上山公園の試練~2~
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全く、光貴に付き合ってたら遠足があのアスレチックだけで終わっちゃうよ。こういうのは楽しんでなんぼだもん。ムキになってあんなに無茶苦茶な条件のS判定を取る必要なんてどこにもないよね?
「にしても……」
これ、難しすぎない? S判定を目指さなくても私たちには十分難度が高い。最初の頃は楽しんでできたアスレチックの数々だったけど、今じゃ、クリアするのがやっと。というか、すでにいくつかは、見た目だけで無理だと判断して断念しています。
今挑んでいるのは、太いロープを粗く編んだネットによって作られた橋を、ただ渡るだけのものなのだけど、これが意外と難しい。ネットが大きく弛んでいるので、一歩進むごとに大きく沈んでしまうんだよね。
「こ、これも、疲れるねぇ。ね、結芽ちゃん?」
私がそう声をかけて後ろを振り返ると結芽ちゃんがあり得ない体勢になっていた。
「ゆ、結芽ちゃんっ!? なんで? なんでそうなるのっ!?」
「……気づいたらこうなっていました」
ネットの間をまるで刺繍の波縫いのように両足が突き抜けている。加えて腰を捻るようにして右手が左側のロープに絡まり、背中のリュックサックのせいで捻りながらもブリッジみたいな体勢になり、おまけに左手がリュックとネットに挟まれていて身動きがとれないようだった。……絡まった操り人形みたい。
「ちょっと待ってて! 今、助けてあげるから!」
「かたじけないです……」
結芽ちゃんはどうやら運動が苦手のようだった。それに加えて大きなリュックサックを持ち歩いているのも問題だ。下ろせばいいのに、そのつもりはないらしい。
そのせいで、バランスを取るアスレチックでは一歩ごとに地面に足が着いちゃうし、ロープを使って坂を登るやつでは、そもそも一歩も上れなかった。……まあ、それでもここまで酷いとは思わなかったんだけど。
とにかく背中のリュックとネットに挟まれた左手が痛そうだったので私はどうにかそれを外そうと身体を持ち上げる。
「結芽ちゃん、ちょっとだけでも身体持ち上がらない?」
「……りっちゃんがそこにいると上がらないです」
「あ、そっかごめん。あ、うわっ!」
結芽ちゃんに言われてどこうとしたら、足を滑らせて片足がネットの下へ。
「うぐぅっ!」
そしてバランスを崩して私の顎が、結芽ちゃんの鳩尾にクリーンヒットしてしまった。
「ご、ごめんっ! 大丈夫?」
結芽ちゃんが動かせないはずの身体をぷるぷるさせて必死に耐えていた。ブリッジみたいな体勢のせいで力が入らなさそうだし。私がやったことだけどとっても痛そう……。
「ゆ、結芽ちゃん? ごめんね? いま、今助けてあげるっ!」
とにかく絡まったネットをどうにかしようとリュックサックの下敷きとなってる結芽ちゃんの左手を引っ張る。
「イッ! イタッ! イタッ! イタッ!」
「ごごごごごごごめんっ! ってうわっ!」
痛がる結芽ちゃんに焦った私は勢いよく体勢を持ち上げたが、またバランスを崩して倒れてしまう。結芽ちゃんにぶつかるのを何とか回避しようと身体を捻るっ!
「はぐっ!」
右手がネットの下へ突き抜け焦った私は左手で結芽ちゃんの服を掴んでしまった。どうやらそのせいで、さらに無理な体勢になってしまったようだ。
「ごめんごめんごめんごめんごめんっ!」
とにかくひたすら謝るしかないっ! めちゃくちゃ痛そうだしっ!
どんどん悪化する状況にどうしようと頭を抱えていると見知らぬ顔が視界いっぱいに入り込んできた。
「……なにやってんだ?」
端正な顔立ちの女の子だった。神之宮中等部のジャージを着ているので同級生だろう。すっごく短いショートカットでちょっと目つきが悪い。なんだか怖そうな子だ。
「え、えと……絡まっちゃって」
ちょっとどきどきしながらそう言うと、女の子は眉を潜めて手を伸ばしてきた。なぜか、殴られるっ! と思ってしまい、ぎゅっと目を瞑る。
「あ……」
気がつくと右手が自由になっていた。どうやら彼女が引き上げてくれたようだ。女の子はどんどん要領よく、私たちの身体をネット地獄から解放してくれる。なんだが雰囲気が怖いけど、もしかしたらいい人?
「あ、ありがとう」
「ったく、無茶しちゃダメだろうが。こーいうのは無理だと思ったらあきらめんだよ」
「う、うん」
「全くです。おかげで酷い目に合いました」
「ああん? てめぇもだろがっ」
「イタッ!」
叩いたっ! この人すごい形相で結芽ちゃんを叩いたよっ! ……けど、そんなに痛くはないらしい。手加減してくれたのかな?
私たちは女の子の助けを借りてどうにか地上へ。まいったよ。もう、アスレチックはこりごりです。
「あたしは織田香織、E組だ。お前らは?」
クイッと顎で指される。地面に降りたってわかったけど、織田さんは背が高い。もしかしたら武田くんより高いかも?
「わ、私は香坂律です。A組です」
「私は夢野結芽です。魔法少女です」
織田さんの眉がぴくっと跳ねる。……っ! ゆゆゆ結芽ちゃんっ! お願いだからボケないでっ!
「ははっ! お前、面白いな。つーかお前ら、んなカタッ苦しいしゃべりかたしてんじゃねーよ。サブイボ出んだろうが」
わ、笑ったっ! 結芽ちゃんの電波発言に笑ってくれたよこの人っ! ……やっぱりいい人?
「つーかなんで二人なんだ? 班の他の奴らは?」
それを言ったら、織田さんこそなんで一人なんですか? とは言えなかった。……だって、なんかこの人オーラでてる気がするよ? 黒いの。そして赤いの。つまり怖いの……。
「問題ですか? クイズは得意です。でも、なんて表現したらいいか難しいですね。『こうちゃんが第一試練をクリアできないから置いてきた』これでどうです? 正解ですか?」
っっっっっっ! やめてっ! 結芽ちゃん、お願いだから黙って! 殺されるっ!
「ははっ! なんだそれ。おもしれーなお前。しかし、あんなちゃちなもんクリアできないってどんだけ運痴なんだ?」
「まさにウンチレベルです」
「ぶわっはは! お前サイコーだわっ!」
……なんか、この二人息が合ってるような……。なにこれ? あれかな? 磁石のS極とN極が引き合うように正反対の性質の二人は引き合うみたいな? そんな感じ?
「気に入ったっ! お前らほっとくのも気になるから一緒にまわるか? あーあー、気にすんな。ちゃんと面倒見てやるからよ」
「ふつつか者ですがよろしくお願いします」
「ぶわっはっは!」
…………置いてけぼりの私ー。しかもどんどん話進んでるし。なんかまたやっかいな人が現れたなぁ。
仕方ないので、私は小さくなって二人の後に付いていくのでした。




