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桜咲く国の姫君~神様の気まぐれで異世界に召された少女は王子と騎士見習いに溺愛される~  作者: 咲来青
第4章 ルドウィン国の王子

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第20話 神の恩恵を受けし者

「う~ん、私の世界の話かぁ。それは難しい質問ですね。えーっと……。あ、そーだ!」


 私は両手を打ち合わせて、王子を見上げた。


「まずは、王子が質問してください。何が訊きたいですか?」

「え? 私から質問を?」


「ええ。一問一答(いちもんいっとう)って感じにしてもらえたら、こっちとしても答えやすいですし」

「ああ、なるほど」


 王子は納得したようにうなずいた。


「では、そうだな……。君の世界とこの世界とでは、何か、大きく違う点はあるかい?」

「大きく違う点? そりゃーありますよ、もちろん!」


 私は思わず(こぶし)を握り締め、前傾(ぜんけい)姿勢で叫んでしまった。


「へえ……。たとえば、どんな?」

「そうですねぇ……。あっ、そうそう! セバスチャンですよ、セバスチャン!」


「セバス?」

「ええ、そうです。セバスチャンみたいな生き物を、私の世界では鳥って言うんです。でも、セバスチャンみたいに大きくなくて。……あ。でも、ダチョウなんかは大きいか……」


 私は一瞬、考え込んだ。


「えっと、セバスチャンにそっくりな鳥はいるんですけど、でも、もっと小さくて……。確か、三十センチくらい――っても、わかんないかな? 大きさの単位って違うのかもだから……えと、このくらいの大きさで」


 仕方ないので、両手でおおよその大きさを示す。


「何より違うのは、人間の言葉を話したりはしない、ってことです。私達の世界の鳥は、教えたりすれば、数種類程度の言葉とか歌とか、発するようにはなるんですけど、セバスチャンほど、ハッキリ話すことは出来ないってゆーか……。えっと、人の言葉を正確に理解したり、自分の感情を言葉にして伝えることは、出来ないんじゃないかな?」



 実際に理解出来てるかどうかは、鳥に訊いてみなきゃわからないことだから、一応ぼかしておく。



「とにかく、セバスチャンみたいな生き物は、私の世界にはいません! どこ探しても!」

「セバスのような生き物か。それは、わかる気がするな。この世界でも、セバスのように人に近い存在は希少だからね」


「えっ、そうなんですか?」

「ああ、そうだよ。セバスのような生き物は、私の国では、『神の恩恵を受けし者』と呼ばれている」


「神の恩恵を受けし者?」

「神の恩恵を受けし者は、生まれた時から、あのような姿をしているわけではないんだ。ある日を境に、人並みの知能を与えられ、人語を話し出すらしい」


「ある日を境に!? いきなり巨大化して、人の言葉話すようになっちゃうんですか!?」


「という話だが……。私も、動物が『神の恩恵を受けし者』に変化するところを、直接この目で見た経験はないからね。実際のところはわからないんだが……。ただ、セバスやウォルフから聞いた話だと、そんな感じだったらしい」


「うぉるふ?」

「ん?……ああ、君が知っているわけがないか。私の城にいる『神の恩恵を受けし者』だよ。彼もセバスのように、国に仕えてくれているんだ」


「へえー。王子の国にも、セバスチャンみたいな生き物が……」



 そっかぁ……。

 なんかちょっと、会ってみたいかも。



「でも、いきなりあんな風になっちゃうなんて、不思議ですよね。えっと、その、『神の恩恵を受けし者』ってものに変化するには、特別な条件とか、あったりするんでしょうか?」


「え? 特別な条件?」

「はい。――だって、そんなものでもなければ、鳥さん達が次から次へと、セバスチャン化してっちゃうような気がしません?」


「セバスチャン化?」


 王子は一瞬ぽかんとして……それから、口元に手を当てて吹き出した。


「『セバスチャン化』って……。君は本当に、面白い表現をするね」



 ……え。

 そ、そーかな?


 特に、面白い言い方をしたつもりはないんだけど……。



「そうだな……これが条件かどうかはわからないが、もしかしたら、〝長生きすること〟……だろうか」

「――へ? 長生き?」


「ああ。君は、セバスの年齢は知っているかい?」

「え……。あ、ああ――。訊いた時は、『百は過ぎてる』って、言ってたと思いますけど……」



 自分でもわからなくなるくらいなんだから、かなり長生きには違いないよね?



「それは多分、変化した後のことを言っているんだろうな。セバスだけではなく、他の数少ない『神の恩恵を受けし者』の例を()げてみても、変化前、彼らは百年以上は生きていたそうだから」


「ひゃ――っ、百年以上!?……ってことは、変化前、(すで)にみんな、百歳超えてた……ってこと?」



 し……信じらんない。

 人間だって、そこまで生きるのは難しいのに……。



「じゃあやっぱり、『神の恩恵を受けし者』になるための条件は、長生きってことか……」



 なんかそれって……猫が化け猫に変化する条件と一緒、って気がするなぁ。

 もしかして、『神の恩恵を受けし者』って……つまりは、えーっと……。



 …………妖怪?



 そこまで考えて、私はハッと我に返った。



 まさか!

 セバスチャンが妖怪なんて! 


 そんなの絶対、あり得ないよ!



 でも……もし、仮にそうだったとしても……。

 あんなに可愛い妖怪なら、全然問題ないよねぇ?



「うん、そーよっ! やっぱりそーよねっ! 世の中には、『可愛いは正義』って言葉もあるくらいだしっ!」


 両拳を握り締め、思わず叫んでいた。

 王子は目を瞬かせて、


「ええと……。今のはいったい、どういう意味だい?……可愛いは……正義、だったかな?」

「えっ?――あ、いえ! な、なんでもないです! なんでもっ!」



 あ……あははは……。


 私ってば、可愛いものに弱いから……。

 つい、力入っちゃった。



「え~っと、それで……次の質問は?」


 さっさと話題を変えて、気をそらそう。


「ああ、そうだったね。それでは……君の世界の食物と、ここの食物とでは、何か違いはあるかい?」

「食物……ですか?……ん~……、今日の夕食を見た限りでは、思ったほど、大きな違いはなさそう……ですけど」


「へえ、そうなのか。それはよかった」

「でも、まだ一食分見ただけですし……よくわかりません」


「うん。それはそうか。君がこちらに来てから、まだ一日も経っていないんだったね」

「はい。だから、明日の朝食がどんな感じなのか……期待と不安が半々、って感じなんです」


「朝食か……。君は食べることが好きな方かい? それとも、口に入れば何でもいいという――」

「食べるの大好きですっ! 特に、安くて美味しいものが! 食べてる間はもーう、それだけですっごく幸せですっ!」


 (かぶ)せ気味に言い切ると、王子はくつくつと笑いながら、


「だろうね。夕食時の君を思い返せば……それは即座に納得出来るよ」


 などと、意味ありげな視線を送って来た。



 う……マズイ。

 めちゃくちゃ食い意地張ってる子だって、思われちゃったかな……?


 ……ま、まあいーけど!

 王子に、どー思われたって。



 私は少しムッとしながら、その視線から逃れるように横を向いた。


「おや? もしかして、怒らせてしまったかな?――気を悪くしたなら、申し訳ない」



 心配してるようなセリフではあるけど、王子の態度は、相変わらず余裕たっぷりで……。

 なんだか、余計にムカついた。



「ホントにそう思ってます? 絶対、悪かったなんて思ってませんよね?」


「そんなことはないよ。君を傷つけるつもりなんてなかったんだ。……ただ、どの料理も美味しそうに食べていた君を、ふいに思い出してしまったものだから……。あの時の君、とても可愛かったよ。サクラ」


「――っ!」


 再び名前を呼ばれ、王子に極上の笑顔を向けられたとたん、私の心臓は大きく跳ね上がった。

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