第12話 お風呂に入ろう
「お風呂っ!? ここってお風呂あるの!? ちゃんとバスタブとか、シャワーとかまであっちゃったりするっ!?」
興奮してセバスチャンに迫ると、
「は? あの……」
『お風呂』だの『バスタブ』だのの単語の意味がわからないのか、目を白黒させている。
「お風呂よ、お風呂!――体を洗ったり、頭を洗ったり、のんびり湯船に浸かったり……ってことが、出来る場所があるのっ!?」
「は、はい。『オフロ』というものが、どのようなものであるかは存じませんが……。体を洗う場所のことをおっしゃっているのでしたら、ございます」
「あ……あるんだ……」
確認出来た瞬間、一気にときめいた。
やったーーーーーっ!!
そう言えば、昨夜は、ギルにおやすみのキスなんかされちゃったせいで、動揺して、着替えもせずに眠っちゃったんだもんね。
お風呂のことなんて、考える余裕すらなかったけど……。
でも、よかった!
朝から、入りたいと思ってたのよね、お風呂!
この世界――ってか、はたしてこの国に、そんなものがあるのかどーかわからなかったし、中世のヨーロッパなんかでは、ほとんど入浴しなかったとか、体臭をごまかすために香水が発明された――なんて話も、聞いたことあったし……。
この世界って、見た目は、中世のヨーロッパっぽい雰囲気あるじゃない?
だからちょっと、心配してたんだよね。『お風呂、なかったりしたらどーしよー?』って。
よかった……。
お風呂があって、ほんっとによかったぁ~~~!
「入るっ! 入る入るっ、入りたいっ!――いえっ、是非とも入らせてくださいッ!」
大興奮で、セバスチャンに擦り寄る。
「ひっ、姫様……。そのように興奮なさらずとも、既にご用意してございますので……。どうか、お気をお静めくださいませ」
「うんっ、うんっ! ありがとうセバスチャン!――あ、アンナさんもエレンさんもっ」
もーう、嬉しくって嬉しくって。
呆れるほどに、はしゃいじゃってるなぁ……って自覚はあったけど、抑えられなかった。
だって、お風呂に入れるんだもん!
シャワーなんかは、さすがにないかもだけど……とにかく、お風呂には入れるんだもん!
「――で、どこっ? どこにあるのお風呂っ?」
キョロキョロと見回すと、部屋の中に、もう一つ、ドアがあることに気付く。
「あっ! もしかしてあれっ? あのドアの向こう?」
旅館やホテルみたいに、大浴場みたいなものが、あるんだったら別だけど……。
バスタブなんかがあるとしたら、あそこが怪しいよね?
――ってゆーか、どーして今まで、あのドアの存在に気付かなかったんだろ?
「はい。姫様のおっしゃる通り、あちらでございます。――アンナ、エレン」
「はい、セバス様」
セバスチャンの目配せで、二人は、素早く私の両隣りに移動し、
「では、姫様。あちらに参りましょう」
なんて言って、私の左手をアンナさんが、右手をエレンさんが取り――ドアの方へと促す。
「……え? あ、あの……二人とも? 使い方ってゆーか、入り方さえ教えてもらえれば、あとは一人で大丈――」
「「まあ、姫様! 何をおっしゃいますか!」」
二人同時にツッコまれ、のけぞりそうになった。
そこにすかさず、
「姫様のお体を、綺麗にして差し上げますのも、メイドの務めでございます。姫様のお手をわずらわせるなど、とんでもないことです」
アンナさんにキッパリと言い切られ、私は愕然とした。
「ちょ――っ! ちょ、ちょっと待って、二人とも!……まさか、まさかそれって……本気で言ってるの?」
「もちろんでございます。姫様は、お着替えだけではなく、こちらのお務めさえ、私共から取り上げるおつもりなのですか?――違いますでしょう?」
……え……。
えーーーっ?
そんなっ、嘘でしょ……?
二人に代わる代わる(かどうかはわからないけど)体を洗われるだなんて、そんな恥ずかし過ぎることを――この私に、容認しろってゆーの!?
「いやっ、だってそれは――っ! いくらなんでも、恥ずかし過ぎるよっ! 赤ちゃんじゃないんだから、手伝ってもらわなくたって、ちゃんと一人で洗えるしっ!」
「洗える洗えないの問題ではございません! こちらのお務めは、私共の誇り!――でございますと共に、日課なのでございますッ!」
ひ――っ!
アンナさん……。
いつものにこやかな顔が、嘘みたいに……こ――っ、怖い……。
「……エ、エレンさ――」
「日課でございます、姫様」
はぅあ――っ!?
意外や意外、即答ですかっ?
……う、うぅ……っ。
エレンさんなら、助けてくれると思ったのに……。
「さあ、姫様。参りましょう?」
にっこりと微笑む二人。
でも、なんとなく……目が、笑ってない……気がする……。
「い……、いや――っ。……ヤダ……ヤダヤダ! やだぁああ~~~っ!」
駄々っ子のように、ふるふると首を振る私を、
「さあ、姫様。お召し物は、あちらでお脱ぎいたしましょう」
問答無用で、引きずって行く二人……。
「ヤダっ! ヤダってばぁっ!……セバスチャンっ! 助けてセバスチャン!! 助けてぇええええーーーーーッ!!」
最後の砦。セバスチャンに助けを求めるも――返事のないまま、無情にもドアは開き――そして、閉じたのだった。




