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桜咲く国の姫君~神様の気まぐれで異世界に召された少女は王子と騎士見習いに溺愛される~  作者: 咲来青
第6章 それぞれの想い

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第12話 ドキドキの要因

 セバスチャンの姿が完全に見えなくなるまで見送ると、私はカイルさんの顔に視線を戻した。

 柔らかな蒸栗色の髪。綺麗なコバルトグリーンの瞳は、(まぶた)に隠されていて、今は見えない。


 顔だけの印象だと、カイルさんこそ王子様――って感じするんだけどなぁ……。


 んで、第一印象でも思ったけど、王子の方が騎士。

 なんだか鍛えてるみたいな身体つきだし、愛馬は白馬じゃなくて黒馬だし――。


 ……まあ、王子は白馬しか乗っちゃいけない、ってワケじゃないけど。

 やっぱり、イメージってもんがあるじゃない?


 カイルさんは……線が細いってほどではないけど、見た目は普通の少年みたいだもんね。


 ……でも、もしかしたら……脱いだら意外とマッチョだったり……?



 ――って、違う違う!


 何考えてるのよ、私!?

 今は、そんなどーでもいーこと考えてる場合じゃないでしょっ!?


 カイルさんが頭打って、危険な状態かもしれないってゆーのに、細いの細くないの、マッチョだのマッチョじゃないのって……バカじゃないのっ!?



「う~~……。ごめんなさいっ、カイルさん! もう変なこと考えないからっ!」


 首を大きく左右に振ると、抱き抱えているカイルさんに向かって頭を下げる。


「……ハァ。疲れた……。早く戻って来てくれないかなぁ、セバスチャン。カイルさんが心配だし、私もこのままこうしてたら、なんだか、その――」



 ……妙にドキドキして来ちゃって、どーしていーかわかんないよ……。



 でも、王子に感じたドキドキと、カイルさんに感じてるドキドキは、同じものなのかな?


 ……だとしたら、それっていったい……どーゆーことなんだろ?

 このドキドキは……もしかしたら、あの……年頃の子ならだいたい、経験するとゆー……。



 『恋』……ってものなんだろうか?



「ち――っ、違う違う! きっと違う! 絶対違ぁーーーーーうっ!」


 再び首をぶんぶんと左右に振ると、私は大声で否定した。



 ――そう。違う。たぶん違う。


 ホントのホントに、違うってば。



 王子へのドキドキは、あの、突然何をするかわからない困った性格に、ヒヤヒヤさせられてるから……それを、ドキドキと勘違いしてるだけ。


 カイルさんへのドキドキは……今、この状態だもん。心配で、ドキドキしてるだけだよ。



 ……うん。きっとそう。絶対そう。


 そうに決まってる――!



 この時の私の様子を、陰でこっそり覗いてる人がいたとしたら……。

 一人で首を横に振ったり、縦に振ったり、百面相したり……と、さぞや滑稽(こっけい)に映ったことだろう。



 でも、しょーがないじゃない!

 こんな変な感情に振り回されたことなんて、今まで一度もなかったんだから!



 向こうの世界では、晃人以外の男の子なんて、ほとんど気にしたことなかったし……晃人は幼なじみとしてしか、認識してなかった。(ごめん、晃人……。でもまあ、晃人が好きなのは桜さんだったんだから、私が謝る必要はないか)


 それに、周りの女の子達は、毎日のように恋だの愛だのって、キャーキャー騒がしかったけど……私にはイマイチ、ピンと来なかったんだよね。



 ……『恋』、かぁ……。


 私にも、いつか理解出来る日が来るのかな?



 そんなことを思いながら、ぼーっと空を眺めてたら……遠くから、何やら大きな動物が走って来るような……ダダッ、ダダッ……って感じの音が聞こえて来た。



 ……ん?

 ――どんどん近付いて来る――?



 音のする方へ目を向けると、王子が黒馬のアルフレドを走らせて、こっちに向かって来るところだった。


「王子!――ちょうどよかった。カイルさんが大変なのっ!」


 王子はアルフレドの手綱を引くと、大きくうなずいた。


「セバスから話は聞いている。もう大丈夫だ。私が彼をアルフレドに乗せて、城へ戻ろう。君はここで待っていてくれ。彼を送り届けたら、すぐ迎えに来る」

「私は一人でも大丈夫です! だから早く、カイルさんをっ!」


 早口で告げると、サッと王子の顔色が変わった。



 ……ように、見えたんだけど……。



 私が一瞬ひるんだ隙に、王子は素早く下に降り、私の腕から自分の腕へとカイルさんを移して、軽々と抱き上げた。



 ――すごい!

 自分とそれほど変わらない背丈の男性を、ああも簡単に!



 感心して見守る私をよそに、王子はカイルさんを馬の背に横向きにうつ伏せると、また馬上の人になった。


「じきにセバスも追いつくだろう。それまで、ここでじっとしているんだ。――いいね?」


 厳しい顔で言いつけられ、素直にうなずくと、王子はようやく、いくらか(やわ)らいだ表情を見せてくれて、私はホッと息をつく。


 彼は『はっ!』という掛け声を発し、アルフレドと共に、颯爽(さっそう)と駆けて行った。




 王子の姿が見えなくなると、とたんに体中から力が抜け、私はその場にへたり込んだ。



 これでもう、大丈夫だよね――?


 カイルさん、ちゃんと目が覚めるよね?

 外傷はなかったみたいだから、脳とかに異常が見つからなければ、問題ないと思うんだけど……。



 でも、ちょっと待って?

 この世界の医学って、脳の異常を調べるとか、そんなレベルにまで、達してたりするのかな?



 そこまで考えたら、一気に不安が押し寄せて来た。


 今までの印象だと、医学が進んでる世界だとは、とてもじゃないけど思えない。



 だって、手紙を鳥に(たく)して、届けさせてたりするし……。

 携帯、スマホはもちろんのこと、コンビニだってデパートだって、たぶんないし……。(この雰囲気で、実はある――ってことだったら、それはそれですごい)

 水道は一応あるみたいだけど、どの程度使えるものなのか、まだよくわかってないし……。


 とにかく、旧時代の雰囲気、(かも)し出し過ぎてる世界なのに……。



 うわぁ……めっちゃ心配になって来た。

 王子には、セバスチャンもじき追いつくだろうから、それまでじっとしてろって言われちゃったけど……。


 もう、大人しく待ってなんかいられない!

 一人で城に戻ろう!



 私が決心した、その時だった。


「ひ……姫様ぁ~……。お、お待たせ……致し、ましたぁ~……」


 今にも死にそうな声を出し、セバスチャンがヨタヨタと歩いて来るのが目に入った。


「セバスチャン!……だ、大丈夫? 足元がおぼつかないけど……」


「……も……もんだい……ございま、せん~~~……。少々、頭が……くらくら、致しますが……。こ、この程度のこと――で、倒れる……ようなこと、は……ございま――せ――……」



 バタン!



 言ってる側から、セバスチャンが地面に倒れ込んだ。


「ちょ――っ! セバスチャンってば! 全然大丈夫じゃないじゃない!」


 慌ててうんしょと抱き上げると、彼は、どこか遠くを見つめながら、


「も……申し訳……ございま、せん……。姫さ――ま……。やはり、私は……や……痩せ、なければ……なりません……なぁ……」


 途切れ途切れにつぶやく。



 ……セバスチャン……。

 自分でも気にしてたんだね、体型のこと……。



 私はその言葉を受け止めると、大きくうなずき、心から賛同の意を示した。

第6章はここまでとなります。

お読みくださり、ありがとうございました!


お気に召していただけましたら、評価などしていただけますと幸いです。

どうかよろしくお願い致します。

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