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勇者、目指してます。  作者: とんび
山上公園の試練
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閑話


 男が香坂律と出会ったのは入学式の日だった。その日、男は中高等部共同大講堂へと足を向けていた。だが、しばらくしておかしいことに気づく。人がいないのだ。日付を間違えたかとも思った。それとも時間か? だが、何度見返しても日時は合っている。一体どういうことだ? 


その時だった。香坂律はそんな男を見かけて声をかけてくれたのだ。


「もしかしてあなたも新入生? だったら入学式は大学の大講堂だよー」


「……感謝する」


「じゃ、ごめん急いでいるから。……急がないと光貴に追いつかれちゃうし。最初っからあいつと一緒に登校なんて嫌だもんね」


 男は彼女の優しさに一目惚れをした。そうか。これが恋か。なんて甘酸っぱく、苦しいものなのだろう。


 だが、彼女には黒野光貴という意中の相手がいた。


 そして、香坂律が武田透に告白されたことをきっかけに、男は黒野光貴の決意を見た。本物だった。自分の恋心が嘘だとは言わない。だが奴のそれは、もはや愛へと昇華していた。男は黒野光貴を前に、大人しく引き下がることを決意した。奴になら香坂律を預けられる。そう思った。


 そして男は新しい恋を見つける。夢野結芽だ。図書委員だった男は毎日欠かさず図書館に行き、仕事をした。にも関わらず、委員会の他の人間は男が近づくだけで避けていく。ただ一人、夢野結芽、その人を除いて。

彼女は優しい人間だった。誰とでも分け隔てなく話す。男がいると嬉しそうに仕事を頼んできた。彼女には図書館の棚は高すぎるのだ。男は彼女の仕事を手伝い、そして彼女からは安らぎをもらった。


 だが、その夢のような時間も終わりを告げた。黒野光貴と夢野結芽が仲睦まじく、逢瀬をしている現場に踏み入ってしまったのだ。しかも、黒野光貴があれほど愛していたはずの香坂律が病で苦しんでいるというのにだ。


 男は思わず怒りで黒野光貴に殴りかかりそうになるのを堪え、香坂律への漢方薬を家へと取りに帰った。父に指導を受けながら、彼女の為に漢方薬を作るうちに、徐々に頭は冷めてきた。そして思ったのだ。恋愛は自由でいいのではないか。と。黒野光貴のしていることを許すつもりはない。だが、それは自分が判断していいことなのだろうか? 黒野光貴ももしかしたら一度心に決めた人、香坂律とは別の人を好きになって、悩み、苦しんでいるのかもしれない。それに、あのとき児童公園で見た奴の決意は本物に見えた。男は判断できずに家を出た。


 ……少なくとも、黒野光貴と話す夢野結芽はとても楽しそうに見えた。ならば自分は彼女の恋路のお邪魔虫だ。男は彼女から身を引くことを選んだ。


 そしてまた、新しい恋と出会う。遠足の前日。天気は雨だった。明日の遠足を楽しみにしていた男は暗澹たる気分で帰路についていた。その時、遭遇してしまったのだ。


 織田香織が、捨て犬を拾うところを。


織田香織の存在は同じクラスだったので知っていた。彼女は何かと男に勝負を挑んできていた。男があの忠野龍爪の弟だと知っていたのだろう。龍爪は最強の番長の名を欲しいままにしている天才だ。彼女は男が次期番長候補と騒がれているのを知って、その座を奪おうとしていたのだ。


 暴力だけで全てを解決しようとするその考え方が男は嫌いだった。だが、あの日、彼女が捨て犬を慈しむような笑顔で拾い上げたとき、男は知ってしまったのだ。彼女は弱き者を守るために番長の座を欲しているのだと。

泥だらけに汚れ、見た目もみすぼらしくなってしまった捨て犬を、なんの躊躇もなく抱き上げる彼女に男は惹かれてしまった。


 だが、その恋も、またしても黒野光貴の手によって砕かれてしまった。


 遠足のあった翌週から彼女は変わってしまった。黒野光貴のことを『ご主人様』などと呼び、へつらうようになったのだ。だが、男にはわかった。彼女の瞳は悲しみに伏せっていた。


 男はすぐに理解した。あの遠足で、彼女は黒野光貴に何か弱みを握られてしまったのだと。あの時だ。一度彼女とすれ違ったことがあった。あれから彼女は黒野光貴と共に姿を眩まし、そして、脅されたのだ。男は黒野光貴を見失ったことを後悔した。


 黒野光貴の決意が偽物だとわかった今、自分には彼女たち三人を助け出す義務がある。たとえ、この命と引き替えだろうと奴を仕留めなくてはならない。奴は悪魔だ。男は決して負けてはいけない戦いを奴に挑むことにした。


終章の一話は本日、20時にあげます!

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