第9話 消えた傷痕
何者って……。
さっき自己紹介はしたはず、だよね?
……もう忘れちゃったのかな?
「えっと、だから……神木桜ですけど?」
「違う! そうではなくて!――そういうことを言っているんじゃないんだ。君は――!」
「……はい?」
何なに? どーゆーこと?
王子が、何をそんなに驚いてるのか……さっぱりわからないんだけど?
「君は……この王室の血筋の人……なのか?」
「――え?」
「リアの姉とか妹とか……従姉妹とか。親せき筋――リアと多少なりとも、血縁のある人なのかい?」
「えっ?……いえっ、まさかっ! 全然違います!」
「……では、もしや……私の方の?」
王子はそうつぶやくと、神妙な顔をして黙り込んでしまった。
……え~……っと……。
腕、そろそろ離してもらえないかな~……。
体勢は辛いし、王子の様子はおかしいし。
いい加減しんどくなって来て、私は大きなため息をついた。
「――あ。すまない。うっかりしていた」
ため息にハッとしたようで、王子はようやく私の腕を解放してくれた。
「驚かせてしまったね。――だが、私も相当驚かされたよ。君のその……傷の治りの早さには」
「……へ? 傷の治りの……早さ?」
擦り傷を確認するため、腕を上げてじっと見つめる。
「……あれ?」
――ない。
擦り傷があるはずのところに……傷が……ない。
「え? あれっ?……あれれっ?」
私は焦って、腕のあちこちを確認しまくった。
……ない!
ないないっ!
マジでどこにもないっ!!
――え、なんで?
あるはずの擦り傷が、綺麗さっぱり消えてるっ?
「あの……。私、確かにさっき……ここ、擦りむきましたよね?」
「ああ、間違いなく。私もこの目で確かめたからね。錯覚であるはずがない」
「です、よね……。でも、あの……どーしてだか、消えちゃってるんです……けど」
「そのようだね。確認したばかりだから、疑う余地もないだろう」
「……えっと……。でも、治ったにしても……早過ぎます、よね……?」
「ああ。普通の人間なら、あり得ないことだ」
「……です……よね……」
……え?
じゃあ、何? 私が普通じゃない――ってこと?
……でも……でも、変だよ。
だって私、こんなこと初めてだもん。
今までだって、何度も何度も、擦り傷切り傷こしらえて来たけど……傷口がどこにあったかわからなくなるほど、治りが早かったことなんて、一度もなかったよ?
そう……そうだよ!
おかしいのは私じゃない!
私じゃないとすると……。
私はゆっくりと顔を上げ、王子をじっと見つめた。
「ん? どうかした?……何か言いたそうだね」
「そりゃ……だって、おかしいですから……」
私の体に問題がないとすれば。
考えられる原因は、王子しかいない。
王子が……王子が私の腕の傷を舐めたりしなければ……。
もしかしたら、こんなことにはなってなかったんじゃ……?
「おかしい……か。そうだね。確かにおかしい。多少なりとも、血の繋がりのある者同士でしか、あり得ないはずなのに」
え?
……血の繋がり?
……何、それ?
どーゆーこと……?
「君がリアだったなら、これほど驚くこともなかったろうが……。君はリアではない。そうだね?」
「え?――あ、はいっ。もちろん」
「うん……。まあ、仕方ない。こうなったら、本当のことを話そう」
王子はそう言うと、少し困ったように笑った。
「ルドウィンの初代国王は、ザックスの初代国王の実弟だったんだが……この話は聞いている?」
「へっ?……い、いえ……。初耳です」
……なんだなんだ?
唐突に、歴史のお勉強?
「まあ、だろうね。数百年も昔の話だ。二国間の王族に血の繋がりがあると言っても、今となっては、かなり薄まってしまっている。さほど気にすることでもない」
「……はあ……」
「ただ……初代国王には、普通の人間とは違う――何か、特別な力があったようなんだ」
「特別な力?……え……っと……。それって、つまり――」
「具体的にどんな能力だったのかは、よくわからないんだけれどね。伝わっている話では、人の心が読めたとか、大きな石を見つめるだけで動かせたとか、触れることなく物質を破壊することが出来たとか……そんな感じだったかな。まるで神の力だろう?」
……要するに、超能力……を持ってたってことか、初代の国王様は。
「その能力って、どっちにも――お兄さんにも弟さんにも、そなわってたんですか?」
「ああ、そう聞いている。だから……ね。ルドウィン王室とザックス王室には、代々――その手の力を持った者が、生まれることがあるんだよ」
「へえ~……。すごいんですねぇ、王室の人達って……って、えっ!? じゃあ、まさか……王子にも力が?」
「まあ……私の能力は大したものではないが、一応ね。傷を治癒する力が、少々……」
「傷を治癒する!?……はぁ~……なるほど。だから、私の傷も治っちゃったワケですね?」
私が納得したようにうなずくと、王子は複雑な顔をして、静かに首を横に振った。
「いや。それが――そう簡単に納得出来るものでもないんだ。何しろ、私の治癒能力は、血族間でしか威力を発揮しないものなのだからね」
「けつ、ぞく、かん?……ってゆーと、その……」
「血が繋がっている者。――その上、ルドウィンかザックス、初代国王どちらかの血を引く者。……とにかく、ほんの僅かでも、初代両者の血を引いている者でなければ、この力は効かないはずなんだよ」
……初代の国王様、どちらかの血を……引いてる者でなければ、効かない……?
え……えぇええッ!?
そんな……。
じゃ、じゃあ、私も……王室の血を引いてるってこと!?




