現状確認と方針。
「まず確認なんだがシシィ、なぜそいつらはお前が寵児だと知っている、少なくとも一目見ただけでバレるような力じゃないだろ、実際私もヤコブも殺気を受けて気付いたんだから。」
「そうね、ならまず私の過去から話しましょうか…私は商人の父とこの国の貴族、リンデン家の先代当主の三女の母の元に産まれた、ただの裕福な家に暮らす娘だったわ。」
一口お茶を飲み、シシィはさらに続ける
「父は商人らしさにあふれる人だったわ、金に貪欲で、さらに蓄える事だけに注力して生きていた、そんな父は、首都で店を構える区画で面倒事を避けるべく、その区画を占めるならず者達と懇意にしていたらしいわ。
そんな折、父に疎まれた母と一緒に押しやられたワンカ領の家で何の因果か、私は龍神様に寵児に選ばれたわ……父は寵児になった娘を使えば更に金を増やせると画策したそうよ、それで懇意にしていたならず者達に、私の持つ圧倒的な力の使い方を聞いたの、だけど…」
シシィはそこで区切り俯いてカップを眺め、その後ゆっくりと顔を上げて、口を開いた。
「…だけど彼等はその力に目が眩んだわ、きっと私以外の寵児を見た事がある者がいたのでしょう、軍すら退けられる力を…そしてその力を自分達の稼業で使えば国を支配すら出来る、そう思ったのでしょうね、結果首都で父は事故として殺され、母も同じように殺されたわ……だから彼等は私の力を知っているのよ。」
重い過去だ、なんとなくは知っていたとはいえ十七の少女が経験するにしては、あまりにも重たく辛い出来事だった。
「…そうか、力を知られた事情は分かった、辛い事を思い出させたな、悪かった。」
マヤがシシィにそう伝えるとシシィはキョトンとした表情をしていた。
「?…ああ!ごめんなさい、確かにアナタ達から見たらそうなるわよね、気が付かなかったわ。」
俺もマヤもポカンとしていた、その顔を見て、シシィは更に申し訳なさそうに話す。
「…あの、言い忘れてたのだけれど、私は父と母が殺された事に特に何も思ってないの、元々父とも母とも家族のように接して無いわけだし、私が勘に触るのはそこじゃないわ。
私が不愉快なのは彼らが私の邪魔をしている事よ、それ以外なら彼らが何をしていても許せたのに、けれど、彼らは力量差も分からず私の前に立っているのよ、腹が立つわ。」
「だが奴らはその弱さを埋めるために策を使って来ている、実際俺らは人質のせいでお前の力は使えない。
「全くその通りよ、自ら愚か者に鉄槌を下せない……本当に不愉快だわ。」
据わった目で彼女は呟いた、殺気が漏れ出ているせいで顔の引き攣っているマヤが話を変えた。
「…なあ、トート策はあるか?お前の意見を聞きたい。」
「あ、ああ、…とりあえず策より方針を決めたい、俺から提案するのは三種類だ
一つ目は奴らを炙り出し殲滅していく方法だ。
だが、奴らがまとまって動くわけがないし、街中で何度も襲撃出来るわけもない。
二つ目は実際に領主を暗殺する方法だ。
奴らの言う事を素直に聞く形になるが、一つ目よりはリスクが少ないだろう…だがこれも問題がある、彼らがシシィを脅すのがこの一回で終わる保証がない、それに暗殺の難易度も未知数な策だ
三つ目は裏をかく方法だ。
打てる手も多い、例えば領主に話し味方につけたり、奴らの依頼主と俺らが直に交渉したり、奴らを騙し一箇所に集めて叩くとかだな、深く策を練るならもっと沢山あるだろう…だが今言った例は全部机上の空論でしかない、相手が思ったように動かなければ破綻する。
…さあ、この三つから一つ選んでくれ。」
「…私の能力だけを信じるなら一か二しかないわね。」
その通りだ、彼女の力のみを信じるなら一か二の方針に進むべきだ、だが…
「だけど、それは嫌なんでしょう?」
「ああ、嫌だ、シシィだけに頼りたくない、街中で俺を使えと言ったのに、俺の力が使えないのは腹が立つ。」
「なら決まりね、三の方針にするわ、歯痒いけれども街はアナタの領分よ、アナタが私を使いなさい。」
「すまん、だがまだ俺が出来そうな事があるからな、どうせ荒事になったら俺はシシィを頼るしかないんだ、我が儘を許してくれ。」
そうこれは我が儘だ、街では思ったように動けなく苛立って、焦っている彼女を押しのけて、まだ俺が動くのだから、我が儘を叶えてもらった以上勝たぬわけにはいかない。
「…方針は決まったな、なら策はトートに任せるとしよう、それで、私らアラウィ商会に出来る事はなんだ?」
マヤに聞かれて現状頼みたい事を全て言う。
「まず、俺達の拠点をこの商会に移したい、出来るだけ奴らに動きを悟られたくない、あとは領主と貧民街の伝手があるか?あるなら俺を引き合わせて欲しい…あとは俺とシシィの装備の調達だな、俺は深いフードのついたローブを、シシィの装備は本人と相談して決めてくれ。」
「多いな…宿には人をよこそう、そいつらに荷物を運んできてもらえ。
……次に伝手だが、正直期待せんでくれ、領主に会う事は多分出来る…だが話を聞いてもらえるかは本当に分からん…変わり者なんだよ、貧民街の方は残念ながら伝手がない。
装備については任せろ、渡すのが早まっただけだ、追加の注文も問題ない、いつでも言え、金は貰うがな。」
「助かる、とりあえず貧民街の方以外は任せた、領主と会う日程を決まったら教えてくれ、ローブは今店にあるか?」
俺は席を立ちながらマヤに聞く、時間が限られてる以上動くなら早く動き出したい。
「ローブくらいなら多分あると思うが…もうすぐ日も落ちそうだが、今から行くのか?」
「ああ、何か情報を得るのも、その裏を取るのも、時間がかかる、動くなら早い方がいい…シシィ、飯も一人になると思う、そっちはそっちで済ましててくれ。」
「それは構わないから、行き先くらい伝えて行きなさい。」
「おっと、忘れてた、貧民街に行ってくる。」
マヤは驚いた顔をして椅子から立ち上がる、シシィはこっちを見て訝しげな顔をしていた、俺はヤコブが持って来た黒いローブを受け取りながら説明した。
「今日会った奴らに会うわけじゃない、元々ここに住んでる者達に会うだけだ、それにこういうのは得意分野だ、何も心配はいらん。」
「そうは言うがなトート…顔は割れてるんだろう、何もお前自身が行かなくても…」
「大丈夫よ。」
答えようとした時、俺より先にシシィが言い切った。
「アナタが一人で行くべきだと思ったのでしょう?どうせ何とかするアナタに言う必要もないでしょうけど、上手くやりなさい。」
マヤはそれを聞いて納得して座り直した、どこか呆れた様子を含んだシシィに、俺は意図して不敵に口角をあげて言った。
「ああ、任せろ、行ってくる。」
部屋から出る時、後ろから一つのため息が聞こえた。
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