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桜咲く国の姫君~神様の気まぐれで異世界に召された少女は王子と騎士見習いに溺愛される~  作者: 咲来青
第4章 ルドウィン国の王子

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第8話 無鉄砲な王子

 私と姫様の事情と言うか、秘密と言うか。

 打ち明けられるようになるまで待ってくれると、王子は約束してくれた。


 でも、ひとつだけ訊いてもいいだろうかとお願いされ、『ひとつだけなら、まあいっか』と、軽い気持ちでうなずくと。


「君は、どういう経緯で、リアの身代わりをすることになったんだい?」


 ものすごくストレートな、そして、もっともと言える質問をして来た。


「……え? えっと、それは……」



 ……どーしよう?

 王子にも、ホントのことを話した方がいい?


 でも、話したところで、信じてくれるのかな?

 セバスチャン達があっさり信じてくれたのが、まず奇跡――って言ってもいいくらいのことだと思うし。



「それは、あの……セバスチャン達が戻って来てからお話するってことじゃ、ダメですか?」


「ダメではないが……。まあ、それはともかくとして。どうして君は、セバスのことをセバスチャンと呼ぶんだい?」


「へっ?……えっと、それは……その方が呼びやすいから、ですけど?」

「呼びやすい?」



 王子はイマイチ納得してないご様子だけど……。


 べつにいーでしょ!?

 執事ったらセバスチャン! セバスチャンなのよっ!


 ……あ、でも、セバスチャンって執事なんだっけ? 私が勝手に思ってるだけ?



 私がつらつらと、どうでもいいようなことを考えていたら、王子はクスッと笑って。


「セバスをセバスチャンと呼ぶことと言い、私を王子と呼ぶことと言い……君は、本気でリアの身代わりをする気があったのかな?」


「……え?」


「身代わりを引き受けるのであれば、リアの性格や身のこなし、歩き方や話し方、周囲の人間に対する呼び方や接し方……一通り覚えておかなければ、すぐに変だと気付かれる。そうは思わなかった?」


「う――っ」



 そ……そりゃそーだけど。

 姫様の性格とかは、前もって聞いてたけど……。


 でもそれはっ、王子が予想以上に早く現れちゃったから、いろいろ覚えたり練習したりする暇がなかったからでっ!



「しょ……しょーがないじゃないですかっ! 王子がこんなに早く来るとは思わなかったし……。準備不足に練習不足は、王子のせいでもあるんですからねっ?」



 ……って、また言っちゃった……。

 王子様に対して、すごく失礼なこと言っちゃってる、よね……?



「そうか。それは申し訳なかった。――だが、私もリアを傷つけてしまったと知って、じっとしていられなかったのでね。後先も考えず、飛び出して来てしまったんだ。……今頃、フレディは大変なことになっているだろうな。悪いことをしたよ」


「……ふれでぃ?」


「弟だよ。フレデリックというんだが、私はフレディと呼んでいる」

「へえ……弟さんですか。でも、大変なことに……って?」


「事情を弟だけに話して、『後は頼む』と飛び出して来てしまったからね。今頃、大変な思いをしているんじゃないかな」


「えっ、弟さんだけに!?……だ、大丈夫なんですか? 王子って、長男ですよね? 次期国王になる人なんですよね? そんな人が、思いつきでふら~っと城出て来ちゃったら、大事件になっちゃうんじゃないですか?」


「思いつきでふら~っと……というのは酷いな。これでもいろいろ、考えた末の行動だったんだが……」


「いろいろ考えて? 王子がお供の人も連れず、真っ暗な道を馬に乗って……ってのが、いろいろ考えた末の行動なんですか!? この国に来る途中で、事故や事件にでも巻き込まれてたら、それこそ大問題でしたよ!?」


「ははっ。大丈夫だよ。そんな大事にはならない。これでも、剣の腕には自信があるんだ。数人の野盗に取り囲まれたところで、どうということもないよ。城に関して言えば……フレディは控えめな性格ではあるが、やる時はやる男だし、とても優秀だからね。父上――陛下や重臣を説き伏せることなど、お手の物なんだ」



 ほ……ホントかなぁ?

 かなり呑気に構えてるけど……。


 でもまあ、優秀な弟さんがいるなら、問題ない……のかな?



 とにかく王子は、弟さんのことを心から信頼してる、ってことだよね……。



「仲いいんですね、弟さんと」


 私は一人っ子だから、羨ましくって、思わず笑みがこぼれてしまう。

 王子は一瞬、驚いたような顔をしてから、ふっと笑って。


「……そうだね。仲はいい方だと思うよ。母親は違うんだが、幼い頃からよく(なつ)いてくれていたしね……」



 え……。


 そっか。お母さん、違う人なんだ……。



「あの……ごめんなさい。私、立ち入ったこと――」


「どうして謝るんだい? 腹違いの兄弟なんて、珍しい話でもないだろう? 父親が国王というのなら、尚更ね。それに、本当に私とフレディは仲がいいんだよ。嘘だと思っているのかい?」


「いえっ、嘘だなんて思ってません! 私は兄弟いないから、羨ましいな……とは、思いましたけど」


「……そうか。まあ、兄弟もいろいろだと思うけれどね。幸い、私達は上手く行っているが……中には、互いの存在を(うと)ましく思っている兄弟だって、いるかも知れないよ?」


「えっ。……あ……そっか。……そうです、よね……」



 歴史上にだって、仲悪かった人達、結構いるわけだし……。

 世の中、仲の良い兄弟ばかりじゃないんだよね。


 ……でも、なんだか……。

 悲しいなぁ、そーゆーのって……。



「ところで、腕の具合はどうだい? まだ痛む?」

「……へ?……あ、あぁ……。いえ、もう全然。痛くもなんともないです」



 唐突に訊かれたから、一瞬、何のことか思い出せなかった。

 腕に擦り傷こしらえちゃったんだっけ。



「セバスが薬を持って来ると言っていたが、かなり遅れているようだね。傷の具合を確かめたいから、見せてもらえるかな?」


「そうですよね。セバスチャン、よく効く薬があるとか言っ――て――……え?……え? 傷の具合……って?」


「腕の傷だよ。傷の具合を確かめたいから、腕を出して」

「え……いやっ、大丈夫です! ホントにもう、これっぽっちも痛みませんし!」


「ダメだよ。どんなに浅い傷でも、軽く見ちゃいけない。膿んでしまったら大変だ。――ほら、見せてごらん?」


 王子は片手を差し出し、私の方へ歩み寄って来る。


「いえっ! ホントのホントに、大丈夫ですからっ!」


 私は慌てて両腕を後ろに回し、王子に見えないように傷を隠した。


「まったく、強情だな……。いいから、ほらっ」

「ちょ――っ! お、王子!?」


 強引に腕をつかまれ、私はギョッとして声を上げた。

 王子は自分の顔の前に私の腕を持って行くと、また肘辺りまで袖をまくる。


「……ああ、よかった。血は止まっているようだ」

「だから大丈夫だって言ったじゃないですか! わかったら離してください!」


「うん。しかしこれでは、乾いた血が邪魔をして、傷口が見えない……」

「――ッ!?」


 止める間もなく、王子は私の腕に唇を当て、傷(あと)をひと舐めする。


「ひぁ――ッ!」


 くすぐったくて、思わず声を上げてしまった。

 それでも王子は、舐めることをやめようとしない。



 ホントに……この人は……まったく……いったいぜんたい……。


 何考えてるのぉおおおおーーーーーッ!?



 私が固まってる間にも、王子は傷口に唇を当て、傷痕をなぞるように舌を()わせていた。

 そして、しばらくしてから唇を離し、


「……よし。血は全て舐め取っ――」


 そこで言葉を切ると、『信じられない』とでも言いたげな顔で、私の腕を凝視する。



 ……んん? どーしたんだろ?

 今度は王子が固まってる。



 腕をつかまれたままの沈黙状態に耐えられず、


「あの……どうかしました?」


 恐る恐る訊ねたら、王子はゆるゆると顔を上げ、私をじっと見つめて。


「……君は……。君はいったい……」

「え?」


「何者なんだ――?」



 ………………はい?



 王子の質問の意図がわからず、私はきょとんとして首をかしげた。

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