闇魔法使いの陰謀~5~
♪♪♪
懐かしいなぁ。昔よく光貴と来ていたぞうさん公園に私はいた。あの頃の光貴はいつだって私の憧れで、どこに行くにもついて行って、光貴のすることは全部真似して、全部失敗して、いつも怒られていて。
そうそう、この時も私は失敗したんだ。光貴が公園に流れる水路を飛び越えたんだよ。水路って言っても当時の私たちからすればちょっとした小川で。だからそれを飛び越えた光貴がとってもかっこよくて。だから私も真似したんだよね。
でも案の定失敗しちゃって、それだけじゃなくて対岸に足をぶつけて切っちゃって。私は痛みよりも血が出たことにびっくりしちゃって泣き出しちゃった。
でも光貴は全然動じなくて、むしろ泣いている私を怒って。それで私はもっと泣いちゃって。
「泣くな。ヒーローは泣かないんだぞ!」
「でも……血がぁ。うぇええ……」
「着替えないと風邪ひいちゃうな。帰るぞ」
「歩けないもん! 痛いよぉ……」
水路に落っこちた私は全身びしょびしょで、だんだん寒くなってきて。でも足も痛いし、どうしたらいいかわからないから泣いているだけだった。そうしたら光貴が
「ほら。おぶってやる」
「ふぇ?」
当時から背の小さかった光貴は、その小さな背中をこちらに向けてそう言ったのだ。私は急に恥ずかしくなって、泣くのをやめた。
「い、いいよ! 歩けるから」
勢いよく立ち上がったのだけど、やっぱり足が痛くて、座り込んでしまった。
「早くしろって」
光貴は無理矢理に私をおぶると歩き出した。
「……重くない?」
「重いよ。イタイッ! なんで殴るんだよ!?」
「レディにそういうこと言っちゃいけないんだよ」
「レディはこんなにちびじゃないよ」
「こうちゃんの方がチビじゃん!」
こうちゃんはよったよったとゆっくり歩いた。別に私が太ってたんじゃないよ? こうちゃんの力がなかっただけなんだから。……でも、こうちゃんは一度も弱音を吐かないで歩き続けた。
「服、こうちゃんのまで濡れちゃったね」
「そんなのいいよ」
「ごめんね? 今日は修行、できなくなっちゃったね」
「そんなのいいよ」
私はなんだか悲しくなってしまった。だってこうちゃんはヒーローを目指していて、毎日たくさん修行しているのだ。それが私のせいでできなくなっちゃって。
いつもそうだ。こうちゃんに迷惑ばかりかけてしまう。
「また泣いてるのか?」
「だってぇ……こうちゃん頑張ってるのに……修行」
「そんなもんいいんだって。お前ほっといたら意味なくなっちゃうじゃん」
「……ぐす。なんで?」
「俺がヒーローになるのはお前を守るためだもん」
……私はぎゅっと首に回した手に力を込めた。
「ありがと」
「……か、勘違いするなよ! ついでだからな! 世界を守るついで!」
私もいつかこうちゃんみたいに強くなれるかな? そしたら連れて行ってもらうんだ。一緒に守るんだ。世界を。……それとこうちゃんを。
「大丈夫か?」
「うん、私ね――」
「大丈夫か?」
「? 大丈夫だって」
「魔王は!? まだ復活してないな!?」
「ふぇ?」
ばっさぁっ! と布団をはぎ取られた。
「ふぇぇえええええ!」
「なにアホみたいな声出してるんだ。儀式を始めるぞ」
「おぉおおおおお! 香坂さん! 僕、感動だよ! お姉ちゃんそっくり! か、可愛い……」
「これが対象ですか? 確かに呪邪心抗退法が必要なようです。まさに私の出番というわけです」
目が覚めたらうるさかった。ひとまず私は徐々に近づいてきている武田くんを枕でぶっ飛ばす。
「ぐほぉっ! し、しあわ……せ」
き、気持ち悪い……。それより
「……だれですか?」
知らない子が増えていた。小さくて可愛らしい女の子だ。制服から察するにどうやらうちの学校の子らしい。
「問題ですね。クイズは得意です。……なかなか哲学的な問題ですね。難しいです」
変な子だった。まあ、光貴の知り合いなら変な子なのも仕方がないだろう。
「光貴、この子は?」
「ああ、こいつは図書委員の……魔法少女だ」
「うわー、ちょーびっくりー。なんて言うわけないでしょ! 名前とかもっと言うことあるでしょうが!」
だいたい意味がわからないし。なに? 図書委員の魔法少女って。
「そういえば、お前、名前なんて言うんだ?」
「夢野結芽です」
「だそうだ。あ、俺は黒野光貴だ」
「知ってますよ。ごうちゃんが呼んでましたから」
「おっそっ! 自己紹介おっそ! あ、私は香坂律です」
「よろしくです」
私は差し出された手を取り握手をした。……なんだこの流れ。
「とりあえず、儀式を始めるぞ。律、ちょっとそこをどいてくれ」
「ぎ、儀式? なにするつもり?」
「まあまあ、とりあえず香坂さんはこちらに」
夢野さんに誘導されるがまま部屋の隅に移動した私は何が始まるのかと不安でどきどきしながら光貴の行動を見守った。
光貴は立ち上がるとまず、部屋の中央に敷かれた布団を部屋の隅に運んだ。そして鞄から大きな筒状に丸めた紙を取りだすと布団の代わりに床に広げた。
「……魔方陣?」
「その通りです。これから呪邪心抗退法を行います」
「じゅじゃしん……? いや、だから私はただの風邪だって」
「安心してください。私の理論は完璧なのです」
ああ、この子、光貴側の人間だ。まずった。武田くんをノックダウンさせたのは失敗だった。二対一は卑怯なんじゃないかな?
光貴は魔方陣が書かれた四隅に重石代わりの蝋燭を置いた。
「さ、律。この中央に座ってくれ」
「嫌」
断られたのがよほど意外だったのか、夢野さんが目をまん丸にして驚いていた。
「何でですか? これで楽になるのですよ?」
「だ・か・ら、私は風邪だって言ってるでしょ! 夢野さんも魔王とかそういうの信じてるの? ダメだよ。光貴の言うこと真に受けちゃ」
「信じてませんよ。DDOとかそんな組織あるわけないじゃないですか。あと結芽でいいです」
「じゃあ、なんでこんなことするの? 私のことも律で良いよ。あと敬語じゃなくて良いよ。私一年生だし」
「魔術の存在は信じています。魔術こそが世の中を動かしているのです。りっちゃんは何者かに生け贄にさせられています。私も一年生です。敬語は気にしないでください。デフォです」
「で、でふぉ? いや、それより、呪われてるってそんなわけないじゃない。そして一気に砕けた呼び方になったね……」
「ぐだぐだ言ってないで、とにかくこっちにこいって。大丈夫だ。ちゃんと俺が守ってやる」
光貴が私の手を取って無理矢理立たせる。だけど私は抵抗しなかった。きっと、今の言葉が夢で見た昔の光景と被ったせいだろう。なんにも変わらなすぎてバカなことばかりする光貴だけど、こいつはこいつなりにきっと私のことを考えてくれているのだ。一度ぐらい付き合っても良いかな? そんな気持ちになってしまった。




