第21話 ここから出して
何もできず、ただ地面に座り込んで震えていると、「部屋に戻りましょう」とロックスさんに促された。
放心状態のまま、気づけば私は部屋まで戻っていた。いつものように入ってこようとしたソフィアさんにも、「一人でいたいから」と言って下がってもらう。
カーテンを全て閉め、メイド服も脱ぎ捨てて適当に着替え、ベッドに潜り込む。
まだ午前中だけど、部屋を出る気にはなれなかった。
私に斬りかかってきた騎士の、あの鋭い視線が、怒鳴り声が、むき出しの殺意が頭から離れない。枕に顔をを押しつけ、さらに耳をふさいでも、彼の声がいつまでも頭の中で反響しているようだった。
涙が止まらず、うまく息が吸えない。
怖い。怖い怖い怖い怖い怖い。
何で、どうして、私が何をしたって言うの。
なんでそんな目で見るの。なんで殺せなんて言うの。
どうしてみんな、仕方がないって顔をするの。
私が悪いの? 私がここで生きているのが間違いなの?
今日の朝、廊下ですれ違ったときに笑って挨拶してくれたメイドさんたちの顔が浮かぶ。あの笑顔も、内心では「早く消えろ」と思っていたのだろうか。
ソフィアさんもロックスさんもケインさんも、みんな私に死んでほしいと思ってる?
もう、何を信じたらいいのかもわからない。いっそ何も信じない方がいいのかな。
ふと気づいて、私は頭を上げた。
思考が良くない方向に転がるのを感じるが、止められない。
……それなら、私がここに来てすぐに王様が言っていた、『しばらくしたら元の世界に帰れるだろう』っていうのは? あれは本当なの? もし、もしあれが嘘だったら……私は元の世界に帰れないの?
できるだけ考えないようにしていた。
私は本当に帰れるのか。今までの転移者たちは本当に元の世界に帰ったのか。もし帰ったのなら、どうして元の世界でこの世界の存在が全く話題にならなかったのか。
……本当は誰一人として帰っていないのでは? 本当は全員この世界で殺されてしまったのでは?
最悪の想像はとどまることを知らず、ガタガタと全身が震える。両腕で体を抱きしめても、全く震えは止まる気配をみせない。
どうしようどうしよう。このままじゃ殺される。
また私を襲った騎士のような人が現れて、次は誰も助けてくれないかもしれない。
ここから逃げよう。
何とかして逃げないと。逃げないと殺される。
でも王宮の外に出て本当に安全なのか? それに、この世界の常識さえあいまいなのに、本当に暮らしていけるの?
——それでも、ここで殺されるのを待っているよりはマシだ。
でもどうやって?
「どうやってここから逃げればいいの……」
私は広く豪奢な部屋を見回して、天蓋付きベッドの上で途方に暮れた。




