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桜咲く国の姫君~神様の気まぐれで異世界に召された少女は王子と騎士見習いに溺愛される~  作者: 咲来青
第8章 相対の夜、別離の朝

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第9話 次に会う時まで

「リア、ここは寒くない? 無理に付き合わせてしまっているが……もし辛いようなら――」


「だっ、大丈夫ですっ。……今は、あったかいです、から……」


 王子が『戻ろう』って言うかもしれないと思うと、怖くて……。

 思わず彼の言葉をさえぎるように、そう言ってしまっていた。



 さっきまでの肌寒さが、嘘みたい。

 王子の腕の中はあったかくて、なんだかホッとする……。



「そうか。……よかった。私の我儘(わがまま)に付き合って、君が具合を悪くしたということがあっては、悔やんでも悔やみ切れないからね」


「そんな――。王子はいつも大袈裟過ぎますよ。ちょっとくらい具合悪くなったって、死ぬワケじゃないんですから」


「そうかな?……それはわからないよ。人の命や、運命というものは――いつどこで、どう狂って来てしまうか、わからないものだから……」


「え?……王……子?」


 私を抱き締める腕に、力がこもる。

 彼は私の髪に顔を(うず)めるようにして、


「リア……。君は……君だけは……」


 消え入りそうな声で、何やらつぶやいた。


「――え、なんですか? 今、何て言ったんです?」


 こんなに近い距離にいるのに、彼が何て言ったのか、全然聞こえなくて……私は答えを求めた。

 でも、私の声が耳に入らなかったのか、


「もし君が――カイルではなく、私を選んでくれたなら。その時は、どうか――すぐに呼んでほしい。どこにいようと、必ず駆けつける。そして君に――」


 私を振り向かせ、両手で肩をつかむと、熱い眼差しでささやく。


「永久の愛と、誓いのキスを捧げよう」



 ……とこしえの……愛?


 誓い……誓いの……き――っ、キキキっ、キスぅう~~~ッ!?



「きっ、キスって――! なっ、何言ってんですかっ!? そんなのいいですっ、いらないですっ! 全ッ――力で遠慮しますっ!」


 ぶんぶんぶんと、大きく首を振って拒否する。

 すると、王子は〝この世の終わり〟とでも言うような顔をして、


「酷い……。酷過ぎる。君がそこまで残酷な人だったなんて……」


 私を非難するように、じっと見つめる。


「ざ――、残酷って言われても……。いっ、いらないものはいらないんですっ! 私、まだ十六歳だしっ!」


 王子はきょとんとして、僅かに首をかしげた。


「君のいた世界では……十六歳でキスすることは、禁止されているのかい?」



 う……っ。


 禁止――されてるワケじゃ、ない……けど……。

 ――ってゆーか、もっと早くに経験してる子だって……いるんだろう、けど……。


 でも……。

 それでもやっぱり……。



「ひっ、他人(ひと)はカンケーないんですっ、他人は! 私が〝まだ早い〟って思ったら、それが全てなんですっ!」



 ……それに、事前にキスの予告なんかされちゃったら……。

 恥ずかしくて、素直に王子を選べなくなっちゃうじゃないっ!


 すんなり王子を選んだら、まるで……私が、きっ、キス……したがってるみたい……じゃない?



 ……か……考え過ぎ、かな……?



 そんなことが、ぐるぐる頭の中を回ってて。

 めまいがして、王子に視線を移すと――。


 何とも言えない複雑な表情(かお)をして、私をまっすぐ見つめていた。


「王子……? あ、あの……」


 戸惑って見つめ返すと。

 王子は片手で私の(あご)をつかんで上向かせ――親指でスッと、唇をなぞった。


「――っ!」


 くすぐったくて、身を縮める。

 王子は寂しそうな笑みを浮かべながら、


「それでは、キスを諦める代わりに。――リア。次に私に会う時まで、この唇は……誰にも触れさせないで欲しい。……たとえ、カイルであっても」


「な――っ! な、何言ってるんですか、いきなりっ!……そ、そんなことあるワケ――っ」


「『ある訳がない』と、私の目を見て言えるかい? あと少しで唇が触れる。――そんなところで、邪魔が入ったことはなかった?」


「――っ!…………え?」


 ドキリとして目を見開く。

 身に覚えがないことではなかったから……。



「……まあ、この場合の『邪魔』というのは、私のことだけれど」


 王子は自嘲(じちょう)するようにつぶやくと、薄く笑った。



 王子、もしかして……カイルと私がキスしそうになってたこと……知ってるの?


 ……じゃあ、まさか……。

 さっき中庭で話してたのって……その時のことについて、だったんじゃ……。



「……君は、つくづく嘘がつけない人だね。気持ちが全て、顔に出てしまっているよ?」

「えっ!?」


 とっさに、両手を頬に当てる。



 顔に出てるって……どんな風に!?

 私、そんなに……変な顔しちゃってるのっ!?



「……ほら。そうやって、すぐ人の言葉に反応してしまうところも。嘘が上手いのもどうかと思うが、嘘がつけない人というのも……見ている方は、なかなかに辛いものだね」


 寂しげな微笑みに、胸がキュウッとなる。



 やっぱり、王子にはバレちゃってるんだ……。

 私がふらふらしてるから……王子もカイルも、傷付けちゃってるんだよね……。


 私……私、どうすればいいの?


 早く自分の気持ちを決めなきゃいけないのに……。

 どちらが好きか、想いを定めなきゃいけないのに。


 なのに全然……。

 どうしていいのか、全然わからないよ――!

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