第12話 孤独な姫様
「カイルさん。あなた、家族はいる?」
「は?……は、はい。おりますが――」
「じゃあその、お父さんでもお母さんでも、お兄さんお姉さん弟さん妹さん、家族なら誰でもいいから、やっかいな病気にかかったってことにすれば、お見舞いとか看病とかって理由で、休暇取れるんじゃない?」
「休暇……ですか?」
「うん。ご家族を病人にしちゃうのは気が引けるだろうけど、この際、そこは我慢してもらって。……ダメ?」
考えに考え抜いたにしては、あまりにもショボイ案だけど……。
サラリーマンが会社ズル休みする時に、勝手に親戚を死んだことにして、ムリヤリ休暇取っちゃう……みたいな?
……しょ、しょーがないじゃない!
他に何にも、思い浮かばなかったんだもん!
「ほっ、ほらっ、姫様って優しいんでしょ? だったら、カイルさんのご家族がご病気に……なんて話を聞いたら、『すぐ家に戻ってあげて』ってことになるんじゃない?……ねっ? ねっ? そーだよねっセバスチャン!?」
「ピッ!?」
名指しで同意を求められたのが、意外だったんだろうか。
セバスチャンは、焦ったように私とカイルさんを見比べてから、こくこくと頭を縦に振った。
「さ、さようでございますな! 姫様ならば、きっと、そのようにおっしゃると思います!」
「だよねっ?――うん、じゃあ、それで決まりっ! ご家族がご病気ってことで、休暇取っちゃってください!」
「……は、はぁ……。ですが、休暇願を出してましても、許可が下りるまでには、時間が――」
「そのようなものは、私が全て手配しておく! おまえは、急ぎ部屋に行き、数日分の旅支度をして参れ!」
「は、はいっ! 承知いたしました!」
カイルさんは私達に向かって一礼すると、慌ただしく部屋を出て行った。
「……ねえ、セバスチャン。騎士見習いの人達も、この城に住んでるの?」
城の周囲は森ばっかりで、ここへ来る途中にも、城以外には、建物らしき物は見なかった気がするから、それしかないだろうな……と思いつつ、一応訊ねてみる。
「はい。この城――と申しましても、城の敷地内という意味ですが」
「え?……それって……?」
「城門横に、騎士と騎士見習いが寄宿する場があるのですよ。……まあ、妻子のある者は、皆、城外に家を持っており、そこから城へ通っておる訳ですが……その者達は、本城勤めが主ですからな。ここにおる者達は、若いか、独り身の者が多いのです」
「本城……?」
「……おお! そうでしたそうでした。サクラ様には、説明をしておりませんでしたな。――実を申しますと、この城は本城ではないのです。国の中心にございますのが、本城でございまして。この城の全ては、姫様のためにあるようなものなのでございますよ」
「姫様の、ため……?」
え……。それって、つまり……。
この城は、姫様のための……姫様だけの城、ってこと!?
「ほぇえ~~~っ! 姫様って、やっぱり、すっごいんだねぇ……」
あんまりびっくりして、変な声出ちゃった……。
……姫様のための城……か。
この大きな城も、広い庭(と言うか敷地)も、たくさんのメイドさんや、騎士さんや騎士見習いさんも、あと、コックさんとか庭師さんとか、まだ見掛けてはいない、いろんな職業の人達がいて、姫様の生活をサポートしてるってワケかぁ……。
「でも、この城が姫様のためにあるんだとしたら、国王様は、本城の方に住んでるの?」
「はい。その通りでございます。姫様がお部屋から消えてしまわれたことを、書状でお伝えいたしましたところ、すぐにこちらの方へおいでくださったのです」
「そっか……。じゃあ、姫様のお母様も、そっちに住んでるんだ?」
「あ、いえ――。お后様は、姫様がお生まれになられてから間もなく、ご病気で……」
「え!?……そっか。そうだったんだ……。あ。じゃあ、兄弟は? お兄さんとかお姉さんとか」
「ご兄弟はいらっしゃいません。国王陛下は、お后様を大変深く愛しておられましたので、側室もお迎えにならず……」
「……そう……なんだ……」
それじゃあ、姫様は寂しかったろうなぁ……。
いくら、セバスチャンやカイルさん、アンナさんやエレンさん達がいてくれたって言っても、血の繋がった人が国王様だけ、なんて……。
しかも、国王様は本城ってとこに住んでて、別々に生活してるんじゃなぁ……。
「本城ってとこに、姫様も住んじゃえばいいのに。国王様と離れて暮らしてるなんて、親子なのに不自然だよ」
もう結婚してる――ってんなら別だけど。
「不自然……。そう、なのでございましょうが……」
セバスチャンは返答に詰まり、うつむいてしまった。
それからしばらく、言うか言うまいか迷ってるみたいに、視線をあちこちさまよわせていた。
「セバスチャン?……言いにくいことなら、無理に言わなくてもいいよ? べつに、姫様のこと、あれこれ詮索したいワケじゃないし」
「……いえ。サクラ様には、知っておいていただいた方が、良ろしいやも知れません」
セバスチャンは、私を正面から見据えると、重い口を開いた。




