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桜咲く国の姫君~神様の気まぐれで異世界に召された少女は王子と騎士見習いに溺愛される~  作者: 咲来青
第4章 ルドウィン国の王子

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第19話 王子のお誘い

 夕食後。

 私は椅子に座ったまま、アンナさんとエレンさんが、手際(てぎわ)良く食器類を片付けて行く姿を、ただただボーッと見守っていた。



 手伝いたいけど……。

 きっとまた、『とんでもないことでございます!』とかって、丁重(ていちょう)にお断りされちゃうんだろうし……。



「君……いや、サクラと呼ばせてもらおうか。サクラはこの後、何か用事があるのかい?」

「へっ?……よ、用事ですか?……いえ、特には……」


 いきなり王子に名前を呼ばれ、一瞬ドキッとしてしまった。



 ……だって、晃人と両親以外で、名前を呼び捨てにされたのって初めてだったから……。



「では、よかったら、これから散歩に付き合ってくれないか? 綺麗な月夜に、たった一人でというのも、味気ないからね」



 ……月夜……。 


 やっぱりこの世界でも、『月』は『月』でいいのね。

 異世界と言っても、共通点多くて助かるなぁ……。



 ――って、いやいや。

 ここでの注目点は、そこじゃなくて!



「散歩……ですか。……えーっと……二人きりで?」

「そう。二人きりで」


「…………」



 王子と二人きりってゆーのは、なるべく遠慮したいんだけど……。

 どーせまた、人をからかって遊んだりとか、面白がったりとか、するだけなんだろーし……。



「……ん? もしかして、私が怖いのかな?」

「な――っ! べ、べつに怖くなんかないですっ! ただ――っ」


「では決まりだね。行こう」


 私の言葉をさえぎり、王子はサッと立ち上がり、私に片手を差し伸べた。


「……なんですか、この手は?」

「エスコートだよ。姫君と共に歩くのであれば、当然だろう?」


「いえ、いいです。私、姫様じゃないんで」


 キッパリ断ると、王子はクスッと笑って、


「そうか。それは残念。――ではセバス、サクラを少し借りるよ」


 セバスチャンに声を掛け、先に立って歩き出した。


「は、はい。いってらっしゃいませ」


 セバスチャンに見送られながら、私は渋々、王子の後に続いた。




 散歩ってゆーから、てっきり、城の中庭にでも行くのかな~って思ってたんだけど。

 予想に反して、王子は部屋を出ると、右方向に歩いて行き……下ではなく、上に向かう階段へと足を掛けた。



「えっ? 散歩って、外じゃないんですか?」


 焦って訊ねると、


「ああ、そうだよ。こちらの方が、月が、より綺麗に見えると思うんだ」


 王子は顔だけを私に向け、柔らかく微笑んだ。


「……はあ。そうなんですか……」


 月の見え方なんて、よくわからないけど……。

 城内のことは、王子の方が詳しいに決まってるから、素直について行く。


 一階上がると、更に上へと続く、幅の狭い階段が、右側の奥の方に現れた。そこも、王子は無言のまま上って行く。



 ……く、暗い……。



 灯りは、壁に備え付けてある小さなランプだけだから、足下が薄暗く、歩きにくいったらない。


 しかもこの階段、どこまで続くんだろう?


 前を見ると、延々と続く螺旋(らせん)階段だけが目に入り、げんなりしてしまう。

 それに加えて、目的地がわからないという不安で、歩いてる時間が、やたら長く感じられた。



「大丈夫? 一人で歩くのが大変なら、無理せず、私の手を取ればいい」


 そう言って、王子はまた、私の前に手を差し出して来た。

 私はぷいっと横を向き、頑として、その申し出を断った。


「大丈夫ですっ! このくらい、一人で歩けますから!」

「しかし……。その長いドレスでは、歩きにくいだろう?」


「それは……確かに、歩きにくいですけど……。でっ、でも平気ですっ! 転ぶようなヘマはしませんから、ご心配なくっ!」

「……そう? ならばもう少し、頑張ってもらおうか」



 ……あ。

 この人、また笑ってるな?


 前を向いちゃったから、顔は確認出来ないけど……肩が小刻みに震えてるもん。

 ぜーったい、笑ってる!


 ……まったく。

 どこまでも、人のことバカにして……。



 意地でも転ぶまいと、私が必死に足下を見つめ、用心深く上ってると、


「ああ、やはり。……今夜は月が綺麗だ」


 しみじみとした王子の声につられ、顔を上げた。


「わあ――!……ホントに、綺麗……」



 月は大きくて、青白く光ってて……なんだか、幻想的で素敵だった。



 しばらくは無言のまま、二人で夜空の月を見上げてた。


 柔らかい風が、ふうわりと髪を揺らす。

 その心地よさに、うっとりと浸りたくなったけど……そうのんびりもしてられない。



 私は王子を見上げ、思いきって切り出した。


「……で? 私をこんなところに連れて来た、本当の目的は何なんです?」

「本当の目的?……何のことだい?」


「ごまかさなくてもいいですよ。みんなの前だと、言いにくい話があったんでしょ? だから、散歩だとか適当なこと言って、私を連れ出したんですよね?」


 王子は目を見張り、少しの間、無言で私を見つめ返していた。

 ふいに、『やれやれ』とでも言う風に肩をすくめ、


「……参ったな。君には全てお見通しというわけか」


 体をこちらに向け、にこりと笑う。


「でも、君と夜空を見上げたいと思ったのは、本当だよ。――それは信じて欲しい」


 『信じて欲しい』のとこで、瞬時に真剣な顔つきになり、私を意味ありげに見つめ……。


「うっ。……ど、どーでもいーです、そーゆーことは! それより、さっさと本題に入ってくださいっ」


 急激に顔が熱くなるのが、自分でもわかった。

 でも、ここで顔を(そむ)けたら、負けのような気がして……私は必死に踏ん張って、真正面から、王子の顔を睨み据えた。



 まったくもう!

 いちいち、妙な色気出さないで欲しいんだけどっ!


 ……どーゆー反応していーんだか、わかんなくなっちゃうじゃない……。



「困ったな。そんな目つきをされると……。本題と言っても、そう改まったことではないんだ。先程までの話の、続きと言うか……。もっと、君のことを教えてもらいたいと思ってね」


「……私のこと?」

「そう、君のことを。たとえば……君の世界の話とか」


「私の世界の……」



 ……って言われてもなぁ……。

 どの辺りから……どの程度のことを話せばいいのか……ってことすら、わかんないや。

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