第18話 ザックス王国のディナー
……え。
これだけ……?
テーブルに並べられた料理を見て、まず最初に抱いた感想は、そんなものだった。
だって……姫様が食すものって言ったら、豪華で高価で、食べきれないほどの品数や量があって……って感じだと思ってたのに。
目の前にあるのは、パンみたいなものと、スープみたいなものと、チーズみたいなもの。それから、淡いトパーズ色した飲み物(ジュースかな?)だけだった。
これは……量が少ないのも気になるけど、栄養バランス的にも、どーなんだろ……?
「え……っと……。夕食っていつも……こんな感じなの?」
「――は? こんな感じ……と申されますと?」
「だから、その……パンみたいなこれと、スープみたいなこれと、チーズみたいなこれと……あと、飲み物?――これで全部?」
それぞれ食器を指差しながら、セバスチャンに訊ねる。
「はい。ご夕食は、毎日このようなメニューでございますが……」
「……そぉ……なんだ……」
……うぅ……。
育ち盛りの高校生に、毎日これだけってゆーのは……ちょ~っと辛いかも。
「あの……何かお気に召さないものが、ございましたでしょうか……?」
常に控えめなエレンさんが、珍しく言葉を発した。心配そうに、私の様子を窺っている。
「あ――。ううんっ、違うの! 気に入らない、とかじゃないんだけど……。ただ、私の世界での夕食とは、結構違うんだな~……って、ちょっと思っちゃっただけなの!――うん。それだけだから、気にしないで?」
「え――!……あ、あの……『私の世界』……とおっしゃいますのは……」
……ん?
どーしたんだろ、エレンさん? 王子の方をチラ見しては、私に何か言いたそうに……。
……って、ああ! そっか!
二人にはまだ、説明してなかった。
「大丈夫だよ、エレンさん。王子には、私が姫様じゃないってこと、とっくにバレてるから」
「「――えッ!?」」
今度はアンナさんも加わっての、二重奏。
「ば、ばれてるとおっしゃいますと……その、あの~……。も、問題ございませんのでしょうか……?」
心配そうなアンナさんに、私は笑ってうなずいた。
「うん。大丈夫みたい。王子ってば、思ってたよりずーっと、話のわかる人だったよ」
「……さ……さようでございますか……」
ホッとしたような表情を覗かせつつ、アンナさんもエレンさんも、まだ少し不安そうだった。
二人が心配するのも、無理ないと思う。
だって、下手したら、国際問題にだってなりかねないんだもんね。
でも、今はそんなことより、食事食事っ!
お腹空き過ぎて、もー限界なんだからっ!
「じゃ、いっただっきまーっす!」
両手を合わせてから、まずはスプーン(ここでもそう言うのかは不明)を手にして、スープを口へと流し込んだ。
……おっ? なかなか美味しい!
スープって言うより、ポタージュって感じかな?
具はどれも小さくて、いったいどんな食材なのか、イマイチわかんないけど……。
でも、マズイって感じるものは全然なくて、ちょっと安心した。
次に、パン(見た目はまさにパン)を一口大にちぎって、口の中へと放り込む。
――おお!
これもなかなか、私好み。
かなり素朴な味なんだけど、外はカリッと、中はふわふわ~。
噛み締めると、意外にもちもちっ!――って感じもあって、めーっちゃ美味しい!
じゃあ、このチーズっぽいのはどーかな……?
手を伸ばしたところで、幾人かの視線を感じ、ハッとして固まる。
そうっと顔を上げ、恐る恐る周りを見回すと……。
目の前に座っている王子は、まだ食事に手をつけていないみたいで、唖然とした顔で私を見つめている。
セバスチャンもアンナさんもエレンさんも、王子と同じような顔をして、私を凝視していた。
……う。ヤバイ。
私、この世界では非常識とされるようなこと……しちゃったのか、な?
「えっ……と……。私の食べ方……何か、マズかった?」
ビクビクしつつ訊いてみると、みんな一瞬、ハッと目を見開き、慌てて首を横に振った。
「いや。夢中になって食べているものだから、思わず見入ってしまっただけだよ。そこまでお腹を空かせていたとは……。気がつかなくて悪かったね」
「…………」
うぅっ、めっちゃ恥ずかしい……。
つまりは、『ガッついてた』ってことだよね……?
「ご、ごめんなさい。もうちょっと、落ち着いて食べます……」
「いいんだよ、遠慮しないで。正直なのは、悪いことではないしね」
グラスを顔の前にかざし、王子は私にウィンクする。
だからやめてっ、そーゆーキザなことするのは!
慣れてないから、恥ずかしいんだってばっ!
私は王子の方を見ないようにしながら、黙々と料理を食べ進めた。
――と、それはさておき。
姫様に仕えてる人達って、そーゆーものなんだろうな~とは思うけど。
食事してる間中、ずーっと横で、立ったまま控えているセバスチャン達が、気になって気になって仕方ない。
「……ねえ、セバスチャン?」
「はい?」
「セバスチャン達は、ここで一緒に食べないの?」
思いきって訊ねたら、セバスチャンはまん丸な目を、更に大きく見開いた。
「ピャヒャッ!?……ななっ、何を突然申されます!? 私どもと姫様とでは、身分が違います。ご一緒になどと、あり得ません!」
「でも、私は姫様じゃないし。ここに国王様がいるってゆーなら、話は別なんだろーけど、いないんだから、べつにいいんじゃない?」
「それは……。しかしですな。ギルフォード様もいらっしゃるのでございますから――」
「ん? 私はべつに構わないが?」
「ピギャッ⁉……ま、またしてもそのようなお戯れを……。ギルフォード様まで、無理をおっしゃられては困ります」
「無理? どーして無理なの? 王子もいいって言ってくれてるんだから、みんな一緒に食べようよ」
「なりませんッ!!」
「え~っ? どーしてー?」
「どうしても、でございます! ご主人様と使用人が、共にテーブルを囲むなど……とんでもないことでございますぞ?」
「とんでもないって……何がとんでもないの?」
「むむぅっ――。……と、とにかくですな、ならぬものはならぬのです! この国のしきたりですので……。サクラ様も、どうかご理解くださいませ」
セバスチャンも頑固だなぁ……。
まあ、困らせたいワケじゃないし。
この国にはこの国の、ルールってものがある……ってのも、わからなくはないんだけど。
私の感覚じゃあ……慣れそうもないな、こーゆーの。
食事は、仲の良い人達と一緒に、お喋りしながら――ってのが、一番楽しいと思うもん。
……高貴な身分の人達って、ホント、窮屈でめんどくさいわ……。
みんなで楽しくディナー……というのは、渋々諦めて。
その後の私は、ひたすら食べることに専念した。




