第11話 初仕事の裏側で
久しぶりにこのだだっ広い庭園の掃除当番になってしまった。憂鬱だと思っていたら、なんと転移者までやってくることになった。
転移者は、私たちに混ざってここの掃除をしたいと言っているらしい。面倒なことこの上ない。
あまり関わりたくもないので、雑に掃除の説明を済ませて適当な場所に放り出した。どうせすぐに飽きて勝手にいなくなるだろう。
私たちはいつも通り掃除を適当に済ませて、王宮の方からは見えない位置に集まっていた。
「本当に面倒なことよ。転移者なんかと関わりたくないってのに」
「そんなこと言ったって、お国の危機よ。大広間の近くで掃除してた子から聞いたでしょ。普段ふんぞり返ってるあの貴族たちですらご機嫌伺いしてたって。やりたくないって言っている間にこの国がめちゃくちゃになっちゃう方がずっと困るじゃない」
「それはそうだけど……まさか掃除をやりたいなんて、言い出すと思わないじゃない。これまでそんなこと一度もなかったのよ。本当に不気味だわ。今度は何をするつもりなのかしら。さっさと殺されてしまえばいいのに」
そんな愚痴交じりの話をしていると、どこからかソフィアが辺りを見回しながら現れた。
「転移者に聞かれたら大ごとよ。少しは周りに気をつけなさい」
「うわっ、ソフィア。どこから来たのよ……それにしても、こんなところで珍しいわね。どうしたの?」
「知っての通り転移者が今部屋から出てるから、監視は騎士たちに任せて私は休憩よ」
「ああ、そういえばあんた今、転移者付きだったわね。くじで負けたとはいえ、ご苦労なことね」
「本当よ。服が気に食わないだの掃除がしたいだの……今までの転移者たちもみんなわがままだったけど、今回の転移者は特に面倒なことばかり言って困るわ」
ソフィアはため息をついた。どうやらかなり疲れているらしい。
それはそうだろう。誰がどう考えたって、転移者付きのメイドなんて面倒だ。転移者はみんなわがままで強欲だから。そうしてみんなして押し付け合った結果、くじ引きで担当を決めているんだし。
「ご愁傷様。まあこれもあと少しの辛抱かもしれないわよ? 今回の転移者も前回みたいな低能だろうって、貴族の誰かが言ってたらしいから」
「そんなのどこで立ち聞きしたんだか……本当にそうだといいんだけどね。なんとなく、今回は面倒なことになる気がするのよ。勘だけどね」
「最悪の勘ね……当たらないことを祈るわ」
ソフィアはそれ以上何も言わず空を見上げて、またため息を吐いた。
*
転移者が庭園の掃除を始めて、約一時間が経った。
俺たちは護衛と称して、掃除をしている転移者を少し離れたところで監視していた。転移者がスキルを発動させたりした場合に、すぐに感知できるようにするためだ。
しかしこの一時間、転移者はただひたすらほうきを動かすばかりで、スキルなどを使う様子は全くなかった。
一緒に監視しているケインは、問題を起こしそうもない転移者をひたすら見続けるという仕事にもう飽きたらしく、うだうだと俺に話しかけてきた。
「ひまだなー。あいつ本当にずっと掃除してるし。そんなことよりさっさとスキル使ってくれればいいのに」
ケインは欠伸をしながら言った。
俺はそんなことよりも、正直あの転移者がちょっと心配になっていた。
「それよりあの転移者、メイドにほうきだけ渡されていきなり一人で放り出されたみたいだが、大丈夫なんだろうか……」
「大丈夫って何が?」
「何も教わってないだろう。新人のメイドだってもう少しいろいろ教えてもらえるものじゃないのか」
「別にメイドとして雇うわけじゃないんだからいいだろ、そんなこと。ただ転移者の自己満足に付き合ってるだけなんだから。そんなに気になるなら、俺たちで手伝いに行くか? そうだ。ついでにちょっとおだてて上手いことスキルを引き出せないかなー。もし成功したら昇進もありそうだ」
「……俺たちの任務は監視だろう。転移者を手伝うことまでは命じられていない」
俺がそう言うと、ケインは肩をすくめた。
「はいはい、相変わらずまじめですねーロックスは」
やかましい同僚は無視だ。
俺たちはそのまま、転移者の掃除が終わるまで監視を続けた。




