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桜咲く国の姫君~神様の気まぐれで異世界に召された少女は王子と騎士見習いに溺愛される~  作者: 咲来青
第7章 愛情の板挟み

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第2話 王子の熱情

 なんだろう……?


 これまでにも何度か、抱き締められたり、キザなことや、意味深なこと言われたりってことはあったのに……。

 今日の王子は……なんだか、今までとちょっと違う。


 どこか寂しそうで……心細そうで。

 不用意に拒絶しちゃいけないって気にさせるってゆーか……。



「君といると、今まで知らなかった自分に、たくさん気付かされる。君が他の男の話をするだけで、落ち着かない気持ちになったり、君の視線が他の男に向けられるだけで、胸が締め付けられるように傷んだり。君が他の男に笑い掛けただけで、たとえようのない焦燥感(しょうそうかん)(さいな)まれたり。……君に出会ってから、私の心はかき乱されてばかりだ。一時(いっとき)たりとも、()いでくれはしない。終始騒ぎ、焦り、傷付き、惑い……嫉妬に支配されそうになる。……リア。君を誰にも渡したくない。私だけのものにしたい。永遠に私を――私だけを見ていて欲しい。……お願いだ。どこにも――もうどこにも行かないでくれ!」


 胸の内を全て吐き出すように――そして、すがるように訴えて来る王子は、常に堂々として見えた彼とは、別人みたいに思えた。


 落ち着いた年上男性――って雰囲気は、微塵(みじん)もなくて……。

 ただ、不安に(おび)える子供のように感じられた。



「リア。……こんな私をどう思う? 『情けない』と呆れるかい? 『迷惑だ』と腹を立てるかい? それとも……『気味が悪い』と嫌うだろうか――?」



 ……ううん。

 そんな風には思わない。


 むしろ……どうしてだかわからないけど……ちょっと、ホッとした。



「たとえそうだったとしても、私は君に打ち明けたことを、後悔などしないよ。どんなにみっともなかろうと――どんなに滑稽(こっけい)だろうとも、全て私の本心だから。……君が私を変えたんだ。君のことしか見えない、哀れな男に。君のことしか考えられない、(おろ)かな男に」


 王子の手から、胸から――熱い体温と、激しく脈打つ鼓動が伝わって来る。



 ……変えた?

 変えたって、私が? 王子のことを?


 王子がこんなに辛そうなのは……私のせい、なの……?



 息苦しさと、あやふやな後ろめたさに、めまいがする。



 王子は、決して私を責めてるワケじゃない。

 でも、苦しめてる原因が私なら……やっぱり、私が悪いんじゃないかって……私に落ち度があったんじゃないかって、妙に落ち着かない気分になって……。



「君の前では、私はただのちっぽけな男だ。くだらない嫉妬に胸を焦がし、身勝手な独占欲に(とら)われ……時折、我を忘れて、君を困惑させてしまう。強引に想いを押し付けても、迷惑がられるだけだと、わかっているのに。……止められない。止められないんだ。いつか君に、完全に拒絶されてしまうかもしれない。そんな恐れを、常に抱いているのに……どうしてもダメなんだ」


 吐息まじりのささやきが、耳をくすぐる。



 ……どうすればいいんだろう?


 王子が弱気になってる今、何か気の利いたことでも言って、安心させてあげたい。

 そんなに苦しまないでくださいって、伝えたいけど……。


 でも、王子を苦しめてるのは私なんだから……いったい、どうすればいいのか……。



 ……王子を苦しめたくない。

 王子には、いつも笑ってて欲しい。


 意地悪だけど……いつも突然、変なこと言ったり、したりするけど……。

 でも、私……王子のこと、嫌いじゃない。――ううん、好き。

 好き……なんだと思う。


 好き、だけど……正直なことを言えば、私……カイルさんのことも気になってる。


 カイルさんが桜さんのことを好きなら、応援したいって、最初は思ってたのに……。

 好かれてる桜さんが羨ましいって、胸がズキズキすることも、何度かあった。


 だからホントは、カイルさんの口から『同情だったのかも』って言葉が聞けた時、一瞬、ちょっと――ううん、かなり嬉しかったんだ。



 王子に対する気持ちと、カイルさんに対する気持ち。

 それが『恋』ってものなのかどうかは、まだ、よくわからないけど……。



 カイルさんのことが気になってる。――これも事実。

 王子のことが好き。放ってなんておけない。――これも事実。


 自分でも、どっちの気持ちの方が、より強いのかなんて……全然わからない。



 ……嫌だな。自分の気持ちがわからないなんて。

 二人とも好き、なんて……。


 私はいつから、こんなに優柔不断で、嫌な子になっちゃったんだろう?



「あの……。王子は私に、どうして欲しいんですか?」

「――え?」


「王子を苦しめてるのは、私なんですよね? だったら、私はどうすればいいんですか? どうしたら、王子は苦しみから解放されるんですか?」

「……リア……」


「私が……私が王子のこと好きって言ったら――王子のことだけが好きって言ったら、その苦しみは、王子の中から消えてなくなるんですか? 嫉妬とか、独占欲とか、そんなもの全部……感じなくて済むようになるんですか?」


 頭に浮かんだ言葉を、次から次へと口に出しながら、私は王子の背中に手を回し、上着をギュッと掴んだ。


 抱き締め返す勇気なんかなかったし、まだ、気持ちのハッキリしてない私には、そうする資格もないと思ったから。


 ……でもこれじゃあ……必死にしがみついてるって感じで、なんだかカッコ悪いなぁ……。



「君が私だけを好きになったら……嫉妬や独占欲から解放されるのか、か……」


 王子は独り言のようにつぶやくと、小さくため息をついた。


「……いや。それは無理だろうな。君が私だけを見てくれたとしても……それらの感情から逃れることなど、きっと出来はしない」

「そんなっ! どうして――!?」


「それが……『人を好きになる』ということだから、だろうね。……まあ、そういう感情とは無縁だという人間も、いるのかもしれないが……。少なくとも、私には不可能だ」


「不可能って……。だって、それじゃ……私はどーしたらいいの? 何をしても、王子の苦しみは消えないってゆーなら……私にはもう、どーすることも……」


 王子は無言のまま、抱き締めていた手を解いた。

 それから後ろに手をやって、私の手を優しく外し、顔の前まで持って行くと……指先にそっとキスする。


「――っ!」


 不意打ちを食らって、心臓がドクンと跳ね上がった。



 ……ホントにもう、どーしてこの人は……。

 こーゆー恥ずかしいことを、真顔で出来ちゃうんだろう?



「ありがとう、リア。君は本当に優しいね。……けれど、その優しさは……今の私には、少々酷だ」

「えっ?……酷、って……?」


 王子の寂しげな微笑みに、ひやりとした。

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