上山公園の試練~6~
☆☆☆
「クソ! 誰だこの仕掛け考えた奴はっ!」
「あたしの勝ちのようだな。これからよろしくな『子犬ちゃん』?」
「うるさい! 黙れ!」
先に『沈黙の扉』に辿り着いた俺だったが、ここで予想外のことが起きた。ロープを真下に引っ張り滑車を介して通路を塞ぐ扉を持ち上げる、という仕掛けなのだが、扉の重さが俺の体重よりも重かったのだ。全体重を預けるようにロープを引くと少しだけ持ち上がるのだが、すぐに降りてしまう。……馬鹿か? 馬鹿なのかこれを考えた奴は。これでは、『子供はご遠慮ください』と言っているようなものじゃないかっ! ファミリー向けのアスレチック公園でこんなことしてどうするつもりなのだ。
「はっ!」
あまりの怒りに大切な事を忘れていた。そうだ。この公園はCWOの訓練施設だからいいのだ。そうだよ。いいんだよ。
「あっはっはっは!」
俺としたことが馬鹿なことを考えたものだ。一番大切なことを忘れるとは。なんのためにこの遠足に参加していると思っているのだ。
「……ついに完全にイカレちまったのか? ま、いいや。お先にっ! 『子犬ちゃん』!」
「なっ! クソッ! 待て! 卑怯だぞ!」
まずい。本格的にまずい。このままでは本当にあいつの下僕として生きていかなければならなくなる。『世界を守る偉大な人間が実は女子中学生の下僕でした』とか本気でしゃれにならん! そんなのは嫌だっ! 嫌すぎるっ! 持ち上げてもすぐに降りてしまう扉、あれをどうにかするしか方法は……。待てよ? 持ち上げてもすぐに降りてしまう? そうかっ!
「おお! 光貴くんまさかのスペシャルテクだねっ! すごい! それでこそ光貴くんだっ!」
「こうちゃん選手、素早い動きでどんどんロープを上っていきます。同時に扉も徐々にですが持ち上がっているようです。アレはどういう原理なのですか?」
ゴールが近くなったからか、智菜と夢野声が聞こえてきた。……あいつら、人が真剣に戦っているというのに、遊んでやがる。
「力を入れた一瞬は扉が持ち上がることを利用したんだよ! つまり、落ちる暇なくどんどん引っ張ってるんだね。全体重以上の力が必要だから、反比例で上っていってしまうのだろう」
「そうですか。ですが、あれでは――」
俺はロープの頂上までたどり着いてしまった。しかし、扉はまだ半分ほどしか開いていない。
「一か八かっ!」
俺は最後に思いっきりロープを引っ張るとそのまま手を放す。一瞬の浮遊感のあと、地面が迫ってくる。俺は足が着く直前に片足だけ大きく曲げた。地面を転がるように衝撃を分散させるとすぐに扉に向かってダイブ。扉は既に閉じかけている。間に合うか――!?
「いったー。すごいです。ギリギリで扉をくぐり抜けました」
「おおっ! すごい! ボクもう、興奮で胸がっ! 胸が苦しいっ!」
「しかし、前方を行く、かおちゃんは既に『ターザンロープEX~水上バージョン~』の第二ロープを滑り降りています」
『ターザンロープEX~水上バージョン~』は滑車付きのロープにしがみついて滑り下りるだけという結構有名なアスレチックなのだが、滑車は途中で止まるようになっていて、その度に乗換えが必要なのだ。はっきり言って順位の変動はかなり起きにくいだろう。香織が乗換を失敗するとも思えない。
「残念だけど、勝負は決したね。ふぅ、胸の苦しみがとれちゃったよ……」
勝手なことばかり抜かしやがって! まだ負けたわけじゃないぞ! ……仕方ない。俺の本気を見せてやるか。
♪♪♪
「あーあ、光貴負けちゃうね」
「いいじゃん。下僕の大変さを知ることであいつもまともになるんじゃない?」
「でもそうすると武田くんは『下僕の下僕』だよね」
「光貴っ! 勝て! 勝つんだぁっ!!」
おお! 武田くんが腕を振り回して応援しだした。
その光貴はというと、今まさに『ターザンロープEX~水上バージョン~』のメインロープをたぐり寄せたところだ。だが既に織田さんは第三ロープ、つまり最終ロープへと飛び移ろうかというところ。織田さんがここでミスをしなければ光貴の負けは決定したようなものだ。
「かおちゃん、見事に最後のロープを掴みました」
「あーあ。決まったね。接戦の写真判定とかそういうの期待してたんだけどなぁ。写真撮る身にもなって欲しいね。せっかくカメラもデジタルに持ち替えたというのに」
「いや、まだです。まだこうちゃんは諦めていない様子。なにやらおかしな動きを見せています」
「あ。あれは?」
実況の声に光貴に視線を戻すと、第一ロープを掴み、滑り降りる光貴の姿が目に入った。だけど、それだけじゃない。光貴はどんどんロープを上っていた。
「まさか光貴くん! そんな……いやだけど、それなら逆転もあるかもしれない! さすがだよっ!」
「どういう事ですか?」
「あれだよっ!」
……うそ。光貴は走っていた。確かにあれなら滑車を使って緩やかな傾斜を滑り降りるより圧倒的に速い。だけどこんなことってあるの?
「おお。ちょっとよそ見していた間にまさかの逆転作戦発動です。なんとこうちゃん選手、ロープの上を走っています」
そうなのだ。緩やかに下るようにかけられたロープの上を光貴は走っていた。本来は滑車を使って滑り降りるだけのためにあるロープ。綱渡り用のようにピント張り詰めることもなく、その上を歩くだけでも難しいだろうロープ。光貴はその上を走っているのだ!
だが、この信じられない作戦をもってしても勝敗は微妙なところだった。
「勝てッ! 勝つんだ光貴! お前が織田さんの下僕になったら絶対、僕に全部仕事回って来るじゃないか!
そんなのは嫌だぁあああああっ!」
「おおっ! 燃える! 僕の胸が燃えてしまうっ! カメラカメラッ!」
「すごいです。頑張ってくださいっ」
普段は絶対に大きな声を出すことのない結芽ちゃんまでも声を張って二人の戦いを応援していた。なんだろう。なんか、私もちょっとわくわくしてきちゃった。
織田さんはゴール地点の足場まであと十メートルもない。対して光貴はまだ追いついてはいなかった。その差、約五メートル。
光貴の目は死んではいなかった。ただひたすらゴール地点だけを見つめるその目には、確かに強い光が宿っていた。すごい。頑張れ。頑張れ光貴。
「……がんばれ。がんばれぇ! がんばれ光貴ぃーっ!」
光貴と織田さんが同時に飛んだ。新聞ちゃんのフラッシュが、目が眩むほど焚かれた。二人はまるで映画の主人公のようにスローモーションで空中を舞った。光貴か? 織田さんか?
トトン。
着地は同時に見えた。だけど、着地音だけが違うと言っている。
「ど、どっちが勝ったんですか?」
「今、確認するよ」
新聞ちゃんがカメラの画面で確認する。光貴と織田さん以外のみんなが集まり、それを覗き込んだ。
武田くんが顔を上げる。光貴と織田さんを交互に見て、ゆっくりと大きく息を吸った。
「……勝者っ、黒野光貴!」
そして高らか名前を呼ばれたのは光貴だった。
「すごいですっ」
「もう、ボクは死んでもいいや、こんな戦い見せてもらえたら」
結芽ちゃんと新聞ちゃんが光貴のそばに駆け寄る。武田くんの手によって天高く上げられた光貴の手のひらは、いくつもの過酷な戦いですり切れていた。私はなんだか胸が熱くなって、何かがこみ上げそうで慌てて目を伏せた。
「……負けちまったな。お前、すげぇじゃん」
「ま、お前も中々の強敵だったぞ」
「……うるせぇ」
光貴と織田さんが互いの健闘を称え合うかのように熱い握手を交す。フラッシュが焚かれ、みんなが自然と拍手を送った。
こうして、私の最初の遠足は感動の幕を下ろしたのだった。やっぱり普通の遠足にはならなかったね。
…………ま、いっか。
第三章、終了です!
次回、閑話を挟んで終章となります!
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。よければ最後までついてきてくれると嬉しいです。
それと、感想、評価などいただけると嬉しいです! 次回作を書く力にさせていただきます!
なのでもちろん、悪い点でも構いません!
どれくらいの人がここまで読んでくれているのかも知りたいというのもあります。
率直な意見を一言でもいいので是非、よろしくお願いします!




