第1話 マズイこと?
倒れちゃったセバスチャンをその場に残し、一人で城に戻るワケにも行かず……。
結局私は、王子が迎えに来てくれるのを、やきもきしながら、待たなければいけなくなった。
再びやって来た王子は、地面でのびてるセバスチャンを見て、
「これはどうしたことだ……? 病人だか怪我人だか知らないが、手当が必要な者が、増えてしまったというわけか?」
呆れ顔でつぶやき、ため息をついた。
どうやら王子は、セバスチャンが倒れてる理由を、すぐに『肥満ゆえの体力不足』と察したらしい。
しばらく休ませれば問題ないと判断し、セバスチャンをそのままにして、先に私を、城まで送り届けてくれることになった。
城に到着し、王子に馬から降ろしてもらうと、私は一直線に城内へ駆け込もうとし、後ろから王子に呼び止められた。
「リア! カイルなら、私が利用させてもらっている部屋に運んだよ。看病や、その他の手配はアンナに頼んでおいたから、そう慌てずとも大丈夫だ」
王子はそう言ってくれて、
「そうですか!……よかったぁ……」
ひとまず安心して、ホッと胸を撫で下ろす。
「――さて。私はまたひとっ走りして、セバスを迎えに行ってやらねばな。……まったく、あのご老体にも困ったものだ」
腕組みして苦笑しつつも、王子の言葉には、どこか温かみが感じられた。
「……すみません。うちの爺やが、ご迷惑お掛けしまして……」
怒ってるワケじゃないとわかってはいたけど、迷惑掛けてるのは確かだから、一応謝っておく。
「いやいや。どう致しまして。……それより、君はこれから……彼のところへ行くつもりかい?」
「え?……あ、はい。アンナさんがいてくれれば問題ないでしょうけど、やっぱり心配だし。様子だけでも見て来ようかなって思ってます」
「……まあ、だろうね。君のことだから、このまま放っておくわけはないだろうと、予想はしていたが……」
王子は複雑な表情でため息をつくと、どこか遠くに視線を移した。
「……へ? なんですか? 私がカイルさんの様子見に行くと、何かマズイことでも?」
「まずいよ。まずいに決まっているだろう?」
「はぁ……?」
困惑顔で告げる王子に、私は首をかしげた。
マズイって……何がマズイんだろ?
寝込んでる人の様子が気になるのは、当たり前のことだと思うけど……。
きょとんとする私の頭にそっと手を置くと、王子は噛んで含めるように、
「今は気を失っているとしても、いつ目覚めるかわからないだろう? アンナだって、席を外すこともあるだろうし……。そんな部屋の中で、君と彼とが二人きりになるなんて、考えただけでも胸が騒ぐよ。正直に言えば……彼のところには行かないで欲しい。つまりは、そういうことだ」
などと、少し顔を赤らめながら告げるのだった。
……え……。二人きり、って……。
『胸が騒ぐ』――?
カイルさんのところには行かないでくれって、それはつまり……。
「え……えっ!?……いやっ、だってそんな! カイルさんは桜さんの護衛だった人で――っ! そりゃ、今は私の護衛をしてくれてますけど……でもそれだって、桜さんがいなくなっちゃったからで、だから――っ」
王子が心配してるようなことには、絶対なりませんってば!
「本当に? 彼をただの護衛としか思っていない? 君も彼も――お互いに意識していないと、ハッキリそう言い切れるかい?」
「――っ!……そ、それは……」
真摯な眼差しで訊ねられ、思わず口ごもる。
ただの護衛……。
カイルさんは私の……ただの護衛?
……わからない。
わからないよ、そんなの。
だってまだ、カイルさんのことよく知らないし……。意識するもしないも、そんなの……。
――だって、そんな風に言われちゃったら――!
「もうっ! どーしてそんなこと訊くんですかっ!? 王子がいきなり変なこと言い出すからっ! 意識なんてしてないのに……してなかったのにっ! そんな訊き方されたら、なんかもう――妙に気になって来ちゃうじゃないですかっ!」
「……やはり、気になるのか……」
「だからっ! 王子がそんなこと訊かなければ、気になんかしなかっ――?」
強い力で引き寄せられ、一瞬にして、私は王子の腕の中に収まっていた。
「ちょっ、また――! い、いー加減にしてくださいっ!――離してっ! 離してってばっ!」
「離さない。……君が私のことだけを見てくれるまで、絶対に離さない」
「な――っ!……何をまた、バカなこと――」
「バカなことを言っているのはわかっている!……わかってはいるが……どうしようもないんだ」
「……王子……?」
少しも余裕の感じられない王子の態度に、私は困惑した。
昨日まで余裕綽々としてて、憎たらしいくらいだったのに……。
私をからかっては、クスクス笑って。何かと子供扱いされて、悔しくて堪らなかったのに。
今の王子からは、そんなの少しも感じられなくて……。
「君のことになると、気持ちの抑制が利かない。……見苦しいとわかっていても、やめろと、どんなに心が叫んでも、逸る心をどうすることも出来ない。君を前にすると、王子としての立場や体裁など、どうでもいいとさえ思ってしまう。……こんなことは初めてだ……」
「王……子……」
耳元で響く切なげな声が、私の抵抗力を奪った。




