頂点を極めた者~8~
♪♪♪
「……光貴?」
互いの攻撃がほぼ同時に当たり、二人は倒れた。結芽ちゃんによるテンカウントにも立ち上がれなかった二人。勝負は先に起き上がった方が勝ちとなるようだった。だが光貴は動かない。対して
「ごうちゃん、必死に手をついて起き上がろうとしています。しかし、中々立ち上がることができません」
「綺麗に決まったからね。脳震盪を起こしているんだよ。普通ならしばらくは起き上がれないはずだけどね。光貴くんみたいに」
忠野くんはすでに上体を起こしていた。腕で身体を支え、起き上がろうとするが、バランスがとれないようで、今また肩から崩れ落ちている。
光貴は……ぴくりともしなかった。
「……いやだ」
こんなケンカ、どうでもいい。そのはずだった。無意味な争い。誰も得しない戦い。なのに、この気持ちはなんだろう。光貴が負ける? そう思うだけで心の中に黒い渦のような物が流れ込んでくる。
いつでも助けてくれる光貴。私の味方になってくれて、私を守ろうとしてくれて。どこに行くにも昔から一緒で。私が怪我すれば文句も言わずにおぶってくれて。私が危ないときはいつでも駆けつけてくれて。私が熱を出せば学校サボってでも看病してくれて。
……そうだよ。どうして今まで気づかなかったんだろう。何も変わってない。何も変わらないんだよ。ずっと昔から光貴は私のあこがれで。私の――
「光貴! 起きてよ! 負けちゃうよ!?」
私は光貴の元へ駆けつけようとしたが、香織ちゃんに止められる。
「ダメだ律っち! 今駆けつけたらご主人様の負けになる!」
私は香織ちゃんの腕を振りほどこうと必死になった。
「絶対に勝つんでしょ!? 言ったじゃん! 昨日約束したじゃない!」
辛かった。光貴がぼろぼろになっているのも。負けそうなのも。だって、私は知っているから。光貴が頑張ってきたこと。昔からずっと……ずっとずっとずーっと頑張り続けていたことを! 全部、『私を守る』という約束を守るために。
「CWOに入るんでしょ!? 約束、したよね!? 私、覚えているよ!」
光貴が正義の味方にこだわっていた理由。きっと光貴だってわかっていたんだ。この現実という世界には正義の味方も正義の組織も存在しないということを。でも、約束したから。私を助けるって約束したから。……バカだよ光貴。ホントに大馬鹿だよ。
「……お願い。起きてよ。私、光貴が負けるところなんて……見たくないよ」
そんな約束、守れなくたって、私が光貴のこと嫌いになるわけないじゃん。
「……助けて、くれるんでしょ? お願いだよぉ……。ねぇ、光貴……。光貴ー!」
「泣くなバカ律」
顔を上げる。滲む視界を袖で乱暴に拭いた。
「今、助けてやるから。ちょっとだけ、待ってろ」
光貴は震える腕で身体を支えると片膝をついた。
「ここに来てこうちゃんがごうちゃんに追いつきました。両者、後一歩。先に足だけで身体を支えられた方が勝者となります」
光貴が、膝に手を置いた。だが、忠野くんはもう両膝が地面から離れている。後は上体を上げ、手を放せば光貴の負けは決まってしまう。
その時、光貴の口がにやりと歪んだ気がした。
「限界だったようだな。虎牙」
見ると忠野くんはその中途半端な格好で固まっていた。
「お前の勝ちだ。黒野光貴。オレはもう、動けぬ」
「じゃ、お言葉に甘えさせてもらおう」
光貴は一息で立ち上がると拳を振り上げた。呼応するかのように屋上が熱気に包まれる。歓声が響き渡り、どこからかクラッカーの音が聞こえ、ハンカチや教科書や鞄なんかが宙を舞った。
私は安堵のため息なのか笑いなのか自分でもわからない声を出して、その場に座り込んだのだった。
明日!(と言うか今日)ついに簡潔です! 最後は二話連続掲載で終了となります!
最後までどうぞよろしく!




