上山公園の試練~3~
休日スペシャルということで今日、二本目をあげてしまいます!
でも、明日は一話かもしれません(笑)
☆☆☆
「なあ、光貴。もう、無駄だって。タイムだって落ちてるだろ? A判定だってすごいと思うよ?」
「うるさい! 黙れ! A判定なら貴様にだってとれただろうが!」
「ま、僕は完璧だからね」
……あれから何十回とトライし続けたが、どうしてもS判定に届くことはできなかった。それどころか、さすがにこうも連続して走り続けると体力も保たず、タイムは落ちる一方だ。
武田の言うとおり、ここはA判定で満足すべきなのだろうか? 時間も既に昼近く。クラスでの集合は十五時なので、他のゾーンのアスレチックにも挑戦するなら、さすがに潮時なのかも知れん。……だが
「第一試練なんかで躓くような人間をCWOが欲しがるわけがないんだ……っ」
俺は立ち上がるともう一度スタート地点に立った。
「まだやるの?」
「当たり前だ」
下を見るから恐怖心が芽生えるのだ。ならば見なければいい。そう、心の目だ。見るのではない。感じるのだ!
俺は強く目を瞑ると一歩目を踏み出した。と同時に踏み外した事に気づき、目を開ける。
あ……空が青い。のどかだながッ!
ごんっ! という音が聞こえたと思ったら目の前が急に真っ暗になり俺は意識を失った。
「点呼ぉ!」
「1!」
「2!」
教官の「休め!」という声に俺は両足を肩幅に開く。
「貴様らに問おう。なぜここにいる! 黒野ぉ!」
「自分の独断専行により、保護対象の命を危険にさらし、あまつさえ、魔王の復活を一歩前進させてしまったからであります!」
「忠野ぉ!」
「自分の勘違いにより、任務に参加できなかったからであります!」
俺たちの返答に教官は無表情で応える。やがて、その表情をいやらしく歪め、俺に向かって吐き捨てた。
「黒野先生のご子息であり、実力も先生を凌駕すると絶賛されCWOに入ったらしいが、所詮はこの程度。自らの力を過信し、その奢りこそが、貴様がここにいる理由だ。夢野が間に合わなかったらどうなっていたことか。既に命は捨てたと思え。僕が一から鍛え直してやる」
「はっ! 光栄であります!」
言葉とは裏腹に俺は腹が煮えくり返る思いだった。この武田という男はCWOの少年部教官であり、実力はトップレベルと言うことだが、所詮それもアンダー十五の中での話だ。俺は既に最前線で戦うだけの技量を持っているのだ。格下であるはずのこの男に従うことは苦痛以外の何者でもなかった。
だが、今は耐えるしかない。任務に失敗し、律を危険にさらしたのは事実だ。この特別教育訓練を乗り越えなくては前線に戻ることは不可能だろう。
「貴様らにはこれから二週間ここで地獄を見てもらう。まずは準備運動して『エンジェルロード』に挑戦してもらおう。だが、僕も貴様らの実力を不当に低く見ているわけではない。貴様らの実力ならたやすくS判定を取ることができるだろう。よって、貴様らのうちタイムが遅かった方は特別訓練だ。本日の全日程を消化後、対DDO魔法部隊模擬戦を五セット行ってもらうことになるので、心するように」
「「はっ!」」
俺と忠野という男の声が揃う。忠野がただ者ではないのは一目見ただけでわかった。少なくとも目の前にいる武田よりも数段優れた素質を持っているだろう。
「装備は基Aとする! 確認後、一三〇〇(ひとさんまるまる)に『エンジェルロード』A地点に集合! 以上! 解散!」
教官の声に俺と忠野は宿舎へと走る。一瞥するが、忠野はひたすら前を向いて走るのみ。俺は少しからかってやることにした。
「ALに貴様のその図体は邪魔なだけなんじゃないか? 俺に勝ちたかったら装備と共にその無駄な筋肉も置いてくるんだな」
「……」
忠野は何も反応を示さなかった。……つまらない男だ。まあ、いい。今更、仮想訓練など時間の無駄だ。少し本気を出させてもらって、夜は省略詠唱の開発に勤しませてもらおう。
俺は隣で走るこの男が無様に負ける姿を想像して小さく笑うのだった。
「光貴! 起きろって!」
「……ん」
目を開けると青ざめた顔の武田教官が覗き込んできていた。
「よかったぁ……先生呼ぶところだったんだぞ」
「はっ! なんたる醜態! 失礼致しました! 武田教官!」
俺は飛び起きると武田教官に敬礼をした。
「……やっぱ先生呼ぼう。そうしよう」
武田教官が何とも残念なそう顔を見せて歩き出そうとする。というか、あれ? ここは……上山公園か?
「待て、冗談だ。そしてなんでお前が教官なんだ。なんかむかつくから一発殴らせろ」
「自分で言い出したことを理由に殴るってなに! 理不尽すぎるだろ!」
「じゃあ、せめて俺の事を教官と呼べ」
「いやだよ! ほんっとわけわかんないなきみは……」
しかし、なんという嫌な夢だ。どうして下僕である武田が俺の上司なんだ。こいつが三等兵で俺は大佐ぐらいがちょうど良いだろうに。
俺は小さくため息を吐くともう一度『トントンジャンプ』に挑戦するために歩き始めた。
「もう諦めろって。ほんと懲りないな。きみ、頭打って気絶までしたんだぞ?」
「うるさい。たっぷり休憩したんだ。今度こそ――」
「どけ、黒野光貴」
場を支配するような低い声が辺りに響く。俺はスタート地点で振り返った。そこには俺を睨み付けるように立つ忠野虎牙がいた。
どうやらこいつはこのアスレチックに挑むつもりらしい。
「虎牙、残念だがお前にS判定は無理だ。そのでかい身体じゃ――」
「黙って見ていろ」
俺はこめかみが自分の意思とは無関係に動いたのを感じた。ずいぶんと舐めたことを言ってくれる。そこまで言うからにはよっぽどの自信があるらしい。見せてもらおうじゃないか。貴様の実力とやらを。
虎牙は俺が下がったのを確認すると走り出した。――アスレチックの二十メートルも手前から。
巨大な体躯からは想像もできないような俊敏さで回る足は、彼のスピードを瞬く間に加速させ、アスレチックの入り口にたどり着いたときには最高速まで加速し終えていた。虎牙はそのまま臆することなく『トントンジャンプ』へと踏み込む。
その姿はまるで密林を駆ける虎のようだった。生い茂る草木をものともせずに走り抜ける姿が確かに見えた。
「武田……タイムは?」
俺のその問いに武田は息を呑んだ。それが答えだった。
振り返った虎牙の目は笑ってはいなかった。だが、確かに奴は俺を挑発していた。『お前についてこれるか?』そう奴の目は語っていた。
「ふざけるなよ……?」
ここまでこけにされたのは生まれて初めてだ。俺は虎牙が踏み出した場所に移動する。一度大きく息を吸い、荒れ狂う気持ちを沈め、今度は全ての空気を吐き出して、身体の力を抜いた。
「武田、いくぞ」
そう、呟いた刹那、俺は爆発的な加速度で走り出した。風を切り、瞬く間に乱立する丸太のゾーンが近づく。
そして、俺は飛んだ。
丸太の上を飛ぶように駆ける。恐怖は感じなかった。今までよりも圧倒的に速いスピードで走っているにもかかわらず、次に足場にすべき丸太を完璧に把握することができた。
「どちらが勝った?」
タイムは訊かなかった。S判定が出たのはわかりきったことだった。あとは奴との勝負。
「きみだよ」
武田の声に胸の中に熱いものがこみ上げる。だが、吐き出しはしなかった。まだだ。この戦いは今始まったばかりなのだから。
虎牙に視線を向けて俺は小さく笑った。虎牙は何も応えず次のアスレチックへ。俺は高揚する気分を抑え込むように走り出すのだった。




