第5話 王子と二人きり?
私達が城に戻ると、城中あちらこちらで大パニックになったらしい。
……まあ、無理ないよね。明日来ると思ってた王子が、いきなり現れちゃったんだから。
しかも王子ときたら、歩けるって散々言ってるにもかかわらず、半ば強引に、私をお姫様抱っこしたりしてて……。
……うぅっ、恥ずかしい……。
どーしてこの人はこう――めっちゃ恥ずかしいことを、いとも平然と出来ちゃうんだろう?
……王子様だから?
王子様って、みんなこんな感じなの?
だとしたら私は……王子様ってゆー人種とは、一生お付き合いなんかしたくない!……かも……。
「サクラ様!――じゃなかった、姫様! いかがなさいました!? もしや、お怪我を――?」
アンナさんもエレンさんも、私に夕食を運んで来てくれたところだったらしく、部屋の前で私の姿を見つけると、慌てて駆け寄って来た。
「ううん。怪我って言っても、かすり傷なの。しかも腕!……歩けるからいいって言ったんだけど、王子が……」
「王子?……あ! 貴方様は――」
私を抱き抱えてるのが王子とは、夢にも思ってなかったらしい。アンナさんもエレンさんも、そうと知った途端、サササササッと後ろに下がり、深々と頭を下げた。
「もっ、申し訳ございませんっ! ギルフォード様がいらっしゃることにも気付かず、とんだご無礼を――!」
……うわ。二人とも、手が震えてる……。
やっぱりこの人、ホントに王子様なんだなぁ……。
「こちらこそ、突然の来訪で驚かせてしまって、申し訳なかったね。無礼は私の方なのだから、君達が謝る必要はないよ。さあ、顔を上げて」
王子が告げると、二人はこっそりと顔を見合わせ、恐る恐る顔を上げた。
「どうやら、リアは食事の時間のようだね。今頃、私の分も用意しようと、料理人達は慌てているのだろうが……。私は軽いもので構わないからと、伝えてもらえるかな? 急に来てしまったこちらが悪いのだから、過剰なもてなしは必要ないとね」
「は、はいっ! かしこまりました!」
二人はぺこりとお辞儀をすると、大慌てで去って行った。
「……さて。ここはリアの部屋のようだし、もう大丈夫かな?」
二人を見送ると、王子は私に顔を向け、にこりと微笑んだ。
「だから、最初から大丈夫だって言ってます! さっさとおろしてください!」
ムッとして言い返すと、王子はくすくす笑い、ようやくその腕から解放してくれた。
……さて、これからどーしよう?
セバスチャンは、あっちこっちの動揺を静めるためと、これからのことを指図するために、城中を飛び回ってるし……。
アンナさん達は、王子の分の夕食を用意するために、戻って行っちゃったし……。
……うぅ~ん……。
いつまでもこんなとこで突っ立ってるのも、変だってのはわかってるけど……。
部屋の中で、王子と二人きりってゆーのもなぁ……なんか気まずいしなぁ……。
「リア? 何を一人でそわそわしているんだい?」
「な――っ! べつに、そわそわなんてしてませんっ!」
「……そう? ならいいけれど」
くすっと笑った後、王子は腕組みして壁にもたれ掛かった。
な――っ、何なのよこの人!?
さっきから、まるでからかってるみたいに……。
馬に乗ってる時は、あんなに真剣な顔して謝ってたくせに……。
「それで? 私はいつまで、ここでこうしていればいいのかな?――私を部屋に入れることを、ためらうのもわかるが……。長い間、馬を飛ばして来たのでね。疲れているんだ。出来れば、部屋で休ませてもらえるとありがたいんだが――」
……う。
そこまで言われちゃうと……入れないワケにも行かなくなって来ちゃうじゃない……。
「……ごめんなさい、気が利かなくて。……じゃあ、どうぞ……」
私はドアを開けると、王子に部屋に入るよう促した。
「ありがとう。レディの部屋に入るのは、少し気が引けるが……。まだ、来客用の部屋の支度が済んでいない、ということだから……仕方ないよね?」
王子はそう言って満足げに笑うと、部屋の中に入った。
……なんだろう。
なんだかわからないけど、妙な違和感……。
王子って、最初からこんな感じの人だったっけ……?
「どうしたんだい、リア? ドアを開けたまま、ボーっと立っていたりして?」
「べっ、べつに、ボーっとなんかしてません!」
「ふぅん……? ならば早くドアを閉めて、ここへ来て座ったらどうだい?」
「…………」
私は無言でドアを閉め、少し警戒しながら、椅子を引いて待っている、王子の側まで歩を進めると、怖々腰を下ろした。
それを確認した後、王子も向かい側の椅子に腰掛け、両手をテーブルの上で組んで、私を真正面から見据える。
「な……なんですか? 私の顔に、何かついてます?」
「……いいや。ただ――今日のリアは、いつもと何か違うな……とね」
「――っ!」
なっ、なんか私……いきなり疑われてるっ?
「何か違うって……ど、どこがですか?」
「――どこが? どこが違うって……それは、君自身が、一番理解していることではないのかい?」
「わっ、……私が? いったい、どーゆーことですか? 意味がわかりません」
「おや、そうかい? そんなはずはないと思うが……」
私から一切視線を外すことなく、王子は意味ありげに微笑んでいる。
私は内心ヒヤヒヤしながらも、何とか平静を装った。
「あなたが何を言いたいのか、私には全くわかりません。……そ、それよりあなたは、ここに、何をしに来たんでしたっけ? 私に話したいことがある――という風に、国王様からは聞いてるんですけど?」
「……ああ、そうだよ。どうしても、直接会って、話がしたかったんだ」
「なら、ワケのわからないことをグダグダ言ってないで、さっさと本題に入ったらどうです? 他の人に聞かれたくない話だとしたら、今が絶好のチャンスですよ?」
婚約破棄の言い訳なんて、ホントは聞くのも鬱陶しいけど……。
でも、姫様を追い詰めた原因が、その話の中にあるのなら……私は、ちゃんと聞かなくちゃいけない。
だって、今は私が――リナリア姫なんだから。
覚悟を決め、まっすぐ見返す私に向かい、王子は薄く笑いながら告げた。
「そうだね。私の目の前にいるのがリアだったら、もちろん、話していただろうが……。残念ながら、今は不在のようだしね。話すのはやめておくよ」




