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勇者、目指してます。  作者: とんび
頂点を極めた者
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頂点を極めた者~3~

♪♪♪



 お風呂に入った。ご飯を食べた。テレビも見た。ついこないだ飼い始めたペットのピョコタにえさもあげたし、漫画を読もうともした。『パンプキンラビット』というお気に入りの作品だ。主人公のラビ太が世界征服を目論むイーグルコンビーフと戦うという勧善懲悪の物語。こういうところで、なんだかんだ言って光貴の影響を受けているんだなと思う。


 ……でも、何をしてても全然気は晴れてくれなかった。私は読みかけの本を閉じるとカエルのぬいぐるみを抱えてベッドに腰を下ろす。こんなことなら光貴についていけば良かったとも思う。だけど、そう思うことになぜか苛立ちを覚えた。


 大丈夫だろうか? どうでもいい。怪我していないだろうか? どうでもいい。死んじゃったりしてないよね? ……どうでもいい。


 出てくるのはため息ばかり。どうして光貴はむちゃをするんだろう。いつもいつもむちゃばかり。DDOなんてどうでもいいじゃん。CWOになんか入れなくてもいいじゃん。


 なんで光貴はそんなに世界を守りたいんだろう。昔から光貴はヒーローにあこがれていた。でもそれは周りの子達もいっしょで特別なことじゃなかった。いつのまにかあこがれているのが光貴だけになり、やがて夢と現実を混同し始めて、馬鹿なことばかりし始めた。


 何が光貴をそうさせるんだろう。きっと光貴にもわかっているはずなんだ。DDOもCWOも実在しないって。それでも光貴は信じているふりをしている。ううん。信じ込もうとしているのかもしれない。じゃあ、なんで光貴は信じようとしているの? 私の思考はいつもそこで行き詰まる。


 べちゃ。


 窓で何かが潰れる音がした。久しぶりだな。そう思って、今までのもやもやが嘘みたいに晴れていることに気がついた。そのことが気に入らなくて私は窓を開けるとその先にいる人物を無言で睨み付ける。


「よ、よう」


 光貴が片手を上げて私の顔色をうかがっていた。私の部屋は光貴の部屋と隣接している。漫画みたいに屋根を伝って行き来することはできないけれど、昔はよく、こうしておしゃべりしたものだった。


 私は窓に張り付いたスライムを投げ返す。最初はビー玉を投げて合図を送っていたのだけど、光貴がガラスを割ってしまったため、スライムに変更になったのだ。……まだ、持ってたんだね。そういえばいつからだろう。こうやって会話をしなくなったのは。


「…………」


「…………」


 私は何も言わなかった。光貴も何も言わなかった。二人の間を少しひんやりとした夜風だけが通っていく。空は晴れていた。でもここからじゃ月は見えない。


 私は窓を閉めようとサッシに手をかけた。光貴が慌てて声を出す。


「あ、明日になった!」


「……何が?」


 光貴は目を逸らしながら呟いた。


「……決闘」


「勝手にすれば?」


 私はまたサッシに手をかける。


「大丈夫だ! 絶対勝つから! 約束する!」


「……どうでもいいもん」


「え……俺が負けても、いいのか?」


 光貴は何かにすがるような目で私を見る。まるで、捨てられた子犬のような瞳。私は無性に腹が立った。光貴を叩いて、忠野くんを叩いて、自分も叩いて、全部壊れてしまえばいい。全部なくなればいい。町も。夢も。桜も。プールも。コーヒーも。クッキーも。漫画も。フライパンも。友達も。学校も。明日も。全部全部全部なくなっちゃえばいい!


「このばかっ! どうでもいいのっ! DDOとかCWOとか全部全部全部全部全部ぜーんぶっ! どうでもいいのっ!」


 私は窓を閉めるとベッドの上に倒れ込んだ。枕で頭を抑えつけて息を止める。足りない。布団を頭から足の先までかぶった。目も瞑った。耳も塞いだ。口も鼻も閉じた。自分の鼓動の音が聞こえてくる。それだけを聞いて私は全部を塞いだ。


 でも、いつまで経ってもの涙は止まってはくれなかった。







☆☆☆



 忠野虎牙は俺が当初思っていたよりずっと骨のある奴だった。このオレが本気を出さざるを得ない程度には実力が拮抗しており、訓練によってはオレが後塵を拝することもあった。


 だが、それが良かったのかもしれない。俺たちは訓練を武田教官の予想以上の成果で乗り切った。残すはこれから行われる最終試験だけだ。


 もちろんこの結果次第ではあるが、今までの実績から前線に復帰できるのはまず間違いないだろう。これでやっと律を助け出すことができる。今度こそ失敗は許されない。


「これから最終試験を行う。試験内容は黒野、忠野の両者に素手による決闘を行ってもらう。魔力の行使は自由。万が一を考えて、魔術特化部の夢野と諜報部の河野に同席してもらっている」


 武田教官の言葉に応じて敬礼する結芽と智菜。しかし、結芽はともかくとして、智菜が同席しているのは何故だろうか? 諜報部はその任務内容から少人数、ないしは単独の行動を強いられる部門である。全ての技能を一通り身につけ、尚且つ一定以上の能力が求められている万能型の人間が多く、もちろん、その技能には医療技術も含まれる。だが、医療に特化した衛生部の人間を連れて来た方が効率も安全性も高いはずだ。


 しかし、その疑問もすぐに消し飛ぶことになった。


「貴様達はこの最終試験で良い成績を残せばそれだけで前線に戻れると考えているのだろうが、それは間違いだ。この試験では貴様達に優劣をつけることになる。決闘に負けたものは前線ではなく、諜報部第二支部に行ってもらうからそのつもりで全力を出せ」


 つまり、これは諜報部にとっては新人の実力を見る良い機会ということだ。


 智菜は俺の方に視線を向けると小さく微笑んだ。……ふざけやがって。智菜の野郎、俺が負けると思っていやがる。


「黒野、忠野、準備は良いか?」


 俺は短く答えると定位置に着いた。これまでの訓練から虎牙は魔術よりも体術を得意としていることがわかっている。はっきり言って、まともに肉弾戦となってしまえば俺に勝ち目はなかった。虎牙の隙を突き、いかに魔術を行使するかが結果の行方を左右するだろう。ならば――


「始めっ!」


 開始一発でケリをつけてやる。俺は素早く両手を突き出すと省略呪文を唱える。


「原点に集え此処に在り」


 刹那に両手の前の空間にゆがみが生じ、塊となって虎牙に向かう。四方から大気を集め凝縮した塊を飛ばしたのだ。虎牙にぶつかる直前で俺は拳を作った。同時に塊ははじけ飛び、散弾のように散らばり虎牙にぶつかった。


 地面へとぶつかった塊が土煙を起こし、虎牙の姿は見えなくなった。だが、油断などするつもりはなかった。


「牢なる煉獄の炎」「虚無の刃は無秩序に迫る」「聖なる贈り物は天からの雷」


 炎の壁で囲み、真空の刃で無数に切りつけ、最も得意とする雷の魔術を放つ。


 土煙の中で何かが倒れる音がした。いくら虎牙が俺と同等のスピードを持っていたとしても、あの魔術を避けることは不可能だった。……俺の勝ちだ。


 口の端がつり上がるのがわかる。俺は武田教官にこれ以上の決闘は無駄だと言おうとして、目を見張った。


 足下から植物の蔓が生え、俺の足を絡め取るとそのまま引き倒した。すぐに炎の魔術を放ち燃やし尽くしてしまおうとしたが、蔓は俺の口内にも侵入し、中で玉のように丸くなった。


 無様に口を開け、四肢の自由をも取られた俺はそのまま武田教官の声を聞くこととなった。


「そこまで!」


 すぐに蔓が時間を戻したようにするすると離れていく。俺は起き上がりながら咳き込んだ。


「黒野。貴様、忠野の魔力を侮ったようだな。確かに魔力自体は貴様の方が上だが、省略呪文で練った魔力程度で勝ち誇るとは。未だに自分の力を過信している証拠だ」


 負けた? この俺が負けただと? これで前線に戻ることもできないのか? 律はどうなる。あいつは今でもDDOに捕まり、助けを待っているのだ。諜報活動などやっている場合では――


「これより、黒野光貴、貴様を諜報部第二支部配属とする。その腐った性根を少しは鍛え直してもらえ」


「よろしく」


 智菜の差し出した手を払うと俺は自分で起き上がった。






 決闘の日の目覚めは最悪だった。こんな馬鹿げた夢を見るだなんて、不安だとでもいうのだろうか? 俺は強く息を吐き出して気合いを入れた。


 だが、気分は未だ晴れない。カーテンを開け、外の空気を吸おうとしてそれは視界に入った。

律の部屋は固く閉ざされたままだった。昨日、あの後何度呼びかけても律は出てきてくれなかった。去り際、あいつは泣いていた。俺が泣かしてしまったのだ。でも、なぜあいつは泣いていたのだろう。……もう、あいつにとってCWOはどうでも良いものなのだろうか。きっとそうなのだろう。俺だって気づいていたはずだ。だから俺はあの時、夢の中で神に願ったのだ。『前に進む勇気を』と。


 時計を見るとすでに九時を回っていた。完全に遅刻だ。律はまだ怒っているのだろう。起こしに来た様子はなかった。


 自分の部屋を見回す。デスク周りがパソコンのコードで少し雑多な感じになってはいるが、そこには一ヶ月前とは比べものにならないぐらい整頓された空間があった。律が俺を起こしに来る度に俺を怒りながらも片付けてくれているのだ。


 律が病に伏した時とは何かが違った。そう、漠然とだが……


 律がいない。

 

 そう感じた。俺と律の間で何かが決定的にずれていた。嫌われてしまったのかもしれない。だから離れた? だから、避けられた? だから……泣いていた?


「……ばかばかしい」


 声に出してみた。だけど、声に出したこと自体が一番バカバカしくて、むなしくなった。俺は自らの頬を叩くと、立ち上がった。


 部屋を出ようと一歩踏み出すと何かを蹴り飛ばした。スライムの入った瓶が転がっていた。俺はそれを拾い上げると枕元に置いた。


「何をくよくよしているんだ。らしくもない」


 言い聞かせるようにそう呟いて俺は部屋を後にした。


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