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勇者、目指してます。  作者: とんび
闇魔法使いの陰謀
13/34

闇魔法使いの陰謀~4~

☆☆☆


 数千年前、人類は最古にして最も偉大な発明をした。それが言語であり、文字だ。文字は石や動物の皮に書くことで正確に後生に情報を伝えた。そして紙の発明でそれは本となり、より広く後世にまで残せるようになる。


 本がなければ今の世に残らなかったものがある。それが魔法や魔術と呼ばれる存在だ。科学が世界の中心となり、それら精神世界の文化は廃れていった。だが、それでも彼らは本の中で細々と生き続けている。ファンタジー小説の中に出てくる空想の産物ではない。現実として存在した魔法の話だ。


 俺も魔導書と呼ばれる本をいくつか所有しているが、そのほとんどが直接攻撃的な魔法について書かれたものであり、呪術などの間接的な攻撃魔法や回復魔法は専門外だ。


 今必要なのは、誰かを傷つけるための魔法ではない。守り、救うための魔法だった。そのために俺はここに来た。


 学生の探求心を満たすため、百年以上かけて世界中から集められた本達が集う場所。それがこの神之宮中高等部合同図書館棟。創立者の意向から、集められた本は一度も処分をされたことがなく、増え続ける書籍を収納するスペースを作るため、図書室は図書館に。その後、増築が繰り返され、今では五階建てのこの建物全てが本に埋めつくされている。


 人気のないこの部屋には紙の匂いが充満していた。授業中ということもあって物音一つしない。そもそも俺がいる三階は借り手が少なく閉架となってしまった本がしまわれている書庫となっていて、一般生徒が入ることは許されていないのだ。まあ、そこは俺のCWOテクニックのピッキングの出番だ。ここになら、俺が求める本も置いてあるはずだ。


 問題はこの膨大なスペースからどうやって探し出すかということだ。書庫に入ってみてわかったが、ここには一般書架のように分類がわかりやすく表記されていないのだ。

整頓自体はされているようなので、分類番号の意味さえわかれば事足りるのかも知れんが、果たして『魔導書』などという分類が今の日本に存在するのだろうか? 仕方ない。やはり図書委員用のパソコンからアクセスしてデータベースを検索するか。


 俺はパソコンを探そうと本棚から目を離し、辺りを見回した。だがすぐに俺の視線はある一点に向かって固定されることになった。


 ……視線と視線がぶつかる。本棚に隠れるようにこちらを見る一人の少女。隠れるように覗き込んでいるにも関わらず、俺と目が合っても動じないボブカット少女。その制服は中等部の物で、容姿の幼さからどうやら一年生のようだった。図書委員だろうか?


「なんだお前」


 俺が声を掛けた瞬間、少女は本棚の奧に引っ込んでしまった。……なんだというのだ。まあ、いい。彼女が図書委員ならパソコンのロックを外す手間が省けるというものだ。俺は彼女が隠れた本棚に向かって歩き出す。


 本棚の端に着き、曲がろうとした途端、にゅっと少女が顔だけ出した。


「おわっ!」


 少女の頭が俺の胸に当たり、彼女は無言で後ろに吹っ飛んだ。


 ぼすんっごんっ。……少々嫌な音が聞こえた気がした。


「わ、わるい。大丈夫か?」


 少女は後頭部を抱えて蹲った。ぷるぷると小刻みに震えている。本当に大丈夫だろうか?


「すまん、避けきれなかった。コブになってないか?」


「……大丈夫です。ちょっと人体で最も危険な急所をコンクリートの床に打ち付けただけですから」


 そう言って彼女はふらふらと立ち上がった。……嫌みなんだろうか?


「……だれですか? ……あれ? 何も思い出せないです。自分の名前はわかるのにあなたの名前だけが思い出せません。これが記憶喪失という――」


「違うと思うぞ。俺とお前は今初めて出会ったんだからな」


「…………」


 少女はぽかんとした顔で何かを考えているようだった。


 ふわふわした変な奴だ。俺のこいつに対する第一印象はそう決まった。さっさとデータベースを検索してもらって、ここからおさらばした方がめんどくさくなさそうだな。


「で、お前は図書委員か?」


「……問題ですね。クイズは得意です。簡単です。答えは『正解』。正解ですか?」


 顎に手を当てどうやら真剣に答えた様子の少女。しかも答えがややこしい。……なんてめんどくさい女なんだ。俺のこいつに対する第二印象はそう決まった。


「じゃあ、ある本があるかどうか調べて欲しい。頼めるか?」


「頼まれました。私に頼んだからには安心すると良い気がします」


 頼まれてくれた。……なんというか、ふざけた奴だ。俺のこいつに対する第三……以下略。


 歩き始めた少女についていくと本が山積みなった場所に案内された。少女は本の山の中に入っていくと、どこからかノートパソコンを取りだした。ケーブル付きのそれを、本の山を崩さないで取りだしたことは賞賛に値するだろう。


 少女はパソコンを本の上に置いて起動させた。


「なんていう本を調べるんですか?」


「名前はわからん。魔導書のたぐいを捜している。わかるか?」


 少女はこくんと頷くとパソコンの下にあった本を取り出した。


「これはどうですか?」


 魔導書だった。しかも翻訳済み。俺はぱらぱらと中身を確認した。だが、これは召喚魔法について書かれたものらしく、めぼしい術式は載っていないようだった。


「違うな。呪術の解除法が載ったものか、回復系のものが欲しいのだが」


 少女はまた頷くと本の山の中からいくつか見繕って持ってきた。……パソコン使わんのだな。


「これは西洋術式、特に中世イギリスで流行った呪術について書かれています。少し高等な物なので、初心者には向きません。こっちは陰陽系。近代日本の文化が紛れ込んでいますが、発動に問題はないでしょう。これとこれは作者の独自手法ですがベースは北欧術式です。これは古代エジプト文明時の――」


 それぞれの本について説明してくれる少女。まさか魔導書をこれだけ理解している者が存在するとは。もしかしたら、こいつ


「お前、CWOの人間か?」


「『不正解』が正解です。正解ですか?」


「じゃあ、何故そんなに詳しい。まさか貴様もDDOと関係が――」


「『不正解』。問題です。私は何者でしょう?」


 ……なかなかの難問を出してくる奴だな。……………………なにを真剣に悩んでいるのだ俺は。相手のペースに巻き込まれてどうする。


「ぶー。時間切れです。正解は『魔法少女』でした」


 ……そうか。わかった。やっと理解した。こいつはどうやら電波女だったのだ。こんなイカレタ奴の相手をしている場合じゃない。


「そうか。ありがとうな。これ、借りていくから」


 俺は本を抱えて歩き出そうとしたが、制服の裾を掴まれていることに気づいた。


「……なんだ?」


「それ、貸出禁止です」


「悪いな。緊急なんだ。見逃してくれ」


「ダメです。……緊急って誰か呪いでもかけられたのですか?」


 仕方ない。俺は魔王復活を目論む組織、DDOがその依り代として律を選び、呪いをかけたことを簡潔に説明した。


「魔王復活……」


「そういうことだ。俺は律を助けなきゃならん」


「それは呪いというよりは――」


「黒野光貴……」


 少女の声を遮って、いやにドスの効いた声が響いた。振り返るとそこにはいつかの巨人、忠野虎牙が立っていた。


「何故、貴様がここにいる」


「お前……なんでこんなところに」


 単純に驚いた俺と違って虎牙はどうやらかなりの不機嫌らしかった。声に沸々とした黒いものが含まれていた。


「ごうちゃんは図書委員です」


 ずいぶんと似合わない呼び名と所属組織だ。どちらかというと暴力対策委員とかが似合うだろう。存在するかは知らないが。


「ごうちゃんがいると高いところに手が届くので便利です」


 道具扱いだった。だが、虎牙の表情がどこか緩んだ気がしたのだが気のせいだろうか?


「香坂律はどうした」


 虎牙が睨みを効かせて訊ねてきた。


「あいつなら家で寝ている」


「……体調、崩したのか?」


 俺が頷くと虎牙は勢いよく俺の肩を掴んで揺さぶった。


「熱は!?」


「あ、ある」


「関節は痛むか? 咳は? 頭痛は?」


「全部あるって言ってたぞ」


「腹痛は!? 吐き気は!? めまいは!?」


「そこまで知るか!」


 俺は虎牙の手を払いのけると怒鳴り返した。なんだというのだ一体。


「ちょっと待っていろ」


 虎牙はそう言うと引き返していった。……訳がわからん。


「あいつ、いつもああなのか?」


「ごうちゃんは優しい人ですよ」


 俺はため息を吐くと、本を貸してもらえるようにもう一度、交渉を始めるのだった。

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