第6話 白状します!
「……え?」
『目の前にいるのがリアだったら』――?
『残念ながら、今は不在のようだし』――?
……って、まさかこの人……?
「この国では、王を継ぐ者は男であれ女であれ、ある程度は剣術を身につけていなければいけない決まりなんだが……リアは剣術どころか、機敏に動くことすら出来なくてね。いつも一人で泣いていたよ」
王子はそこまで言うと、私を鋭い目つきで見つめ、更に続けた。
「それに比べて、先ほどの君の俊敏な身のこなし。……実に見事だった。あそこにいたのが君でなければ、アルフレドは確実に踏みつけてしまっていただろう」
う――。
な~んだ。怪しまれるどころか、最初っから別人ってバレてたのね……。
でも、どーしよう?
ここで潔く、『偽物です』――って、白状しちゃった方がいいのかな?
それとも、セバスチャン達が戻って来るのを待って……相談して決めた方がいいのかな?
……うぅ~ん……。
みんなが来るまで時間稼ぐ――なんてこと、私に出来るんだろうか?
この王子、思ったより手強そうだしなぁ……やっぱ無理かなぁ……。
「どうしたんだい? 急に黙り込んでしまったね。次の戦略を試してみてもいいんだよ? 言い返したり、しらばっくれたり、ごまかしたり――散々悪あがきしたあげく、最後には泣き落とし……とかね。何かしら用意してあるんだろう?」
「な…っ! 誰が泣き落としなんか! するワケないでしょ、そんなことっ!」
「そう?――それは残念。見てみたかったのに、君の泣き落とし」
……ニコニコ……いや、ニヤニヤ? ニマニマ?……ヘラヘラかな?
――って、どの擬態語がふさわしいかなんてことは、この際どーでもいーんだってば!
とにかく、ハッキリとは形容しがたい笑みを浮かべながら、王子は私をからかってるんだか挑発してるんだか、よくわからないような発言をした。
お言葉どおり、何か言い返して、最後の悪あがきをしてやろうかとも思ったんだけど……。
……ダメだ。
この王子には、絶対勝てない。
本能だか直感だかでそう悟った私は、早々に白旗を揚げることにした。
「あーもう! わかった! わかりましたっ! 白状すればいいんでしょ?」
私はテーブルをバシバシ叩いてから、王子を睨んで言い放った。
「あなたが疑ってるとーり、私はリナリア姫じゃありません! ただの一般人で、平民で……おまけに、この世界の人間でもない、ごく普通の高校一年生! 名前は神木桜!……どう? これで満足っ!?」
……私、なんでこんなにムカムカしてるんだろ?
王子の態度が気に入らないから?
嘘があっけなくバレて、悔しいから?
……それもあるけど……。
これでもう、ここにはいられなくなるかも知れない……ってことが、嫌なんだと思う。
嫌ってゆーか、怖いのかな……。
せっかく、セバスチャンとも、アンナさんやエレンさんとも……カイルさんとも知り合えたのに。
私が偽者だって国王様に知れたら……きっともう、ここにはいられなくなる。この見知らぬ世界で……ひとりぼっちになっちゃう。
それがとても……怖いんだ。
……うわ、ヤバイ。
いろいろ考えてたら、なんだか悲しくなって来ちゃった。
私は慌てて立ち上がると、スタスタと窓辺に歩み寄った。
……べつに、窓の外が見たかったワケじゃない。涙がこぼれそうになっちゃったから、一時、避難しに来ただけだ。
だって……泣き顔なんて、絶対誰にも見せたくない!
「突然立ち上がって……どうしたんだい? 窓の外に、何か気になるものでもあるのかな?」
――って、いつの間にか王子の気配が真後ろにっ?
その上、かなり接近してるっぽいんですけどっ?
「な――っ、なんにもありません! だからさっさと離れてくださいっ! 今すぐにっ!」
「……酷いな。さすがに、そこまで強く拒絶されるとは思わなかった。……でも、そう言われると……逆に近付きたくなってしまうな」
そう言うと、王子は突然、後ろから抱き締めて来た。
「――っ!」
私はめちゃめちゃ驚いて、首の下辺りで交差してる腕を、必死に両手で引き離そうとしたんだけど……。
「ちょ…っ! 何するんですかっ? 私は離れてって言ったんですっ!」
「フフッ。……だから、そう言われるとますます……こうしたくなってしまうんだ」
抱き締めている腕に、力が加わる。
「な――っ!……なんなんですかいったい!? 私は、リナリア姫じゃないんですよっ?」
「うん。それはさっき聞いたよ。……それに、リアにはこんなことしないし、したいと思ったこともない」
「――え? それって、どーゆー……?」
からかって、抱き締めたりはしない――って意味だよね?
だって……少なくとも、ちょっと前までは婚約者だったんでしょ? 好きって気持ちがあったから、婚約してたんでしょ?
……そりゃ、何の拘束力もない……ただの口約束みたいなものだって、セバスチャンは言ってたけど……。
それなら尚更、好きじゃなかったら婚約なんて……最初っから、しなければいいってだけの話じゃない?
王子は……その話が出た時、いったいどういうつもりでOKしたの?
「リアは私にとって、妹のような存在だからね。いつも、心細そうに縮こまっていた彼女を、守ってあげなければと思っていた」
……妹?
守ってあげたい――じゃなくて、守ってあげなければ……なの?
妹のような人と……結婚する気でいたの?
……わからない。
王子の気持ちが……全っ然、理解出来ない!
「それって何? その気持ちって……もしかして同情? それとも義務感?……そんな……そんな中途半端な優しさで、結婚決めるってどーゆーことよっ!?」
相手は身分の高い人だってわかってたけど、思わず、非難めいたことを口走っていた。
だって……姫様の気持ち考えたら、堪らなかったんだもん……。
「中途半端な優しさ、か……。確かに、君の言う通りだ。……いつかは、妹以上に思える日が来るかも知れないと――自分に言い聞かせるように、リアに接して来た。だが、結局私は――」
「……結局、妹以上には思えなかった。だから、婚約破棄を……?」
「ああ、そうだ。このことは、頃合いを見計らって、直接自分から伝えるつもりだった。しかし……父は父で、気を利かせたつもりだったんだろう。私が結婚をためらっていることを、クロヴィス王へ伝えてしまった。私はそれを聞き、急ぎザックスまで馬を走らせた――という訳だ」
王子は淡々と、これまでのいきさつを告げた。……本当に、淡々と。
それで私はカッとして、しつこく首元に居座り続けてる王子の腕に、思いっきり噛みついてやった。
「――ッ!」
一瞬、腕が離れた隙に、私は王子に向き直り、両手で力いっぱい突き飛ばした。
「姫様は本気で! ホントに、あなたのことが好きだったのに!……私は会ったことないけど……でも、みんなの話聞かせてもらったから、わかる。姫様は、ずっと孤独で、寂しくて……。でも、あなたに恋をしてから、その孤独が、少し癒えたんじゃないかな? あなたを一生懸命想うことで、心の空っぽの部分を、埋めてくことが出来たんじゃないかな?……なのに、そんな姫様に……あなただけを心の拠り所にしてた姫様に、いきなり妹としか思えないとか婚約破棄とかって、酷過ぎるよ! 期待持たせるだけ持たせといて、やっぱりダメでした――なんて、そんなのあんまり、勝手過ぎるじゃない!」
堪えたかったけど、ダメだった。
涙が勝手に……次から次へと溢れて来て、止まらなかった。
……屈辱だ。
今まで一度だって、人前で泣いたことなんてなかったのに……。




