上山公園の試練~5~
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「れでぃーすあんどじぇんとるめん。お待たせ致しました。本日のメインイベント『不良VSウンチ』の主従決定戦でございます。実況はわたくし、夢野結芽、解説は新聞ちゃんこと河野智菜の二人でお送り致します」
「よっろしくー」
ベンチに座った結芽ちゃんと新聞ちゃんがノリノリで実況ごっこを始める中、私たちは『デビルウォーター』のゴール付近にいた。池を挟んだ対岸には光貴と織田さんが既に火花を散らすように言い争っていた。何を言っているのかはわからないけど、早くしないと今にもどちらかが手を出してしまいそうな雰囲気だ。
だと言うのに、結芽ちゃんと新聞ちゃんはのんびりと試合前予想や二人のコンディションを誰に伝えるでもなく話し続けている。
「つまり、分はかおちゃんにあるというわけですね?」
「そうだね。陸上部でも将来のエースと期待される香織くんだし、やっぱり変人帰宅部の光貴くんには負けられないっていう意地があるんじゃないかな?」
ああ、やっぱり光貴への認識は変人なんだね……。その通りだよ。言い訳のしようもないよ。
「そろそろお昼なので、実況しながらお弁当食べても良いですか? 良いですよね?」
結芽ちゃんがリュックサックから幾つものお弁当箱を取り出す。
「えっと、結芽くん? 実況しながらご飯というのは……そ、それよりその量は一人分?」
「はい。食べたいなら少しならあげますよ?……もぐもぐ」
「あー、見てるだけでお腹いっぱいになりそうだよ」
結芽ちゃんはリスみたいに食べ物を口に詰め込み始めた。おおう……まさにフリーダム。
「あ、いよいよスタートのようです。もぐもぐ。スターターのたけちゃんが手を振っています。もぐもぐ」
武田くんが光貴達に合図を送るように手を大きく振っている。それに気づいた光貴達は口論をやめ、スタート体勢に。
「さあ、緊張のもぐもぐ一瞬ですねもぐもぐ」
「結芽くん……試合終わるまで我慢しないかい?」
「え……」
結芽ちゃんが泣きそうな顔で新聞ちゃんを見上げる。
「い、いや、ごめん。いいよ食べてて……」
「あ、今、もぐもぐしました」
「やっぱり、お預け!」
「がーん……」
新聞ちゃんが結芽ちゃんのお弁当をせっせと片付ける。とか何とかやっているうちに武田くんの合図でもう二人の試合は始まってしまっていた。
さてさて、どっちが勝つのだろうか? 個人的には……うーん、まあ、どっちが勝ってもいいや。
☆☆☆
さすが陸上部期待のエースというだけあって香織の走りはなかなかのものだった。最初のゾーン、『トントンジャンプ~水上バージョン~』を難なくクリアしていく。俺たちは同時に次の『ハリセンショック』へと突入していく。
左右を高い塀で囲われた橋に入った途端、最初のトラップが発動した。塀に埋められるように待ち構えていたハリセンが次々と左右から襲いかかってくる。ハリセンの出てくる穴は無数にあり、作動するかはランダムのようだ。つまり、見極めるには己の動体視力と勘だけ。俺はしゃがみ、跳び、捻り、次々とハリセンを躱しては前に進み続ける。
あと少しでこのゾーンを抜ける。
その油断を待ち構えていたように最後にして最大のトラップが発動された。左右同時ハリセン。しかも顔と足を同時に狙うように複数のハリセンが襲いかかる。
「くっ!」
俺は意を決して飛び込んだ。上下左右全てを塞がれたなら、真ん中を突っ切ればいい。頭から突っ込むように飛ぶと、着地と同時に前転をする。そのまま勢いを殺さないように立ち上がるとすぐに駆け出した。
だが、塀が外れ視界が開けると、数メートル前方を走る香織が目に入った。
「なっ!」
俺の走りは完璧だったはずだ。思わず、後ろを振り返る。香織のゾーンのトラップが発動しなかったのではないかと思ったのだ。だが
「貴様っ! 卑怯だぞ!」
「うっせぇっ! 規定のルートは通ってんだろうがっ!」
香織のゾーンのハリセンは全て折れ曲がっていた。つまり、香織は数々のハリセンを避けることなく力業で突っ切ったのだ。なんて奴だ。器物破損をこんなに堂々としでかすなんて……。持ち主のCWOに謝れっ!
すぐに次のゾーンが現れる。『妨害丸太』ゾーンだ。ここからが『水の王国』の本領発揮だった。ミスをする、すなわちそれは、池に落ちることを意味していた。
香織は器用にも自分の足場である横倒しの丸太を俺の足場にぶつけながら走破する。
俺が『妨害丸太』ゾーンに踏み込んだとき、足場は不安定に動きまくっていた。この程度で踏み外すことはないが、減速は避けられない。
またもや香織との差が広がる。……まずい。香織の運動神経は予想以上の物だ。
俺には、とにかく走り続けるという選択肢しか残されていなかった。
♪♪♪
『グルグルロード』、『超絶回転タイヤ野郎』、『一本橋丸太』、などを二人は次々に突破していく。二人とも、私にはとても真似できない見事な走りだったけど、若干光貴が後れを取っているみたいだ。というか、一つだけ名前おかしくない?
「『超絶回転タイヤ野郎』と『一本橋丸太』のコンビは強烈ですね」
「二人とも良く走れるもんだ。目が回らないのかな」
「さて、次は『必中ボール』ですが……あれは何をしているんですか?」
「鐘をならそうとしているんだよ。十メートル先の鐘から垂れ下がった的にボールを当てることで鳴らす仕組みだね。ボールは十球しかないから外したら大変というわけだ。ボクだったら一発で当てる自信があるけど」
「あ。こうちゃんが先に鐘に当てたようです。ここに来て逆転しました」
「香織くんも十球目でようやく当てたみたいだよ。危なかったね」
ところで的当てってアスレチックなのかな? なんだか違う気がするんだけど。ま、いいか。
あとは『水上ゴザ走り』、『沈黙の扉』、『ターザンロープEX~水上バージョン~』の三つを残すのみとなった。
「両者、まるでゴザなんて存在しないかのような素晴らしい走りを見せています」
「いや、それじゃ走れないから」
結芽ちゃんの実況に思わずつっこむ。
「すっごいねっ! いやー、まるでどこかの神の子みたいだよ!」
「いやいや、あの人はあんな形相で走らなかったと思うよ?」
「……りっちゃん、うるさいです」
「……もしかしたら走ってたかも知れないじゃないか」
あ、怒らせてしまったらしい。ごめんなさい。
「さて、気を取り直して実況を再開します。両者、ついにゴザゾーンを突破した模様です」
「いよいよクライマックスだね! なんだか胸が熱くなるよ!」
新聞ちゃんが興奮しながらカメラの準備をし始めた。ゴールの瞬間でも撮るつもりなのだろう。
「ねえ、この勝負、面白い?」
「いや、全然。僕、興味ないし」
「……だよねー」
私と武田くんは静かに勝負の行方を見守るのだった。……あ、今どっかでカエルが鳴いた。
次回、光貴VS香織
決着です!




