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勇者、目指してます。  作者: とんび
頂点を極めた者
31/34

頂点を極めた者~7~

☆☆☆



「武田ぁ! 下僕は下僕らしく大人しくしていろ!」


 俺の拳が武田の顎を狙って唸るが、武田は体を反らしてそれを避けた。


「バカ光貴! まずは忠野を潰すのが先だ! 僕たちの決着はその後で――イダッ!」


 虎牙のタックルを喰らって武田が吹っ飛ぶ。


「例え二人がかりだろうと、オレが勝つ。待っていろ、香坂律」


「黙れ! お前少し気持ち悪いぞ! 律はお前のことなんか待っていない!」


 俺は虎牙の背後から跳び蹴りをお見舞いする。しかし、虎牙はまるで後ろに目でもあるかのように、ギリギリでしゃがみ込んで躱した。


「なにっ!?」


 しかもそのまま空中にいた俺の襟首を掴むと、地面に叩きつけた。


「かはっ!」


 背中からもろに叩きつけられたせいで呼吸がままならない。すぐに虎牙の追撃が来るとわかっていても身体は動いてくれなかった。虎牙の太い腕が勢いよく振り下ろされる!


「僕だって、脇役で終わってたまるかっ!」


 武田が俺の目の前に飛び出すと虎牙の攻撃を防ぐ。正面から受け止めるのではなく、勢いを反らすようにその腕を払った。虎牙の腕は空を切り、その巨体が体勢を崩した。


「僕が決めてやる!」


 武田が虎牙のがら空きになった頬に向かって後ろ回し蹴りを放つ。虎牙はまともにそれを喰らい、一歩退いた。


「おおーっ。たけちゃんの攻撃がクリーンヒットです。意外な伏兵が意外な実力を見せました」


 会場が沸き、武田コールが巻き起こる。


「ヘ・ン・タイッ! ヘ・ン・タイッ!」


「なんでだよっ!! みんなどんだけ僕のことを変態だと――ぐぼぉわはぁっ!」


 よそ見している間にまたしても虎牙の反撃を喰らう武田。だが、あの変態のおかげで虎牙に隙ができた!


 俺は虎牙の背中に飛びつくと首を絞めるようにホールドを掛ける。虎牙は体を振り回して俺を振り落とそうとしたが、そうすることでかえって苦しいはずだ。図体がでかいだけあって、後ろを取ってしまえばこっちの――


「っ! なっ!」


 虎牙は空中に身を投げ出すと俺をクッション代わりにして背中から落ちた。虎牙の体重が一気に俺の身体を押しつぶした。


「ぐ、あ、」


 息ができない。胃の中身が迫り上がってきたが、必死になって飲み込む。目の前が真っ白になり、それでも俺は腕の力を緩めなかった。ここで放せば多分、俺は負ける。ぼやけた視界にふらふらと立ち上がる武田の姿が見えた。


「な、ナイスだよ光貴。そのまま忠野を抑えていてくれ! きみの弱点はわかっている。お腹と足だ。だからこうしてお腹に飛び乗れば――」


 鈍い衝撃が走り、俺の身体はさらに体重を受ける。再び胃から逆流してくるものを感じてとっさに横に顔を向ける。今度は耐えきれずに吐き出してしまった。


「お腹を壊しているきみは耐えられなくなり、ついには――おわっ!」


 俺は虎牙の首から手を放すと、咳き込みながらも肩を押し返して這い出る。……本気で死ぬかと思った。本当に意識が飛びかけた。頭が重い。足下はおぼつかず、立ち上がろうとして、すぐにへたり込んでしまった。


「光貴! もうちょっとで忠野を倒せたのに!」


「この馬鹿が……殺す気か……」


 声が思ったように出ずに、かすれたものとなった。武田の表情が心配げなそれに変わり、刹那の後、ぶれた。否、吹っ飛ばされたのだ。


「た、武田……」


 虎牙の一撃をもろに食らった武田は今度こそ気絶したように動かない。


「もう遊びは終わりだ。この戦いは、オレが勝つ」


 武田を吹っ飛ばした虎牙がゆっくりと俺の方へと近づいてくる。俺はふらつく視界を虎牙に合わせる。腕で這うように少しずつ後ろへ。だが、虎牙の足はゆっくりと踏みしめるように動いているにもかかわらず、俺との距離は確実に縮まっていた。


 負ける、のか? 虎牙の足が止まった。虎牙はすぐに腰を落とし、腕を振り上げる。その動作がいやに遅く感じた。これを喰らったら俺は立ち上がれないだろう。それは負けを意味していた。DDOに負ける。忠野虎牙に負ける。恋敵に負ける。俺は、律を守れない? 


 肉と肉がぶつかる鈍い音が響いた。だが、痛みはない。


「……な、情けないぞ、光貴」


 無意識に瞑っていた目を開けるとそこには腕を交差して虎牙の豪腕を防ぐ武田の姿があった。


「た、たけちゃんっ。またもやたけちゃんが復活しましたっ。あの変態、不死身なのですか?」


 歯を食いしばりながらも必死に虎牙の攻撃を避け続けた。。


「お前の、香坂さんに、対する想いは、そんなものなのか!? この僕を、打ちのめした君は、そんなに弱くはなかったはずだ!!」


「……武田」


「僕は――」


 虎牙の膝が勢いよく振り上げられたが、武田はそれをどうにか腕で防ぐ。


「――ぐっ!」


 だが、虎牙の圧倒的な力の前に、そのまま吹っ飛ばされると、俺の隣に並ぶように倒れた。


「……僕は諦めない。たとえ香坂さんが君のことを好きだろうと、ね」


 武田はそう言って、痛みを堪えながらも立ち上がろうともがいていた。


 俺は……。俺は何をしている? 何を考えていた? 律を守れない? 守れないじゃ済まないんだ。守るんだよ。負けたっていい。CWOに入れなくたって良い。律を守りたい。大好きなあいつを守りたいから俺は強くなるんじゃなかったのか?


「……俺も、うかうかしてられないってことか。まさか、貴様がこんなにかっこいいとは思わなかったな」


 俺は無理矢理に笑みを浮かべると震える腕で身体を支えた。


「ずいぶんと余裕のある発言をしてくれるじゃないか」


 俺たちはどうにか起き上がると互いに拳を持ち上げた。


 トン


 俺と武田の拳がぶつかる。


 俺は息を漏らすように笑った。


「悪いが、律は誰にも渡さん」


「僕だって、負けるつもりはないよ」


 武田はニヒルな微笑みを浮かべ、そして吹っ飛んだ。


「ブフェアッ!」


 それまでのかっこいいセリフを帳消しにするような叫びを上げながら……。


「おおーっと。好敵手と書いて友と呼ぶ。そんな熱い展開を繰り広げていたたけちゃんとこうちゃんでしたが、まさかのたけちゃん吹っ飛び劇。もはやこれはそういうショーか何かなのでしょうか?」


「ボクはそろそろ救護班呼んだ方が良いと思うね。あれだけ綺麗に側頭部に虎牙くんの太い腕が振るわれたら、もう起きれないだろうし。だれかー。行ってあげてくれるかなー?」


「……投げやりですね、ともちゃん」


 武田を潰した虎牙はさっきまでよりさらに肩を落として構えていた。まるで生ける屍のように時々身震いをしている。……どういう事だ?


「遊びは終わりだ。黒野光貴」


「それはこっちのセリフだ」


 虎牙の腕が横になぎ払うようにふるわれた。だが、明らかにこれまでの動きとは違った。俺は体勢を屈めることでそれを避け、刹那の後、アッパー気味にボディを叩く。


「……っ!」


 やはりだ。虎牙の攻撃はとても大振りになっていた。まるで素人が振り回しただけのようなパンチ。あれでは避けてくれと言っているようなものだ。そして、武田の言っていた腹が弱点というのはどうやら本当らしい。ボディを喰らった虎牙は苦悶の表情を浮かべていた。


 虎牙の膝が持ち上がる。武田が防ごうとして吹っ飛ばされたあの膝蹴りだ。俺は腕でその攻撃を防ぐと同時に、逃げるように自分から後ろに跳躍した。


「ぐっ!」


 いなしたはずの攻撃だったが、それでも俺の腕は悲鳴を上げた。距離をとった俺は腕の状態を確かめつつ、ゆっくりと構えをとりなおす。


 ……あと一撃。あと一撃入れるぐらいなら、この痛みも我慢してみせる。


 両腕は熱く、わずかに動かすだけでも激痛が走った。幸い向こうも早期決着を望んでいるようだ。次で勝負を決める。


 虎牙の震える間隔は短くなっていた。何を我慢しているのかはわからないが、息は荒く、ますます上体を屈め、鋭く据わった目で俺を睨み付けている。


 風の音が嫌に大きい。さっきまで騒がしかった屋上は静まりかえっていた。野次馬生徒共の息づかいまで聞こえてきそうだ。そして、あの結芽と智菜ですら黙っていた。みんなわかっているのだ。次の一撃で全てが決まると。


 先に動いたのは虎牙だった。虎牙は左腕で叩き潰すように斜めに振り下ろした。だが、見える! 俺は虎牙の懐に潜り込むようにしてそれを避けると、虎牙の腹を目がけて左のエルボーを繰り出す。


 ズキン


 鋭い痛みが左腕に走る。そのせいで、無意識ながら力が入りきらなかったらしい。見上げた先にはいまだ鋭い光を携えた虎牙の瞳がこちらを見ていた。――まずい。


 虎牙は俺の左手を、振り下ろしたばかりの左手で抱え込むと本命はこっちだとばかりに右フックをたたき込もうと振るった。逃げられない。――ならばっ!


 俺は上体を反らすと飛ぶようにして右足を振り上げた。虎牙の右腕が俺の頬を捉えた瞬間、俺の足は虎牙の顎を捉えたように思えた。


 次に俺が見た光景は、雲一つない青空だった。どうやら、俺は倒れているらしい。どこか遠くから喧騒が聞こえる。たくさんの声が入り交じったそれはどれもはっきりしなかった。音が遠い。視界だけがゆっくりと回るように青空を捉え続けていた。


 俺、なにしてんだろ。ぼんやりとした頭で考えるが、よくわからなかった。ただ、悪い気分ではない。雲の上に乗っているようにふわふわとした感覚に包まれている。


 俺は静かに目を閉じた。


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