闇魔法使いの陰謀~3~
♪♪♪
だるいー。だーるだるだよ。関節痛いし。頭痛いし。お腹痛いし。目も痛いし。なんかもう、色々痛くて寝てらんないし……。そんなわけで私は今日、寝込んでおります。
昨日からなんかおかしいなと思ったんだよ。ふわふわするし、咳も出るしさ。さっさと寝ちゃえば良かったんだろうけど、お風呂、入りたいじゃん? 昨日は体育でバレーボールもやったしさ。だから、ちょっと無理して入ったんだけど、それが極めつけになっちゃったんです。
……眠っちゃってさ。湯船の中で。いやー、ふわふわした中でぽかぽかしてたらうとうとしてしまってぐぅぐぅですよ。ばかだね。光貴のこと言えないよね。あ、なんか落ち込んできた。
うーん、それにしても頭痛い。やっぱりお母さんにお仕事休んでもらえば良かったかなぁ……。一人で寝込んでると、なんかこのまま死んじゃいそうで悲しくなってくるよね。
……死んじゃうのかなぁ? でも、お医者さんは風邪だって言ってたし、大丈夫だよね? でもでも、あのお医者さんよぼよぼだったしなぁ。ぷるぷるしてたし。栄養剤だと言われた注射なんて四回も刺し直されたし……涙出てきたもん。いっそ殺してって思っちゃったもん。
……寝よ寝よ。変なこと考えてないで、寝なきゃ治らないもんね。早く直さなきゃ遠足行けなくなっちゃう。遠足行きたかったなぁ。いや、早く治せば行けるはずだ。頑張ろう。頑張って寝よう。
私はもぞもぞと体勢を整えると深く布団に入り直した。時期に合わないモコモコの布団は、暑いんだけど、風邪独特の寒さもあるという、奇妙な寝心地だ。
じゃ、おやすみなさい。………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………ピンポーン。
…………………………………………………………………ピンポーンピンポピンポーン。
…………………………ピンポピンポピンポーン。ピンピンピンピンポーン
寝れないよっ! なに! なんなの! 居留守使ってるんだからさっさと諦めてよっ! 未だに鳴り続けるチャイムに私はうんざりしながら、インターホンへ向かった。……うー、起き上がるとだるさが群れをなして襲ってくるよぉ。
「はい、どなたですか?」
『……お前こそ誰だ? DDOの人間か?』
……光貴だ。こんなこという人間は光貴しか存在しない。てか、あんた学校はどうしたのよ。
『律に何をした! 律に何かあってみろ、ただじゃおかないぞ!』
どうやら風邪で喉をやられているせいで、私だとわかっていないらしい。言ってることはめちゃくちゃだけど、どうやら心配してきてくれたようだ。なによ。ちょっと嬉しいじゃないか。
『大体、貴様らは勘違いしている。律は人柱をやれるような、そんな器の人間ではない。バカだし、アホだし、暴力的だし、うるさいし、めんどくさがりやだし、鈍くさいし。そんな奴を使って復活した魔王では、せいぜい学校を掌握するので精一杯のダメ魔王に……』
「あんたの気持ちはよくわかったわ……」
『え? お、おい。お前誰――』
がちゃっ。私は受話器を下ろすと、玄関へ。途中見つけた週刊少年誌を握りしめ、ドアを開けた。
「なんだ、律だったのか。俺はてっきりDDOの人間が乗り込んで――イタイッ! 何故殴る!?」
私は無言でもう一発、光貴の頭を叩いた。
「イタイ! なんだ! なんなんだ!」
で、私は静かにドアを閉めた。なんかもういいや。寝よう。
ドンドンドンドンッ!
「律ー、操られているのか? 開けろ! 大丈夫だ。俺がどうにかしてやるから! 今、そっちに行く。俺の技術があればこんな鍵の一個や二個……」
騒音が頭に響くのと、閉め出しても勝手に入ってきそうだったので私はすぐに諦めてドアを開けた。
「お願い。わかったから騒がないで? 私、頭痛いんだよ……」
「そ、そうか。わかった」
どうぞと言って、家へ招き入れる。
「ったく、心配してきてやった幼なじみを追い出すとかどういう神経してるんだお前は」
「お邪魔します。こ、ここが香坂さんの家かぁ……。えへ。なんか良い匂いがする」
「って、なんであんたまでいるのよっ!」
光貴に続いて入ってきたのは、武田くん。彼に告白されて、私も好感持ち始めて、一度は友達になった人だったけど、あの一件以来、最も注意すべき変態というランクまで下がっている。
「俺が連れてきた。お前の病気を診てもらおうと思ってな」
「え? お父さん、お医者さんかなんかなの?」
「うん。歯科医だけど」
「関係ないじゃん! 私、風邪で休んでるんだけど!」
「その割には元気そうだな」
……ん? 確かに。そういやちょっと、だるさが……。
「ゴホッゴホッ、ゴホッゴホッゴホッ!」
やっぱり勘違いだった。思い出したら頭すっごく痛いよー。私は光貴達をおいて部屋に戻ろうとふらふらと歩き出した。
「ほら、しっかりしろ。大丈夫か?」
光貴が私の腕を取って支えてくれる。
「大丈夫かい? ほら、つかまって。……えへへ」
武田くんに触られた途端なんかぞくぞくしたんだけど、風邪だからだよね? 私は二人に支えられながら部屋に戻ってお布団へ。
「二人とも、学校はどうしたの?」
もぞもぞと体勢を整えながら見下ろしてくる二人に尋ねた。
「授業なんてどうだっていいだろ、こんな時に」
「そうだよ。ところで香坂さんの部屋は和室なんだね。うん、何となく香坂さんっぽいね」
「看病がしやすいように一階に下りてきただけ。私の部屋は二階だもん」
「そうなの? まあ、せっかく来たんだし、何でも言ってね。何でもするからさ。あ、香坂さんの部屋から、き、着替えとか持ってきてあげようか?」
……本当に鼻の下が伸びる人っているんだね。私、怖くて寝れない気がする。
「……ありがとう。でも騒がないでくれるだけで私は嬉しいよ」
「まったく、少しぐらい信用しろよ」
そうだよね。いくらこの二人がこの前の事件後から二人でいることがやたらと多くなって、その度に何かと張り合って『机積み上げ選手権』や『画鋲ダーツ選手権』をうちのクラスで始めては、やいややいやと騒ぎまくっていたとしても、少しぐらい信用しなきゃ。
ちなみに『机積み上げ選手権』では二人の机は天井近くまで積み上がり、最終的に踏み台から転げ落ちた光貴が武田くんも巻き込んで盛大に机の雨を降らせて終わった。
『画鋲ダーツ選手権』では掲示板に的を作って画鋲を投げて狙うという遊びなのだけど、優勝したのは何故かその場にいた新聞部の女の子だった。武田くんに告白されたという事実をがせネタと共に全校生徒に発信したあの子だ。いつの間にか二人に混じって競技をして、優勝して、落ち込む二人をそのままに「今回はボクの勝ちのようだね。精進したまえ」と言って帰って行った。謎だ。そういえばまだ、名前も知らないや。
「で、どうなんだ? なにかわかったか?」
「わかるわけないだろ。僕は一般人だ」
「隠し立ては貴様のためにならんぞ? DDOの呪いなら今すぐ解かせるように言うんだな」
「あのね、僕はDDOとかいう組織の人間じゃないって何度言ったらわかってくれるんだい?」
「わかった。貴様がそういう態度なら……」
光貴は携帯電話を取りだして
《お姉ちゃん! イイコイイコして! もしくは殴って!》
「これをお前の姉に送る!」
「やめてくれっ! 殺される! というか最悪縁切られちゃうじゃないかっ!」
あ、殺されるより縁切られる方が嫌なんだね武田くん。てか、やっぱりうるさい。
「ならばさっさとこの呪いを解け! こんなに険しい顔をして苦しんでいるんだぞ律は!」
「だから違うって言ってるだろっ! 香坂さんはお前の前だからこんな顔してるんだよ! お前がこの部屋から出て行けば全部解決だ!」
いや、それはない。武田くんと二人きりとか……ああ、また熱上がったかな? さ、寒気が。てかもう、
「いいかげんにしてよっ! 私は風邪なの! 具合悪いの! 静かにしててよ!!」
私は布団を頭まで被るとぎゅっと目を瞑った。布団の外から光貴のこもった声が聞こえてくる。
「だが、お前は六年生の時も、熱を出してたじゃないか。それでも学校に来てただろ? お前が休むほどの苦しさなど尋常ではない。これはDDOの呪いなんだよ」
「……それは、皆勤賞がもうちょっとだったからなんか悔しかっただけだし。今日はほら……遠足も近いし、早く治したいって言うか……」
「……そうか。お前もやっぱりCWOに入りたいんだな?」
妙に落ち着いた声音で光貴が納得していた。なんでそうなるの? 意味がわからないんだけど。
何を思ったのか光貴は、急にばさぁっ! と布団をはぎ取り、私の手を取って、険しいけどどこか嬉しそうな顔で何度か頷いた。
「それでこそ、俺のライバルに相応しい。必ず明明後日までにお前の呪いを解いてやるから安心しろ!」
「え!? ちょっと! だから呪いなんかじゃないって! ……いっちゃった」
起き上がって止める私の声を無視して光貴は部屋から飛び出していった。……また無茶なことをする気がする。心配だ。もちろん光貴の心配じゃない。だってあいつが無茶して大変な目に合うのはいつだって私なんだから。あぁ。また熱上がりそうだよ。
「まったく、光貴の奴は。一度、僕みたいに姉さんに怒られればいいんだ」
武田くんがドアの向こうを眺めながらそんなことを呟いた。……そうだよ。武田くんまだいるじゃん。
「香坂さんもそう思うだろ?」
いや、私、武田くんのお姉さんがどんな人か知らないし。というか、それより
「どうしたの? 香坂さん。急に黙り込んじゃって」
どうしよう。この状況。私、ついこの前この人に襲われたばかりなんですけど。
「顔色悪いよ? 水枕交換しようか? それともおかゆ作ろうか?」
でも、本当に心配してくれてるみたいなんだよね。光貴は武田くんのこと色々悪く言ってたけど、ちょっと変態さんなだけで実はいい人なのかも知れな――。
「それとも、き、着替える? 汗かいてるもんね。着替えた方が良いよね? 僕、お姉ちゃんのパジャマ持ってきたから、手伝ってあげるよ!」
だめだっ! 変態さんはどこまで行っても変態さんだっ! 寒気が! 熱が! 身の危険が!
「いいっ! 手伝わなくていい! でも、着替えたいからちょっと外出てて。ね?」
「え? お姉ちゃんのパジャマ着てくれるの?」
「うんうん! 着る着る! だからちょっと外に……」
私は立ち上がると武田くんの背中をぐいぐい押して部屋の外に。そのままぐいぐいぐい押し続けて玄関の外に。
「じゃ、着替えるからちょっと待ってて」
バタンッ! ガチャ! カチャッ! ふぅ。チェーンも閉めたしこれで安心。
私は部屋に戻ると、武田くんが持ってきた武田くんのお姉ちゃんパジャマに着替えた。……いや、着るって言っちゃったしね。武田くんには見せないけど。




