本当に何のスキルも持っていないんじゃないか?」

「………………どうしてそう思った?」


 ケインの声が低くなり、纏う空気が鋭くなるのを感じる。


「今までこれほどの長期間、スキルを使わなかった転移者はいないだろう。それに、彼女は一貫して『スキルがない』と主張していて、これまで一度もスキルを使うそぶりすら見せていない」

「…………そうだな。そうかもしれないな」


 ケインはそう言って薄く笑った。俺はそれを見て、納得してくれたのだと思い、胸をなでおろした。


「それで、このことを上に報告しようと思うんだ。早い方がいいだろうから、今日の退勤後にでも——」


 そこまで言ってケインに遮られた。


「ああ、それなら俺から報告しておくよ。ちょうど団長に話すことがあったんだ」

「そうか。じゃあ頼む。ありがとうな」

「おう、気にすんな」


 そう言ってケインは笑い、そこで話は終わった。

 明日になれば何か少しは進展があるかもしれない。彼女が何もしていないのなら、そしてこれからも何もしないのなら、もう少し良いようになればいい。

 この時はのんきにそう考えていた。



「団長、報告です。転移者の監視担当をしていたロックスが、転移者のスキルにより洗脳されました」

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