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小悪党、未来の嫁を拾う。  作者: かがみスイッチ
15/18

信じてもらうために力を見せよう。

通りに出てきてようやく、張り詰めた空気から解放された、変わらず人の多い通りをお互いに無言で歩いて行く、しばらくして彼女が口を開いた。


「撒いたわ。」


「そうか。」


追い手を無事撒けたらしい、ああいった手合いの取る行動はどこの町でもそんなに変わらない、気配を感じれるほど俺は鋭くないが、経験からくる勘でなんとなく予想していた。


「まあ、色々話したいことがあるが他人の耳に入れる訳にはいかん、俺の同期の店に向かう。」


「ええ、構わないわ。」


もはや昨日の話どころでは無いなと能天気な事を考えながら、俺達はアラウィ商会への道を歩いていた。


アラウィ商会に着いてまずやるべき事は、マヤへの状況説明だろう、店に入り出迎えてくれたヤコブにマヤの所在を聞くと、奥にいると言う事なので足早に向かった。


「入るぞ、マヤとんでもない事になった、すまんが知恵と力を貸してくれ。」


「……おいトート、昨日の今日で何があったかは知らんがな、こっちにも都合ってもんがある、そんな短い言葉では、何も分からんぞ。」


「それはそうだろうな、とりあえず話でも聞いてくれ、さっきの事なn 「その前に!…そのずっと手を繋いでいる相手の紹介をしろ、まあ察しはついているがな。」


失念していた、急いでシシィの紹介をしようとすると、彼女は俺の握る手をするりと抜け出し、柔らかに微笑みながら話し始めた。


「名乗りが遅れ申し訳ございません、私はシシィ、シシィ・リンデンと申します、歳は十七、現在トートと共に旅をしております、此度はマヤ様にお会いする事が出来て、大変光栄ですわ。」


そう一息に言うと、見事なカーテシーを披露した、俺はそれを見て、俺が渡したただの婦人服が、宮殿の奥様方が着るような煌びやかなドレスに見えた。


洗練された動き、輝く銀髪、そして美貌と余裕で、見る者全てに、彼女が王女であるかのように錯覚させてきた。


「……あ、ああ私も会えて光栄だ、私の名前はマヤ・アラウィ、二十歳だ、このアラウィ商会の会長をやっている、そこのトートとは見習いの同期だ。」


「まあ、その歳で立派に商会の会長様を務めていらっしゃるのですね、素晴らしい、マヤ様の能力の高さが窺えますわ。」


「あ、ありがとう、それと私に様はいらん、気軽にマヤと呼んでくれ……あれ、あんた歳は十七って言ったか…?」


「ええ、今年の夏で十七になりましたわ、あと私も気軽にシシィとお呼びください。」


「あ、ああ、分かった、シシィと呼ぼう。」


マヤのこんなにタジタジな姿を見るのは初めてだった、歳を聞き返したのは、年齢と振る舞いと身に纏う空気が余りにもかけ離れていて、シシィを測りきれなかったからだろう。


「……トートお前とんでもないのに捕まったな、こりゃ相当な傑物だぞ、今までに会ったことがない、

…シシィには悪いが、トートなんぞに捕まる女はとんだ箱入りと思っていたが、実際は逆か…お前は捕まえたんじゃなくて捕まったんだな。」


勝手を言いやがるとも思うが、一切反論できなかった、彼女に身も心も掴まれたのは事実でしかないから。


「紹介はもういいな、それで俺達の話だ、アラウィ商会にも関わることだから、信じられん所もあるだろうが最後までしっかり聞いてくれ。」


そう前置きして俺は今日の、裏路地での出来事を全て話した、全てを聞いた彼女はしばらく考え込み、そのあと口を開いた。


「寵児か…すまんが私は寵児について、荒唐無稽な噂話でしか聞いたことがない、いざ本物が目の前に居ると言われても、実感が湧かん。」


「それなら私が力を見せて信じてもらうわ、マヤが信頼できて力の目利きを出来る者は居るかしら?」


「ああ、ありがとう、そうしてくれ…おーい!ヤコブ!ちょっと来てくれ!」


少しして、ヤコブが部屋に入ってきた。


「ヤコブ、今からこのトートの連れ、シシィと戦ってくれ、そこで感じたものを私に教えろ。」


「…会長、また突然ですね…分かりました、ではシシィ様、武装はどうされますか?」


「必要無いわ、でも貴方は剣を構えなさい、なんとか耐えるのよ。」


「…かしこまりました。」


訝しげなヤコブはそれでも、言われた通りに剣を持ち、シシィから数歩距離を空けて、体の前で剣を構えた。


「行くわよ、まず1…」


彼女の一言の後、全員の背筋が凍え始めた、殺気を出しているのだ、周囲の空気が張り詰めたのが感じ取れた。


「2」


さらに気温が冷えた、ヤコブは剣を持つ腕にこれ以上ない程力を入れているのだろう、血管がはち切れんばかりに、浮き出たいた。


「3」


ついにマヤがしゃがみ込んだ、出来ることなら俺もそうしたい、ヤコブは額から汗が止まらないようで剣を握る手にポタポタと汗が滴り落ちていた。


「4」


もはや場の空気は張り詰めるのを通り越し部屋全体を強く揺らしているよう錯覚するほど異常だった、もはや、マヤは泣き始めていた。


「5」


その瞬間自分の体重が十倍になったように感じた、立っているのもやっとだ、血の気が引きすぎて目がチカチカとしている、歯を食いしばりすぎて自分の唇から血が垂れるが俺は気付かない、それほどまでにシシィの殺気が強かった。


「終わるわ、怖がらせてごめんなさい。」


遂に剣を落とし、頭を抱えて蹲ったヤコブを見てシシィは殺気を解いた、彼女はたった数十秒で誰もにその力を分からせた。


「ヤコブさん、マヤ、大丈夫か?」


ヤコブは解かれたあと少しして起き上がれていたのでとりあえず、マヤの方に駆け寄るが彼女は気絶していた。


「…無理もありません、冒険者をやっていた私がこのザマなのです、荒事に慣れていない会長は気絶しても仕方ないです。」


数十秒で顔が相当やつれたヤコブがそう話して、この部屋に置いてあるソファへ運んだ。


「アナタは耐えれたのね、よくやったわ…はいコレ、口を拭きなさい、血がついてるわ」


「ああ、ありがとう…あの数字はなんなんだ?型かなんかか?」


そう聞いて、彼女からハンカチを受け取り口元を拭くと本当に血が付いていた、それを見ると口の中にある血の味を、思い出したかのように気付いた。


「いいえ、あの数字は今何割の力を出しているか、その数字よ。」


「てことは最後の殺気は、全力の半分って事か、すごいな。」


「普段なら二割までしか出さないわ、今回は段階を踏んで殺気を強めたから大丈夫だけれど、急に五割の殺気を向けたら、弱い者なら死んでしまうのよ、だから二割でいいの、そんな過剰な力普段生きてて必要ないもの。」


殺気で人を殺せる、荒唐無稽な噂話より説得力が無いが実際に殺気を受けた後だと信じざるを得なかった、彼女に殺気を向けられたのは初めて…ではない、思い出したその事を彼女に話す。


「昨日の夜、マヤの所に来てたと知った時の殺気、アレも2割くらいあったんじゃ無いか?」


彼女はそれを思い出したのかムッとした顔をして、俺に向き直りこう言った


「一割よ。」


「ハハハ!そうかい……そういえば昨日の事も話したかったんだがな…」


「あら、何を話したいのかしら。」


「たくさんあるだろ!これからの関係とか、まず子供が出来たらどうする、他にもお前の気持ちも聞いてないし、…それにお前は昨日が初めてだったじゃないか…」


「昼間から、閨の話をするのね、それに"お前は"なんて、まるでアナタは経験のあるような言い方じゃない。」


「……ある…」


「それなのに、あの慌てようだったのね?、普通は何事も経験者が教えて引っ張るものよ、まあ昨日は仕方ないかしら…なら次に期待しておくわ。」


経験が無くても仕方ないではないか、俺は同じ所にずっと留まる生活をしたことが無いのだ、そんな相手と仲を深める女性がどれだけいるだろうか。


そんな事を心で考えて開き直る、心の傷はデカイし次のハードルも上がっているが、とりあえず今は、彼女に他の事も聞く。


「…子供が出来たら旅を一旦止めるぞ、数年待たないと、もし旅先で赤子に何かあったら対処できなくなるからな。」


「真面目ね、なんとかなるし、なんとかするわよ。」


「ダメだ、もしもの自体は出来るだけ避けるべきだ、見通しが甘すぎる。」


「プフフ、甘いのは夜だけでいいわね。」


「あのなあ「何を人が気絶してる時にイチャついてやがる…」


起きてきたマヤが目を腫らし、やつれた顔で俺達を睨みつけていた。


「ああ、起きたのか、もう大丈夫そうか?」


「クソ、ビビって泣いたのなんか子供の頃以来だぞ…ヤコブに聞くまでも無くシシィが寵児なのは分かった、お前らの話も信じてやる、策を考えるぞ。」


そう言って彼女は椅子に腰掛けると、こっちを見てさらに言う。


「あと外で家族計画なんか話すな…ったく…昨日はそんな素振り無かっただろ…たった1日でどこまで進んでんだよ、常識が違いすぎる…」


額に手を当てたマヤが前を向き直ると、俺達は対策を話し始めた。


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