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桜咲く国の姫君~神様の気まぐれで異世界に召された少女は王子と騎士見習いに溺愛される~  作者: 咲来青
第8章 相対の夜、別離の朝

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第11話 名前で呼ぶ練習

 残るって言ったのは私だけど……強烈に、置いて行かれた感に襲われてしまうのは、どーしてなんだろ……?



「……明日、か……」



 ホントに、明日帰っちゃうんだ……。

 仕方ないことだってわかってるけど……やっぱり寂しいよ……。



『次に会う時までには……ギルと呼べるように――』


 さっき言われた王子の言葉が、脳裏をよぎる。



 次に会う時……って、いったいいつ……?


 隣の国って、ただ『会いたい』って理由だけでも、会いに行ったり出来るのかな?

 それとも、ちゃんとした理由――国王様のお使いとか、国の行事とか――そーゆー、正式っぽい理由がなきゃ、会えないのかな?



 ……そーだ!


 次に会う時じゃなくて、明日。

 明日私が、急に名前で呼んだら……王子、喜んでくれるかも……。



「ちょ――、ちょっと練習……してみよっ、かな……」


 深呼吸して、心を落ち着かせる。


「ぎ――……ギ、ギ――っ、ギギ、ギル……」



 ――って、ダメダメっ!

 もっと自然に言わなきゃ!



「……ぎ、ぎ――る――。ギル……ギルフォー……ド」



 ……うー……、まだダメだ……。

 どーしても、照れが入っちゃう……。



 あーもーっ!

 ただ、〝名前で呼ぶ〟ってだけのことなのにっ!


 こんな簡単なこと、どーしてさらっと言えないのよーーーっ!



 ……仕方ない。

 ここで少し、練習して行こう――。



 会ったとたん、名前を呼ばれて驚く、王子の顔が見たい。

 その後で、嬉しそうに笑う、王子の顔も……。



「よっし、頑張るぞっ!」


 バカみたいに張りきって、私は何度も何度も、『王子を名前で呼ぶ練習』を繰り返した。

 誰かに見られたら、思いっきり変なヤツだと思われちゃうだろーな……とは思ったけど、気にせず続けた。



 王子とお別れする時は……笑顔でいて欲しいから。

 だから、どんなバカげたことであろうとも、直前で失敗して、ガッカリさせたくない。


 『やっぱり、照れちゃって無理だった』なんてことがないように、しっかり練習しておくんだ。



「ギル、ギル。ギルギルギルギルギル……」



 ……まるで呪文みたい。



 くすりと笑って、夜空を見上げて……大きなスクリーンに、王子の姿を映し出す。



 笑った顔。怒った顔。真剣な顔。


 澄ました顔。驚いた顔。ムッとした顔。


 恥ずかしそうな顔。切なそうな顔。辛そうな顔。


 それから、私をからかってる時の……ちょっと意地悪な顔。



 たった二日の間に、いろんな王子を――ううん、ギルを知った。



 出会う前の印象は最悪。

 だって、桜さんを傷付けた人――ってイメージしかなかったから。


 第一印象は、そこまで悪くなかった……けど、すぐに、〝人を(私を?)からかうのが大好きな、意地悪な人〟って印象に変わった。


 関わってく中で、少しずつ、いろんなギルが顔を覗かせて……。

 そのたびに、うろたえたり、困ったり、怒ったり、恥ずかしかったりで……何度も何度も、振り回されて。


 散々振り回されたのに……いつの間にか、そんなギルに惹かれてて……。



「……あ。――私、今……心の中でも『ギル』って……」



 ――呼べた。

 やっと自然に呼べた!


 これでもう、明日は大丈夫!



「うん! 名前も呼べるようになったし、また肌寒くなって来たし……。そろそろ、部屋にもーどろっと」


 上機嫌でつぶやくと、私は、(はず)むような足取りで塔の入り口に向かい、螺旋階段を駆け下りた。




 結局、道順を一度も間違えることなく(もともと、迷うような道順でもないんだけど)、部屋の前まで辿り着くことが出来て、私はホッと息をついた。



 ホントによかったぁ~。

 ちゃんと迷わず、戻って来ることが出来て。(迷う必要がない場所でも、迷ったりしちゃうのが、私だったりするから……)



 大満足でドアノブへ手を伸ばすと、内側からドアが開き、セバスチャンが現れた。


「姫様! ご無事でお戻りくださったのですね! なかなかお戻りになられませんので、何処かで迷っておいでなのではと、心配しておりました。今、捜しに参ろうとしていたところです」


 うるうるした瞳で訴え、私の両腕にすがりつく。


「ご、ごめんごめん。ちょっと、いろいろ思うところがあって……」

「は? 思うところ……でございますか?」


 きょとんとするセバスチャンを、曖昧(あいまい)な笑顔でかわし――するりと部屋に入った。


「姫様!……ようございました。ご無事でいらっしゃったのですね」


 中に入るなり、エレンさんとアンナさんが寄って来て、ホッとした顔で迎えてくれる。


「ごめんね、二人にも心配掛けちゃって。……えっと、夜空がすっごく綺麗だったから、見惚れちゃってたの」


 『ギルと会ってた』なんて、正直に言うのも照れ臭かったから、適当にごまかしていると。

 再び、セバスチャンがペッタペッタと足音をさせながら近付いて来て、意外なことを私に告げた。


「では、姫様。今宵はお疲れでしょうし、湯浴みでもなさいまして、ごゆっくりお休みくださいませ。用意は整ってございますので」



 …………え?

 今、何て言った?



 ユ・ア・ミ?



 ……ゆあみ――……湯……?



 ええっ⁉

 もしかして、お風呂のことっ!?

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