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桜咲く国の姫君~神様の気まぐれで異世界に召された少女は王子と騎士見習いに溺愛される~  作者: 咲来青
第4章 ルドウィン国の王子

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第11話 油断ならない人

「君……どうかしたのかい? 難しい顔をして黙り込んで」


 王子の声で、ハッと我に返る。



 いけないいけない。

 姫様がこのまま帰って来なかったら、この国はどうなっちゃうんだろうとかって考えてたら、つい……。



 私は慌てて首を振り、作り笑いを浮かべた。


「い、いえっ! なんでもないです! すみません、ボーっとして……」

「ボーっとしていたと言うより、何か考え込んでいるように見えたが……」


「そっ、そんなことありませんよ! 考え過ぎです。王子の考え過ぎっ」

「……まあ、言いたくないのであれば、それでもいいよ。こう見えても私は、気が長い方だから」


 引きつり笑いの私と違って、満面の笑みで返す王子に、私はぐっと詰まってしまった。



 ……ぬぬぅ。

 信じてないな、これは……。


 やっぱりなんか……やりにくいなぁ、この人……。



 そんなことを思いながら、張り付いた笑顔で王子を見上げていると。

 ノックの音が響いて、反射的に振り返る。


「さく――……ひ、姫様。入らせていただいてよろしいですかな?」

「セバスチャン? うん、いいよ。入って!」


「失礼いたします」


 部屋に入るなり、セバスチャンはトテトテと近付いて来て、私達にペコリと頭を下げた。


「申し訳ございません! あれこれと各方面に申し付けておりましたら、遅くなってしまいました。――さ、さく――姫様。よく効くお薬を持って参りましたので、傷口にお塗りくださいませ」


 恐縮しつつ、すっと薬を差し出す。


「ああ、いいのセバスチャン。傷ならもう――」

「ありがとう、セバス。もう顔を上げていいよ。――それより、薬は私が塗ってあげることにするから、少しの間、あちらを向いていてくれないか?」



 ……へっ?



 私が『もう治ったから』と断ろうとしたら、さえぎるように王子が身を乗り出して来て、またしても妙なことを言い出した。


「は? あちらを向けとおっしゃいますのは……何故(なにゆえ)でございましょう?」


 セバスチャンは不思議そうに顔を上げ、王子の顔をしげしげと見返す。


「リアの爺やと言えども、私以外の男に、彼女の柔肌(やわはだ)を見せたくはないし、婚約者としても、やはり良い気はしないからね。――頼むよ、セバス」


「ピャヒャッ!?」

「な――っ!」


 セバスチャンと私は、同時に驚きと困惑の声を上げた。


「もっ、もも、申し訳ございませんっ! 老いぼれゆえ、そこまで気が回らず……。し、失礼いたしましたーーーっ!」


 慌てたように一礼してから、セバスチャンはくるっと後ろを向いて、トテトテテーーーっと、すごい勢いで部屋の隅まで走って行った。


 私は顔を熱くしながら、王子に抗議してやろうと、胸の前で両拳を握る。(……いや。べつに、ファイティングポーズを取ったつもりはないんだけど)


「おっ、王子!? 何バカなこと言ってんですか! セバスチャンが私の肌なんか見るワケ――」

「いいから! 君も話を合わせてくれないか? 私の力のことは、父と弟、残り数人ほどしか知らないことなんだ。セバスを信頼していないわけではないが……なるべくなら知られたくない」


「あ……。そ、そーゆーことだったんですか……」


 王子に耳元で懇願(こんがん)され、事情を知った私は、納得してうなずいた。



 確かに、王子の能力が多くの人にバレちゃったら、大変なことになっちゃうもんね。

 多くの怪我人が、『私も』『私も』って、ウジャウジャ寄って来ちゃうに決まってる。


 ……でも、王子の治癒能力って、舐めることでしか発揮出来ないものなのかな?

 だとしたら、私みたいな軽い擦り傷ならまだともかく、もっと大きな――重症、って感じの傷口……だったら……。


 ……う。

 思わず、ダラダラの流血シーンを想像しちゃった……。


 王子のその、〝舐めることで傷を癒せる能力〟が、どんなに強力な力だったとしても。

 ……やっぱ嫌だよね、他人の傷口をひたすら舐めて回る、なんてのは……。



「わかりました! とりあえず、セバスチャンには数日、腕見せないように気を付けます。傷が消えてるのがバレたら、大変ですもんね」

「ああ。そうしてもらえるとありがたい。……本当は、数日と言わず……ずっと、誰にも見せて欲しくはないけれど」


「……へ? 傷口……ですか? でも、ホントにかすり傷だったし、あの程度なら、数日で治っちゃうと思いますし……」

「そうではなくて。君の柔肌の方……だよ」


「なっ、や…っ?」


 意味ありげに耳元でささやかれ、一気に赤面してしまう。



 ホントにいったい、なんなのこの人っ!?

 姫様って人がいながら、私にちょっかい出そうってーの!?


 ……って、あ……。

 姫様とは、婚約解消……なんだっけ。


 でっ、でもでもっ!

 たとえ今はフリーだとしても、今日会ったばかりの女子高生に、どーゆーつもりでこんな……こんな恥ずかしいセリフをっ!?



「……ふふっ。可愛いね。耳まで真っ赤だ」

「だ――っ!……っからっ、どーしてあなたは、そーゆー……!」


 私は慌てて両手で耳を(ふさ)ぎ、数歩後ずさって、彼と一メートル以上の距離を取った。



 ……やっぱり、この人苦手だ!

 人のことからかって、遊んでる気がする!


 ……こんな人が、王子様だなんて……。


 姫様は、この人のどこを好きになったんだろ?

 実は、本性知らなかったりするんじゃないの?



 ……でもまあ、とりあえず。

 これからは、なるべくこの人には、近付かないようにしよう。



 心に誓いつつ、私は更に大きく、王子と距離を取るのだった。

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