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桜咲く国の姫君~神様の気まぐれで異世界に召された少女は王子と騎士見習いに溺愛される~  作者: 咲来青
第8章 相対の夜、別離の朝

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第10話 二つの約束

 王子とカイルの間で、気持ちがふらふらしたままの自分が、つくづく嫌になり、私が落ち込んでいると。

 王子は私の頬にそっと片手を当て、少し困ったように微笑んだ。


「ああ、また……そんな顔しないで。責めているわけではないんだ。……カイルは魅力的だからね。君が惹かれてしまうのも、無理のないことだと思う。わかってはいるんだけれど……ね」


「……王子……。あの、私――」


「いいんだ。君は、私もカイルも、どちらも好きだと、正直に告白してくれた。黙ったまま、どちらにも覚られぬよう、したたかに二人と付き合うという方法だって、あったにもかかわらず……。隠すことも、ごまかすこともせず、まっすぐに気持ちを伝えてくれた。……そんな君だから、私もカイルも、急速に、君に惹かれてしまったのだろうね。……嘘のつけない君が……純粋な君が大好きだよ、リア」


「王子……。でも、あの……、――っ!」


 『もう黙って』とでも言うみたいに、今度は正面から抱き締められた。

 私の鼓動は、たちまち大きく、苦しいくらいに速く打ち始め、全身が一気に熱くなる。


 強く――だけど優しく、彼の両腕は私を包み込んで――。

 ドキドキするのに、ホッとする感覚もして……戸惑いながらも、私は王子の背に手を回し、上着にしわが寄るくらい、ギュッとつかんだ。


 王子は、耳に息が掛かるほど――唇が、微かに触れるほどの距離まで顔を近付け、熱っぽくささやく。


「君をこのままさらって行けたら、どんなにいいだろう。君の気持ちも、カイルの気持ちも、全て無視して――君を奪ってしまえたら。……奪って、そして……永遠に、君を、誰の目にも触れないところに、閉じ込めておけたなら――」



 とっ、閉じ込め――っ!?


 ……王子。

 それは、私のいた世界では――立派に犯罪ですっ!!



 思わず、そんなツッコミを入れたくなっちゃった、けど……。



 でも……どーしてかな……。

 王子に言われると……こんな、犯罪まがいの行為を口にされても、全然、嫌じゃない。


 嫌じゃないどころか……ちょっと、嬉しくも感じちゃったり……して……。



 ……うぅ……。ダメだ。

 私、どっかおかしいのかな?


 束縛(そくばく)が嬉しいなんて……本当に、どうかしちゃってるのかも……。



 ……あー……ホントにダメ。


 なんだか、頭がぼーっとして……。



「……すまない、リア。私が引き留めておいて、こういうことを自ら言い出すのは、失礼だと思うんだが……。そろそろ、部屋に戻らないか?」

「はい。…………え?……えっ?」


 無意識に返事しちゃった後。

 頭の中で、王子のセリフを反芻(はんすう)してから、ようやく、その意味を理解した。


 思わず、『どうして?』って気持ちを込めて、見上げてしまう。


「……これ以上、共にいると……冗談抜きで、君をこのまま、さらって行きかねないからね。……少し、頭を冷やしたいんだ。取り返しのつかないことを、してしまう前に」


 王子は切なげに、私の髪をゆっくりと撫でた。

 そんな仕草にドキッとし、慌てて視線を外す。


「リア。私との約束――どうか、忘れないでほしい。次に会う時までには……『ギル』と呼べるようにしておくこと。それから――」


「――っ!」


 突然の()()に、ビクッとした。

 王子の掌が、私の左頬を包み込むように撫で……親指が、唇で留まる。


「……ここは、他の誰にも触れさせないこと。――誓ってくれるね?」


 王子の、甘い魅惑的(みわくてき)な声と、その仕草に。

 全身が燃えたぎるように熱くなり、脳内が沸騰しそうで、ボーっとなってしまった私は、返事するどころではなくなってしまった。



 ――顔が熱い。


 頭はもっと熱い。


 唇がくすぐったい。



 ……だからもうっ!

 こーゆーこと、いきなりしないでってばーーーーーッ!!



「リア?……誓っては……くれないのかい?」


 王子は哀しそうに私を見つめ、手を下ろした。

 私は慌てて、ぶんぶんと首を横に振る。


「……それは……誓ってくれるという意味? それとも……誓えない、という意味?」


 また、ぶんぶんぶんと横に振る。


「では……誓ってくれるんだね?」


 ぶんぶんぶんぶんと、今度は縦に振る。


「……よかった。君に拒否されたら、どうしようかと思ったよ」


 ホッとしたように微笑んで、王子は再び髪を撫で……その流れで、髪の束をすくい上げると、ゆっくりと顔を寄せて来て、髪の端にキスした。



「~~~~~っ!?」



 かっ、髪にキスって――!


 この人、ホントに……()()()であれば、どこにキスしても許される――とでも思ってるんじゃないでしょーねっ!?



 ……今のでいったい、どれだけの場所にキスされちゃったことになるんだか……。

 思い返して数えるのだって、怖いくらいだわっ!



 もう……、バカっ! 王子のバカっ!


 バカバカバカーーーーーッ!!



 真っ赤になって、ひたすらパニクる私をよそに、王子は、どこまでも涼しい顔で、


「ありがとう、リア。私の我儘に付き合ってくれて……。それでは、戻ろうか」


 とか言って、さりげなく片手を差し出して来る。

 私は、ちらっとその手を見やってから、大きく首を横に振った。


「――え? 戻らないのかい?」

「わっ、私、もう少しここにいます。戻るなら、王子一人でどーぞっ」


「……それは、べつに構わないが……。一人で戻れる?」

「だ、だいじょーぶですっ! 一人で来たんですからっ!」


「フッ。それもそうだね。――では、先に失礼するよ。おやすみ、リア」


 優しく笑うと、王子は私に背を向けた。

 とたん、胸がズキリと痛む。



 もう会えないワケじゃないのに。

 ……明日になれば、また会えるのに。


 それなのに、遠ざかって行く背中を見ていたら――なんだか、無性に寂しくて……。



「あ――あのっ!!」


 思わず、大声で呼び止めていた。

 意外そうに振り向く王子に、慌てて訊ねる。


「あ……明日……っ。明日は、いつ頃帰るんですかっ?」

「――いつ頃――。……そうだね、たぶん……昼頃になると思うよ」


「……昼、頃――……。そ、そーですか。わかりました。……え、と……。呼び止めて、すみませんでした」

「……いや。もう一度、君の声が聞けて嬉しかったよ。……では、ね――」



 螺旋階段を下りて行く王子の姿は、すぐに視界から消えた。

 私は独りでその場に残り……急激に襲って来た寒さと寂しさに震え、ギュッと自分の体を抱き締めた。

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