第13話 浮上した疑惑
「実を申しますと、姫様と国王様は、その……。上手く行っていなかったのでございます」
「……へ? 上手く行ってなかったって、どーゆーこと?」
「ですから、その……親子関係が、と申しますか……」
もごもごと、なんだか煮え切らないセバスチャンを前に、私はショックを受けていた。
親子関係が?
上手く行ってなかったなんて、そんな……。
だって国王様、すごく優しい目で、娘(この場合は私だけど)のこと見てたじゃない。
娘が無事見つかったってわかった時だって、心からホッとしたような……そんな顔してたじゃない。
上手く行ってないなんて……。
そんなぎこちない印象、全然受けなかったよ?
「セバスチャンだって、さっきの国王様見たでしょ? あれが、上手く行ってない娘に対する態度? どう見たって、本気で娘のこと心配してる父親だったよ?」
「はい、それはもちろん。国王様にとって姫様は、この世の誰よりも大切なお方でございますから……」
「じゃあどうして!? どうして親子関係が上手く行ってないなんて言うの!?」
自分でも驚くくらい、大きな声だった。
――セバスチャンが悪いんじゃないのに、思わず、口に出しちゃってた。
……だって。
あの時の国王様は、お父さんの顔が重なっちゃうくらい、父親の顔してた。
心の底から娘を思う、親の顔に見えた。
それなのに……。
親子関係が上手く行ってないなんて、信じられなかったんだもの……。
セバスチャンは、私の声にビクッとした後、困ったように黙り込んでしまった。
でも、すぐにまた、口を開くと。
「サクラ様。国王陛下は、『全能の王』とたたえられるほど、全てにおいてご立派で、有能な方でいらっしゃいます。愛情深く、思いやりに溢れ、亡くなられたお后様のことも、それはそれは慈しんでおられました。……当然、お后様の忘れ形見でいらっしゃる姫様のことも、幼き頃より、目に入れても痛くないと、笑っておっしゃられていたほどの、可愛がりぶりでございました」
「……だったら、何の問題もないじゃない。そこまで可愛がってて、上手く行ってないってことはないでしょ?」
「はい。姫様が六つの年に、あのようなことさえ起こらなければ……国王様も姫様も、お変わりなく、良い関係を築けていたことでございましょう」
「『あのようなこと』?……何、それ? 姫様が六つの時、何かあったの?」
「――はい」
セバスチャンは一拍の間を置くと、再び語り始めた。
「姫様は、今でこそ控えめで、物静かなお方でございますが……ご幼少の頃は、たいそうご活発でしてな。いつも、城中を飛び回るようにして、お一人でも楽しそうに遊んでおられました。城の高い木に、登ったりなどして――」
「姫様が木登り!?……なんか、みんなから聞いてたイメージと、かなり違うけど……」
木登り……。
大人しくて、慎重なはずの姫様が……?
もともとは、おてんばな人だった――ってことなのかな?
う~ん……。
人間って、変われば変わるものなのね……。
「あの日、姫様は、私がほんの少し目を離した隙に、お一人でどこかへ消えてしまわれ……。私も騎士団の者達も、国王陛下までもが、必死に辺りを捜し回りました。しかし、その日は結局、見つけることが出来なかったのです。……あの時の国王陛下は、側で見ているのも辛くなるほどの、取り乱しようでございました」
「……姫様、小さい頃――六歳の頃って言ったっけ。行方不明になっちゃったってこと?」
「はい。幸い翌日には、姫様は戻って参りましたが。神様の下で、すやすやとお休みになられていたそうでございます。ですが……お目覚めになられた姫様は、前日までの姫様とは、別人のようになっておいででした。すっかり、変わってしまわれたのです」
「すっかり変わってた?……性格が?」
「はい。お目覚めになられた姫様は、とても怯えていらっしゃいまして……。何故か、私達のことも、ご記憶から失われていたのです」
「え!? 性格が変わっただけじゃなく、記憶まで失くしてた……の?」
「そのように思えました。『ここはどこ?』『あなた達は誰?』と、何度もおっしゃって……。しばらくは、心細そうなご様子で、ひたすらに泣いておられました」
ちょ――っ、ちょっと待って。
これと似たような話……私、知ってる……けど……。
でも、まさかそんな……。
そんな馬鹿なこと、あるワケ……。
「それから姫様は、見たこともないような服を着ていらっしゃいました。……ちょうど、先ほどまでサクラ様が着ていらっしゃったような……おみ足がほとんどあらわになってしまわれている、短い丈の――」
……う、そ……。
まさか……冗談でしょ……?
姫様も六歳の頃、私と同じように一日行方不明になって……目覚めた時に、記憶を失くしてた?
こんな偶然……こんな似たようなこと、他にもあるなんて……。
しかも、六歳の頃だなんて……。
私の中に、何かもやもやした……疑惑のようなものが浮かんだ。
なんとなく。なんとなくだけど――十年前の謎を解く手掛かりが、見つかった気がしたんだ。
……でも、全てがハッキリしたワケじゃない。
もう少し、情報が欲しい。
確信が持てるだけの情報。真実が――。




