第12話 セバスチャンに相談
「じゃあもう、セバスチャン呼んでもいいですよね? 王子の力のことは秘密――ってこと以外、話はないんでしょう?」
早くセバスチャンに、間に入ってもらわないと……。
色んな意味で疲れる……すっごい疲れるっ!
「ああ。私の話はそれだけだよ。でも君の方は……どうすればいいのかな?」
「……は? 君の方は……って、どーゆーことですか?」
「君はリアじゃないと、私が気付いてしまったことだよ。セバスに言ってもいいのかい? それとも、騙されたフリをして――君をリアだと思い込んでいるように、振る舞った方がいい?」
「あ、そっか。……どーしよー……」
王子にバレたって言っちゃった方が、姫様のフリしなくて済むし、私としては楽なんだけど……。
でも、セバスチャンの立場からしたらどうなんだろ?
私が別人ってわかっちゃったんだから、次は『じゃあ、姫様はどこに?』って話になるよね?
そんな風に、王子から直接訊かれたとしたら……セバスチャンは、本当のことを話さざるを得なくなるだろうし……。
……って、あれ?
そー言えば……王子って、私が姫様の身代わりをしてることについて、どう思ってるのかな?
どーして、私が姫様のフリをする羽目になったのか、知ってる……ワケないよね?
――うん。だって、その辺りの事情は話してないし。
だとしたら王子は、今、姫様はどこにいると思ってるんだろ?
「あの……王子?」
「――ん? なんだい?」
「えっと、王子は……どーして私が、姫様のフリしてたのか……とか、そこら辺の事情って、わかってるんですか?」
「どうして君が、リアのふりをしていたのか?……いいや。詳しい事情はわからないが――」
……ですよね。
話してませんもんね……。
「ただ、あんなことがあった後だから……たぶん、避けられているんだろう? 私に会いたくないから……リアは君に、代わりに会ってくれるよう頼んだ。違うかい?」
「……え……っと、それは――」
……うぅ、どーしよー……。何て言えば……。
『違う』って言ったら、ホントの理由を訊ねられるだろうし……。
私が返事に困ってると、微かに笑みを浮かべてから、王子は少し寂しそうにうつむいた。
「言いたくないのなら、無理に言う必要はないよ。リアが会いたくないと思っているとしても、それは仕方のないことだ。傷つけてしまったのは、私なのだからね。会う会わないの決定権は、リアにある。こちらが無理強い出来るものではないのだから」
「ちが――っ!」
「……え?」
……違う。
姫様は、王子に会いたくないんじゃなくて、会えないんだよ。
姫様は今……会いたくても会えない場所にいるんだから。
……たぶん、だけど……。
「詳しい事情は、今は言えませんけど……。でも、これだけは信じてください。姫様は、王子に会いたくないワケじゃありません。きっと、会いたいと思ってます。――ううん。絶対会いたいと思ってます!」
「……リアが、君にそう言ったのかい?」
「えっ?……い、いえ……。直接聞いたワケじゃ、ないですけど……」
「だったら、どうしてそう思うの?」
「……どうしてって、それは……」
私は言い淀み、ハッキリさせられない悔しさを、唇を噛んで堪えることしか出来なかった。
「あのぅ……。お薬は、塗り終わりましたでしょうか? そろそろ、そちらを向かせていただいても……よろしい、ですかな?」
私達が揉めていると思ったのか、それとも、薬を塗るだけにしては、時間が掛かり過ぎていると、しびれを切らしたのか。
セバスチャンが、恐る恐る声を掛けて来た。
「あ――! ご、ごめんねセバスチャン!……えっと……あ、あとちょっとだけ待って?」
「はっ、はい! かしこまりました」
いつまでもこうしてるわけには行かないと、私は慌てて王子に向き直った。
「あの……。ちょっとだけ、セバスチャンと話してから、王子にバレちゃったこと、知らせるか知らせないか……決めてもいいですか? 自分の考えだけで決めちゃうのは、マズイと思うんで……」
「ああ、構わないよ。では、その話がまとまるまでは、君をリアだと思っていることにしよう」
「はい。すみません……。じゃ、じゃあ私、セバスチャンと話して来ますね」
「わかった。待っているよ」
ぺこりとお辞儀してから、セバスチャンに小走りで近付く。
「ごめんね、セバスチャン。待たせちゃって」
「い、いいえ! 私こそ、申し訳ございませんでした。配慮が足りず……誠に、お恥ずかしい限りでございます」
……ああ。
まだ、王子に言われたことをまともに受け取って、気にしてたのね……。
まったく、王子も人が悪いんだから。
いくら、セバスチャンに聞かれたくない話があったからって、あんな言い方しなくても……。
彼なら、もっと上手い口実、思い付いただろうに……。
ひたすら恐縮してるセバスチャンを、気の毒に思いながら、私は小さくため息をついた。
「セバスチャン。そんなに気にしなくても大丈夫だよ。王子のあれ、冗談みたいなもんなんだから」
「いいえ! ギルフォード様のお顔は、真剣でございました!……思えば、姫様も今年で十六……。いつまでも、ご幼少の頃と同じような感覚でお仕えしておりました、私が悪いのでございます。……ピュルルルル……」
……ぴゅ、ぴゅるるるるって……。
一応、泣いてるつもりなのかしら?
それとも、ただ鳴いてるだけなのかしら?
この世界の鳥って……ホント、計り知れないなぁ……。
「だからっ、気にし過ぎだってばセバスチャン! 早く浮上して? 私、あなたに訊きたいことがあるの!」
「ピュルルル……ピ?……私に訊きたいこととは、いかなることでございましょう?」
「あの……あのね。もし、私が……王子に正体バレちゃった~って言ったら、どーする?」
セバスチャンは、一瞬、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして、ピタリと固まった。
それから数秒後、フリーズ解除して。
「ば……バレて……。ギルフォード様に、サクラ様が、姫様ではないと……知られてしまった……のですか……?」
「え?――あ、いやっ、そーじゃなくて……。もしもよ! あくまで〝もしも〟の話だってば!」
……なーんて。
実際は、バレちゃってるんだけどね……。




