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勇者、目指してます。  作者: とんび
山上公園の試練
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上山公園の試練~1~

「じゃあ、点呼するぞー。班長は各班員が揃っているか確認して報告するよーに」


 田辺先生の合図で私は後ろを振り返る。


「……揃ってるね」


「見ればわかるだろうが」


「僕は班長のいるところならどこへでもついていく覚悟だよ」


「ちゃんといるのです」


 ……ため息吐いて良いですか? いいですよね? はぁ……。


 とっても楽しみにしていた遠足は、今まさに想像もしていなかったメンバーで始まろうとしていた。


 光貴は仕方ない。というか、もしかしたら、とは思っていた。だってこいつ、友達いないし。


 だけどさ! なんで隣のクラスの武田くんまでいるの!? 結芽ちゃんまでいるの!? そしてなぜ私のマイハニー、後ろの席のミキちゃんがどこにもいないの!? ああ、中学校生活最初の行事が……。


 きっと大人になった私は子供にこう話すんだね……。『ママの最初の遠足は魔王を倒すことが生き甲斐の幼なじみと、お姉ちゃんに殴られることが夢の変態君と、魔術が世の中を裏から動かしていると思ってる魔法少女と一緒にまわったのよ』って。……泣いて良いですか?


 事の顛末はこうだ。私が風邪で休んでいた間に班が決まる。→光貴、余る。→私と組ませとけばいいだろう。→その後ひとまず保留。→武田くん、隣のクラス(B組)で余る。→どうしても誰も班員になってくれない。→ひとまず保留。→結芽ちゃん、クラス(C組)で余る。というか、結芽ちゃんが誰とも組まないと宣言したらしい。→保留。→職員会議。→あまったもん同士組ませりゃいいんじゃん?(校長)→そうっすね! あまりもん同士、シンパシーが生まれるかもっすね!(教頭)→友達できて良かったなぁお前ら(学年主任兼我らが担任の田辺先生)


 いじめ、ダメ絶対。クラスに馴染むための遠足でしょ! 光貴を私とくっつけてどうするのよ! これじゃあ、いつまで経っても光貴は独り立ちできないじゃないか! 結芽ちゃんの宣言だってそれで引き下がっちゃダメでしょ先生! どうにか! クラスと! 馴染めるように! 配慮してあげてよ! ……あと、武田くんのは本当にいじめだと思います。


 どうやら武田くんは本格的にクラスメイトからはぶられているらしい。光貴の話だと、入学してからだいぶ無茶苦茶なことしてクラスヒエラルキーの頂点に君臨していたらしいのだけど、最近になって一気に瓦解したとか。私が思うに、光貴に良いように使われてる事を目撃されているのが原因じゃないかと。……どうりで最近、武田くんがよくうちのクラスに出没すると思ったよ。


 あと、マイハニーであるミキちゃんは、『黒野君が怖い……ごめんね?』とのことだ。ううぅ。光貴の友達ができる前に、私の友達がいなくなっちゃいそうなんだけど田辺先生……。


「じゃ、こっからは自由行動だ。怪我や事故があったら近くにいる先生に報告するように。そいじゃ、楽しみなさいな遠足を」


 田辺先生の合図でバラバラとクラスのみんなが散っていく。ああ、ミキちゃん……あんなに楽しそうにおしゃべりしてるよぉ……ミキちゃん……ううぅ。


「おい、律。なにグズグズしているんだ。目指すんだろう? オールS判定! 任せろ。この日のために考案した完璧なプランがある。愚鈍なお前でもきっとCWOの目に留まるぐらいの成績は残せるはずだ」


 光貴が私の襟首を掴んで引きずりながら歩き始めるが、私はまだミキちゃんを忘れられずにいた。ああ、グッバイマイハニー。グッバイ普通の遠足……。



☆☆☆



 上山公園には魔物が住むという。どんなに屈強な男でも、どんなに清く強靱な精神を持つ者でも必ずどこかでミスをしてしまう。まるで見えない手に引かれるように、脆くも崩れ去っていくというのだ。


 だが、そんな噂もこれまでだ。前人未踏のオールS判定制覇の偉業は俺のために残された王座の証。誰にもその邪魔はさせん! ……そのはずだった。


「光貴ー、もういいじゃん。諦めなよー。次いこーよー。時間なくなっちゃうよ?」


「まだだっ! く、くそっ……諦めてたまるか、俺はこんなところで潰れるような凡人ではないっ!」


「こうちゃん、また行きましたよ。努力の人ですね」


「ジャージがだぼだぼなのがいけないんじゃないかな? まあ、それがなくても僕は無理だと思うけどね」


 『旅立ちの森~第一試練~トントンジャンプ』に俺は挑んでいた。地面から無数に生えたように並ぶ丸太の上を飛び歩き、向こう側に渡るという至ってオーソドックスなものだ。事前の調査によると、この『旅立ちの森』は数あるステージでも最も低い難易度のはずだった。だが――


「武田ぁっ! タイムは!?」


「5秒37」


「くそぉおおおおおおおおおおおおおおっ!」


 どうしてもS判定がとれないのだ。この第一試練は約三十メートルの乱立する丸太地帯を五秒以内でクリアしなくてはいけない。つまり、ほぼ全力疾走だ。しかも中間地点辺りの丸太の高さは俺の身長より上。このスピードで足を踏み外せば痛いでは済まないだろう。はっきり言おう。これを考えた奴は頭がおかしい。


「なぜだ……俺の足には天使が宿っているのではなかったのか? どうすれば……一体どうすればS判定がとれるのだ……っ」


 これをクリアする方法はわかっている。本当に全力疾走すればいいのだ。平地での三十メートルを五秒以内なら楽勝なのだ。つまり、まだ俺に恐怖心が残っているということ。それさえ取り除ければ……。


「光貴ー。私たち先行ってるねー」


 その宣言に俺は驚き、振り返る。律と結芽は既に次のアスレチック、『グラグラ丸太』の近くにいた。


「お、おい! S判定はどうするんだよっ!」


「私たち、別にS判定じゃなくても良いし」


「というより、私には無理です」


 そう言うと、早速楽しそうに『グラグラ丸太』に挑戦し始めてしまった。……あ、甘ったれている。あんなに楽しそうに――否、ふざけながらやっていてCWOに入れるわけがないだろうが!


「あ、ちょっとまってよ! 僕も行く――」


《殴って殴って! もっと強くっ! おねぇちゃーんっ!》


「お前はここにいてくれるよな?」


「鬼かきみは!? だいたい、僕はそんなこと言った覚えはないぞ。なんで僕の声で――」


「編集でいくらでもどうにかなる。で、お前はここに居たいんだよな?」


「きみは本当に最低だな……」


 さて、計測要員は確保したことだし、もう一度挑戦するか。


 辺りにさっきまでの騒がしさがなく、少々、静かすぎる気がした。しかし……あんな甘えた根性の奴らなんてどうでもいい! 俺は、絶対に負けない。見てろよCWOの幹部共っ!


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