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勇者、目指してます。  作者: とんび
闇魔法使いの陰謀
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闇魔法使いの陰謀~6~

 魔方陣の中心に私が座ると、光貴と結芽ちゃんがカーテンを閉め切り、蝋燭に火を付けていった。


「おい、武田。起きろ」


 光貴が武田くんを足でつついて起こした。首をさすりながら難しい顔をしていた武田くんだったが、転げ落ちていた眼鏡をかけた途端に私をそのレンズに捉えたらしい。表情一転、目を輝かせた。……もう、あれはそういう存在だって諦めるしかないのかも。


「はぁぁ、香坂さん、本当にお姉ちゃんみたいだよ。すごく似合う」


「ど、ども……」


 多分、武田くんにしたら最上級の褒め言葉なんだろう。


「武田は照明係をやってくれ。この紙に書いてある通りにやるんだぞ」


「な、なんで僕がこんな事……」


《お姉ちゃん! 好きだよぉ!》


 舌打ちしながら渋々立ち上がる武田くん。


「結芽、始めるぞ」


「了解です」


 ふっと部屋が暗くなる。武田くんが電気を消したのだ。蝋燭のゆらゆらとした炎が私たちの影を不気味に揺らしていた。……な、なんかちょっと雰囲気あるなぁ。


 結芽ちゃんが分厚い本を手に呪文を唱え始める。


(いにしえ)より存在する神聖なる者よ。我が呼びかけに応え、邪気を纏いしこの者の力となりたまえ。深淵の地の邪気は等しく深淵の地の聖なる力によってのみ払われる。この理を解する故に我は尊意を示す。証に我が言霊を供えよう」


 武田くんの手により電気が付けられ部屋が明るくなる。


「たけちゃん、グッジョブです。今です、こうちゃん」


 結芽ちゃんの合図で今度は光貴が何かを唱えだした。……ところで、みんなちゃん付けなんだね。結芽ちゃん。


「ああ。……昔々あるところにおじいさんとおばあさんがいました。いろいろあったけど、幸せになりました。めでたしめでたし」


 光貴はフッと蝋燭に息を吹きかけ、火を消した。


「な、なんなのよ今のは! 昔話? しかも大事なとこ全てすっ飛ばし? さらに百物語みたいなことしてんじゃないわよっ!」


「お、俺に言うな! これは結芽の考案した魔術だ。こいつは電波だが、魔術に対する知識だけは本物だ」


 電波などと光貴にだけは誰も言われたくないだろう。いや、それよりも今のどこがまともな魔術なのよ。まともな魔術がどんなんだか知らないけど。


「神聖な力は神聖な場ができて初めて使えます。神聖な場は神に対する信仰心や愛などの聖なる気持ちを持ち、呪文を唱えることで整います。だけど私にはどちらもないので幸せな物語を場に響かせることで代用したのです。省略したのはこうちゃんが『長いとりっちゃんが辛くて可哀想』だと言うからです。優しい彼氏さんで羨ましいです」


「彼氏じゃないし」


 そこははっきり断っておこう。そんな気持ち、こんな電波野郎に持つわけがない。


「そうだよ! 彼氏は僕だ!」


「断ったでしょ! ややこしくなるから武田くんは黙ってて!」


「じゃ、こうちゃん、続きを」


「あ、ああ……」


 また部屋が暗くなる。気のせいか光貴のトーンがちょっと下がっていた。なぜだ?


「二人の間に赤ちゃんが生まれました。それは待望の男の子です。これで一姫二太郎。二人はわーい! と手を取り合い、喜びました。……フッ」


「卒業。ああ、素晴らしい。これでヤラハタを迎えずに済む。素人童貞だけど。……フッ」


「今日の夕飯は寿司だ! ……フッ」


 ……もう、いいや。もうなんでもいいや。つっこむの疲れた。というか、いい加減しんどい。早く横になりたい。熱も上がってきた気がするし。だから今はただ、この馬鹿げた魔術が一刻も早く終わるように従順でいよう。もはやこれは悟りの境地だよ。絶対私が一番神聖な存在に近づいているよ。


「じゃあ、最終段階です。こうちゃん、あれを」


 光貴が指示されて取りだしたのは鍋と包丁と


「カエルッ!? なんでカエル!? ど、どうするつもりなのよ!」


「古来から黒魔術と言えば蛙と決まっているのです。あと蛇」


「ダメッ! 可哀想でしょ!」


 私は光貴の手からカエルをぶんどった。ああ、可哀想に。ずっと鞄の中に入れられていたんだね? 狭かったよね。痛かったよね。もう大丈夫だからね。その想いに応えるかのようにカエル君はゲコッと鳴いた。かぁーいいなぁー!


「だから言っただろ。律はカエル好きだからな。こうなるのは目に見えていた」


 光貴の言葉に結芽ちゃんは眉を寄せて首を傾げた。


「仕方ないです。それなら力は弱まりますが、代わりの蛇を――」


「そういう問題じゃないっ! 生き物を殺すな!」


「そうは言っても、それじゃあ術式が完成しませんよ……? これは問題ですか? クイズは得意ですよ。……でも魔術の新しい法則を見つけるだなんてとっても難題です」


「律、わがまま言うな。可哀想だがそうしないと律が死んでしまうのだぞ?」


「だから、私はただの風邪だって言ってるでしょっ! カエルさんを殺すぐらいなら私が死んだ方がマシよ!」


 やばい。どうやら、カエルかヘビを殺さないとこの儀式は終われないらしい。

とにかく、この状況をどうにかして、全員家から出てってもらって、そして私は横になるのだ。もう、ふらふらなのだ。目も霞んできた気がするのだ。限界……なのだ。どうすれば……。


 私は一度強く目を瞑ると、よしっ! と気合いを入れた。ここが最後の踏ん張りどころだ。


「あ、あー、なんだか、身体が軽くなった気がするなぁー。魔術、効いてきたかなぁー」


「何!? 本当か律っ!」


「まだ儀式、途中ですよ?」


 疑問に思ってる様子の結芽ちゃんに私は立ち上がってぶんぶん腕を振って応えた。


「結芽ちゃんの腕が良かったからかな? なんかもう、バッチリ治っちゃった! すごいねー」


「…………もちろんなのです。私の魔術理論は完璧です」


 結構、まんざらでもない様子の結芽ちゃん。これは……いけるっ!!


「おお! じゃあ、律はもう大丈夫なんだな? 感謝しろよ。俺が気づかなかったらお前死んでいたかも知れんぞ?」


「うんうん! ありがとう! 魔術ってホントにあるんだねーあははー」


 私はニコニコと精一杯の笑顔を振りまいて身体を動かす。……頭がガンガンする。


「香坂さん」


 呼び声に振り返ると武田くんが心配そうな顔で覗き込んでいた。ちょいちょいと手招きするので顔を寄せると耳元で囁かれる。


「うそでしょ。大丈夫なの?」


 ……そうだよね。普通の人にはばれるよね。


「いや、もう限界。だから私に合わせて。もう、静かに寝たいの私」


 ちょっとだけ眉を潜めた武田くん。きっと私に無理させることになるのが嫌なのだろう。だけど、それが一番早いと納得してくれたのか、小さく頷いてくれた。


「あー、香坂さんが治って良かったなぁ! じゃ、帰ろうか、光貴。夢野さん」


 武田くんが早速演技をして合わせてくれる。やっぱりいい人だこの人。これで変態さんじゃなければなぁ……。


 だけど、光貴は素直に頷いてくれなかった。


「いや、まだだ。またいつ律が狙われるかわからないから待機術式をかけておく必要がある」


「え? いやもうすっごい元気になったし、そんなことしなくても大丈夫! あははー」


 あははーって笑うのも限界だ。顔が引きつってる気がする。


「だめです。呪邪心抗退法は治癒魔法の部類であって、継続的に効果が続くものではないのです。予防が一番! って保健室にも書いてありますよ?」


 結芽ちゃんは腰に手を当て、胸を張ってそう演説した。言ってることは正しいんだけど、根本が間違ってる。何度も言うが私は風邪なのだ。……もう、やるしかないのかな? その待機術式とかいう儀式も、やらなきゃいけないのかな?


「そ、それは今度でいいじゃないか!」


 武田くんがどうにかしようと頑張ってくれるが、結芽ちゃんは小さく首を振る。


「術式が解かれたことは先方にばれています。早急な対処が必要なのです。では説明します。まず、スクワット百回を行って心身ともに健康になる必要があります。あ、腕立て伏せでも可です――」


 …………あははー、……もうだめです。


 私はそのまま床に座り込むと睡魔に意識を奪われた。


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