頂点を極めた者~6~
大変遅れました……。物語もいよいよラストスパートです。
♪♪♪
結局、私は武田くん達について屋上までやってきていた。二人の後ろに隠れるようにして光貴達のケンカに目を向ける。
「あたしの作戦がなかったら、やばかったな」
「うん。あれで決まらなかったのは織田さんのおかげだと思うよ。そして僕はなんできみに殴られたのか理解できないんだけど」
「話しかけんじゃねぇ。もっかい殴られたいのか?」
「きみから話しかけてきたんだろうっ!?」
「独り言だ。てめぇは耳でも塞いでろ」
「理不尽だっ!」
出会い頭の一撃をもらった光貴は、それでもすぐに起き上がると攻勢に打って出た。光貴の鋭いパンチやキックは次々と止まることなく放たれていたが、その全てを忠野くんは冷静に受け止めていた。
戦いは始まってしまった。まるで意味のない、くだらないケンカ。その原因を知っている私なら止められたはずだった。でも……結果的に何もできなかった。
「こうちゃん、すごいラッシュです」
「でも、なんとなくおかしい気がするね……」
どうすれば良かったんだろう。やっぱり忠野くんじゃなくて光貴を止めれば良かったのかな? でも光貴が忠野くんをDDOだと勘違いしているなら、それこそ私には止めることはできないだろう。なんで光貴は……。
「なんとなくだけど、いつもの光貴くんならもっと冷静に、状況を見ながら戦うんじゃないかなって」
「そうですか? 私はよくわかりませんが……でも、こうちゃん、なんだか、がむしゃらって感じですね」
「うん。まるで何かを振り切るような――」
屋上に歓声が巻き起こる。
「おおーっと、ごうちゃんの右フックカウンターが見事にこうちゃんの顎を捉えたー」
「あちゃー……」
膝の力が抜けたようにガクンと光貴の体勢が崩れる。光貴はすぐに忠野くんから距離を取った。忠野くんからの反撃は来ない。……もういいよ。なんでそこまでするの? どっちが勝っても何も得られないんだよ? DDOなんて組織、あるわけないじゃない。どうしてわかってくれないの? どうして、信じ込もうとするの?
「お前の軽い攻撃ではオレは倒せない。早く諦めろ黒野光貴」
「ふざけるな。攻撃が効かないのはお互い様だろう。貴様ごときの――」
生徒間から悲鳴が生まれる。忠野くんのパンチは光貴の顔面を捉え、光貴はそのまま真後ろへと吹っ飛ばされた。私は顔を背けることしかできなかった。
「と、ともちゃん。こうちゃん、動きませんよ?」
「――ストップ! ドクターストップッ! 光貴くん大丈夫かい!?」
新聞ちゃんの駆け寄る足音が屋上に鈍く響いた。息が苦しかった。滴が地面に落ちていく。いつの間にか私は小さくしゃくり上げていた。武田くんが気づいて、声をかけてくる。香織ちゃんが私を優しく抱き寄せてくれた。なにも理解ができなかった。周りの音はどんどんぼやけて、小さくなっていった。ただただ涙が次から次へと溢れてくる。何が悲しいんだろう。何が嫌なんだろう。何が辛いんだろう。全部な気がした。違う。そうじゃない。自分のことが嫌いなだけだ。何もできない。何も守れない。昔のまま。何一つ変わらない。私は光貴を守れない。
守るから。
何か聞こえた気がした。音が戻ってくる。いつの間にか悲鳴が歓声に変わっていた。ぼやけた視界を前に向けると、光貴が立ち上がっていた。新聞ちゃんの差し出す手を払い、光貴は構える。唇は切れて、鼻血も出ていて、腫れ上がった顔でただまっすぐに忠野くんを見つめている。
光貴の唇が小さく動く。声は聞こえなかった。でも、どこか懐かしい気持ちになった。嬉しい気持ちになった。なんだろう。どこかで聞いたことがある言葉だった気がした。光貴は顔を上げると、忠野くんを睨み付けて言った。
「律は、俺が守るっ! お前には渡さん!」
ああ、そっか。だから光貴は――。
☆♪☆♪
「ごめんね? 今日は修行、できなくなっちゃったね」
「そんなのいいよ」
「また泣いてるのか?」
「だってぇ……こうちゃん頑張ってるのに……修行」
「そんなもんいいんだって。お前ほっといたら意味なくなっちゃうじゃん」
「……ぐす。なんで?」
「俺がヒーローになるのはお前を守るためだもん」
……私はぎゅっと首に回した手に力を込めた。
「ありがと」
「……か、勘違いするなよ! ついでだからな! 世界を守るついで!」
私もいつかこうちゃんみたいに強くなれるかな? そしたら連れて行ってもらうんだ。一緒に守るんだ。世界を。……それとこうちゃんを。
「大丈夫か?」
☆♪☆♪
「その目……オレはお前のその目を信じた。だが、それを裏切ったのはお前だ。貴様は香坂律を守ると言いながら、夢野結芽や織田香織を弄び、彼女達の想いを踏みにじった!」
光貴は一時も忠野くんから視線を外さなかった。そうしていながら胸の内の想いを燃やすように大きく呼吸を繰り返した。
「お前、何を言っている? 俺は誰も弄んじゃいない」
「黙れっ! 貴様のせいで一体何人の人間が苦しい想いをしたと思っているっ! オレは彼女たちを救ってみせる。三又をかける貴様のような下衆を許すわけには――」
「三又? 俺はそんなこと――」
忠野くんは光貴の胸ぐらを掴むとつばを飛ばす勢いで吠える。
「まだとぼける気か! 貴様は香坂律を守ると言いながら、夢野結芽、織田香織を手中に収め、弄んでは彼女たちの気持ちを踏みにじったのは周知の事実」
「はっ、そうか。馬鹿な勘違いをしたものだ。結芽も香織もただの下僕に過ぎん。俺は……俺が好きなのは――」
☆♪☆♪
「うん。……私ね、夢見たんだよ。私が悪い組織に捕まってて、こうちゃんが助けてくれるの」
「当たり前だろ。俺は正義の味方だもん」
「うん。それでね。こうちゃんは世界を救うの。悪い組織がしようとしてた、魔王の復活を止めて、世界を救うの。たくさんの仲間がいてね。みんなで救うの。私はこうちゃんにお姫様みたいに助けてもらって、それでね」
私は後ろからもう一度強く抱きつく。
「それでね、こうするの」
首を突き出してこうちゃんのほっぺたに唇をくっつけた。
「っ!!!!!!!!!」
「イタッ!」
こうちゃんが手を放したせいで、私は地面に投げ出されてしまった。ぶつけたお尻をさすりながら立ち上がるとこうちゃんを怒る。
「むー、なんで手を放すの!?」
「律、お、おおおお、おま、お前、な、なにすんだよっ!」
こうちゃんは両手をばたばたさせながら変な踊りを踊っていた。
「なにって……ちゅー?」
「ちゅーってお前! 俺のこと好きだったのか?」
「うん。夢の中のこうちゃん、かっこよかったもん」
「ゆ、夢の中……」
☆♪☆♪
「俺が好きなのは――バカで、アホで、暴力的で、うるさくて、めんどくさがりやで、鈍くさくて、泣き虫で、弱くて、寂しがり屋で、自分勝手で、お節介で、強がりで、一生懸命で、優しくて、可愛くて、一緒にいると楽しくて、いつも俺のことを助けてくれる――」
光貴は忠野くんの腕を振り払うと大きく息を吸い込んだ。
☆♪☆♪
「よし、決めた。俺、もっと修行する! そんで、律のこと守る!」
「うん」
「いつか、悪い組織から助けてやるからな!」
「うん」
「だからお前は悪い組織に捕まるように頑張れ」
「……えー、やだよー」
「捕まらないと助けられないんだぞ?」
「うー、じゃあ、こうちゃんも正義の組織に入るんだよ?」
「わかった」
「夢みたいにちゃんと助けてね? 嘘だったら嫌いになっちゃうからね?」
「う……。ま、まかせろ。約束だ。絶対に俺が助けてやる!」
☆♪☆♪
「――律のことが好きなんだっ!!! 結芽や香織なんか好きになるか!」
今日一番の歓声が爆音のように屋上を包み込んだ。周りの生徒がいつの間にかみんなこっちを見ていて、私は押し出されるように前へ。
「律っち!」
香織ちゃんが助けてくれようとしたけど、それもむなしく私は二人が戦う空間に投げ出された。
「きましたー。ここでお姫様の登場です。まさかのこうちゃん選手の超告白。これに対してりっちゃんはどう答えるのでしょうか? ところで、私、いつからこうちゃんの下僕になったのでしょうか? あと、なんにもしてないのに勝手にフラレているのが若干、納得いかないのですが」
「……事実は小説より奇なりとは言ったものだね。どうしてこんな鬱展開に」
「ともちゃん? 熱い展開ですよ? ともちゃんの好きな熱い展開ですよ?」
「ボクはもうダメだ。こうなっては律くんはもう……」
「どうしたんですか? ともちゃん? 戻ってきてくださいなのです」
…………………………え。
……………………ええ?
………………ええええええええええええええええええええええええええええっ!?
「ど、どうしたのでしょう。りっちゃんが急に叫び出しました」
「ああ……終わったよ。ボクの恋心。ごめんね。ボクの恋心」
「……解説のともちゃんも壊れているようです。どうやら私の正念場のようですね。頑張るのです」
なななななななななななななななななななんでっ!? こ、光貴が私のことが好き!? ど、どういう事!? なんで!? うそ!? うそだー!? あ、嘘か。ふぅ、びっくりったー。ほんとびっくりったーよ。
「香坂律。オレも好きだ」
ひゃあぁああああああああああああ!
「ふざけるな! 貴様なんかに負けるか! 俺の方が好きだぞ律!」
ふぇえええええええええええええええええええええええええええええええ!
「ぼ、僕も好きだよ! 香坂さん!」
……へぇー。あ、なんか落ち着いた。……どうしよう。何これ? 何これ? こ、告白されちゃった。しかもこんな大勢の前で。二人から同時に。み、みんな見てるし!
「さあ。いつの間にかに昼ドラも真っ青の三角関係がここにできておりますが」
「夢野さん、僕、忘れてない?」
「一体りっちゃんはこうちゃんとごうちゃん、どちらの愛を選ぶのでしょうか。会場が見守る中、静かにりっちゃんの口が開かれます」
「………しくしくしく。僕が最初に香坂さんに告白した人間なのに……」
……ど、どうしよう。何か言わなきゃ。何か――
「か、蛙は好きですか?」
「いや、俺は別に……」
「なかなかうまいと思う」
ちっがぁああああああうっ! 何聞いてるの私! そうじゃなくて、えと、えとえとえと!
「てめぇら! 情けねぇと思わねぇのかっ!」
その声に振り返ると香織ちゃんが人混みをかき分けて現れた。私を庇うように前に出ると、そこら中に鋭い視線を飛ばしたあと、キッと光貴を睨み付けた。
「律っちの気持ちも考えねぇで、こんな大勢の前でバカなこと言い出しやがってっ! 決闘の最中に答えられるわけねぇだろっ!」
香織ちゃん……っ! ありがとう。そうだよ。こんな大勢の前で、こ、告白されても恥ずかしくて――
「男なら奪い取れっ! ……女はな。守ってもらえるような最強の男が好きなんだぜ?」
……は?
「律を守る……か」
「最強の男……」
「僕だってやればできる……はず」
光貴と忠野くんだけじゃなくて武田くんまでも何かを決意した表情で顔を上げた。
「「「うぉおおおおおおおおっ!」」」
「おおーっと、こうちゃん、ごうちゃんの戦いにここでたけちゃんまで乱入です。一人の女を取り合う醜い争い。最強の男VS変人の男VS変態の男。異種格闘技バトルロワイアル開戦です」
ラストバトル!




