↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最弱の土魔法Fで戦えない地質研究員ですが、Aランクが引き返した崩落を岩ひとつ壊さずに通ってバズりました  作者: 月見まっちゃ
第3章 検証

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
44/49

第44話 向かいの壁で試す

 角の向こうで、重い足音が2つ近づいてくる。

 試す、と言いかけてやめ、俺は床に手をつき直した。

 第17層の通路にいるのは、俺1人だ。さっき膝の高さの岩を壁へ引き寄せた1回でMPをごっそり使って、膝がまだ笑っている。


 角を曲がって、オーガの2体連れが通路に出てきた。

 背は俺の倍近くあり、丸太のような棍棒を提げている。2体が歩いてくるのは、壁の前にしゃがんだ俺と向かいの壁のあいだの通り道だ。

 どっちへ逃げてもあいつらの目の前を横切るしかなく、背中を向けて走ったところで、オーガの長い脚からは逃げきれない。

 土壁を積んで隠れるには、この通路は広すぎる。俺が積み終えるより先に、オーガは脇へ回ってくる。


 床についた手から、土魔法を湿った土へ通していく。指先の感覚が床の土を伝って通路を渡り、向かいの壁の根元の岩に触れた。

 これで、あの壁へ泥団子を引き寄せられる。


 向かいの壁は、白と黒のしま模様が通路に沿ってまっすぐ通っていて、割れ目が見えない。一つの岩なら、泥団子は通路を横切ってあの壁まで飛び、途中にあるオーガの頭に当たる。

 壁が奥で割れていたら、泥団子は床を転がるだけで、俺は棍棒の前に手ぶらで残る。


 腰の袋から、砂を固めた弾の泥団子を1つ出して、右手に握った。

 手で投げた泥団子を、向かいの壁へ引き寄せる。今の俺に残っている手はそれだけだ。


『逃げて』

『いや逃げ場なくない?』

『やる気だ』

『画面めっちゃ揺れてる』


 画面が揺れるのは膝のせいで、怖いからじゃないと言っておきたい。言っても誰も信じないだろうから、別のことを言う。


「向かいの壁が一つの岩かどうか、今から分かります」


『実験すな』

『今それ言う?』

『オーガ来てるって』


 先頭のオーガが鼻を鳴らして、こっちへ顔を向けた。においで気づかれたらしい。

 さっきの岩も、壁へ引き寄せたら一直線に飛んだ。投げる向きが壁からずれていれば、泥団子は壁のほうへ曲がって飛ぶ。

 先頭は床を揺らしながら、俺の手と向かいの壁のあいだへ、横から踏みこんでくる。提げた棍棒の先が床をこすって、がりがりと鳴るたびに、膝の震えがひとつ大きくなった。

 投げていいのは、あいつの頭が俺の真正面に来たときだけだ。

 あと一歩。


 投げた。

 指を離れた泥団子を、向かいの壁へ引き寄せる。


 泥団子は灰色の筋になって、通路を横切った。

 目で追えたのはそこまでだ。

 先頭のオーガの頭ががくんと横へ振れて、向かいの壁で泥の砕ける音がした。


 先頭が棍棒を取り落として、横倒しになる。

 床に着いたところで光の粒になって消え、魔石が1つ転がった。


【レベルアップ。Lv20からLv21になりました】


『え』

『何が飛んだ?』

『見えなかった』

『一撃でオーガ消えた』

『泥団子の速さじゃない』

『今の投げただけだよな?』


 Lvが上がったのは聞こえたが、気になるのはそこじゃない。


「泥団子のほうが、さっきの岩より速いです」


『そこ?』

『感想が研究者』


 ノートに書きたい行がもう1つ増えた。

 向かいの壁の表面には、泥団子の砕けた跡が丸く1つ残っているだけで、ひびは1本も走っていない。見込みどおり、割れ目のない一つの岩だった。


 2体目のオーガは、先頭が消えた所で足を止めていた。

 床の魔石と、向かいの壁の泥の跡を、首を振って見比べている。先頭がどうなったかを、こいつはちゃんと見ていたらしい。

 2体目は通路の真ん中を避けて、俺が背にした壁沿いをのしのし寄ってきた。俺と向かいの壁のあいだには、一度も入ってこない。


 2つ目の泥団子を、あいつの顔へ向けて投げた。

 投げたのはあいつの顔でも、引き寄せたのは向かいの壁だ。泥団子はあいつの鼻先で曲がって、向かいの壁へ飛んでいった。壁で砕ける音だけが返ってくる。

 3つ目は、あいつがもう少し近づいてから投げた。それでも鼻先で曲がって、向かいの壁へ消える。


 棍棒が振り下ろされて、俺のすぐ脇の床が砕けた。

 飛んだ破片が頬を打つ。半歩ずれていたら、砕けていたのは俺の足だった。


『うわああ』

『床割れた』

『当たってない!』

『兄!』

『さっきの一撃どうしたの』


 4つ目を袋から出しかけて、やめた。今のまま投げても、向かいの壁の泥の跡が4つに増えるだけだ。

 床を転がって、棍棒の届かない所まで離れた。

 袋の泥団子は残り3つ。MPも、あと何回引き寄せられるか分からない。

 俺が壁の前にいるかぎり、あいつは壁沿いを来ればいい。このまま待っていたら、泥団子が尽きるより先に俺が潰される。


 俺は壁を離れて、通路の真ん中へ出た。今度は、さっきまで背にしていた壁へ引き寄せる。

 床に散った岩の破片をまたいで、その壁のほうへ向き直った。

 あいつと壁が、俺から見て一直線に並ぶ所まで横へずれた。

 背中の側では、広い通路がただ開いている。下がっても、身を寄せる物は何もない。

 俺に棍棒を届かせるには、あいつは壁の前からまっすぐ俺へ来るしかない。


 右手に泥団子を1つ握って、動かずに待つ。


『なんで真ん中出るの』

『下がって』

『え、待つの?』

『無理無理無理』

『息止まった』


 あいつが壁際を離れた。

 床を踏む音が、まっすぐ俺へ近づいてくる。鼻を突くにおいが、足音より先に届いた。

 足が勝手に後ろへ下がりたがる。足を動かせば、あいつと壁の並びがずれる。床の破片を踏んだ右足に、体重を戻した。

 握った泥団子が、手のひらの汗で少しぬるついている。


 あと3歩。

 あと1歩。


 棍棒が、あいつの肩の上まで振りかぶられた。

 見上げた頭の向こうに、壁がある。


 指を開く。

 落ちかけた泥団子を、正面の壁へ引き寄せた。


 泥団子は、俺の手元からまっすぐ飛んだ。

 あいつの頭が後ろへ跳ねる。

 頭の後ろの壁で泥が砕けた。


 振りかぶったままの棍棒ごと、あいつは仰向けに倒れた。

 床に届く前に、大きな体が光の粒になってほどける。

 魔石が1つ、俺の靴の先まで転がってきた。


【レベルアップ。Lv21からLv22になりました】


『うおおおおお』

『倒したあああ』

『真ん中に立って、まっすぐ来させた』

『自分をエサにしたの?』

『棍棒の下で待ってた』

『ソロでオーガ2体』

『同接45,000きた』

『2体でLv2つ上がった』


 膝から力が抜けて、床に膝をついた。

 MPはほとんど残っていない。


「……俺の膝のほうが、オーガより先に倒れそうです」


『倒したの兄だから』

『中層後半のオーガを1人で2体だぞ』

『膝の心配してる場合か』


 魔石を2つ拾って、残り2つになった泥団子を袋に戻した。

 帰りに転ばないよう、土を寄せる《土操作》で足元をならした。寄ってきた土と一緒に、割れた床の欠片まで手元へ動いてくる。

 進化してからは、割れて離れた欠片も動かせるらしい。


 ノートを開いて、今日の行に『しまがまっすぐな壁なら、使える』と書いた。


『この状況でメモ』

『ブレないな』


 壁に手をつきながら、来た道を戻った。


 ◇


 第10層の、中層へ下りる階段の上の踊り場に着いたころには、足が棒のようだった。

 階段の上から2段目には、小石が1つ載っている。

 階段の脇にある岩の壁にも、しま模様が横にまっすぐ通っていて、割れ目が見えない。

 朝ここに立ったときは、ただの壁にしか見えていなかった。中層へ下りるたびに、前を通ってきた壁だ。

 見落としていた壁を、明日まで放っておけるわけがない。


「ここの壁も、割れ目のない一つの岩です」


『またやるの』

『兄、ご機嫌じゃん』

『さっき膝ついてた人』


 床の小石を1つ、壁から2歩離して置いた。壁に手のひらを当てて、小石を壁へ引き寄せる。

 小石は床を離れて、壁に当たった。帰り道で少し戻っていたMPが、小石1つでほとんど消えている。

 当たった所から、壁の表面がぱらぱらと薄く剥がれて、足元に落ちた。


「……あれ」


『剥がれてて草』

『一つの岩とは』

『さっきの自信どこ行った』


 階段の上から2段目で、小石が丸い体を出した。俺の予想の外れを数えている、ハズレだ。焦げ茶のヘルメットの下から、半分まぶたの下りた目がこっちを見る。


「外れ。34回目」


『ハズレきた』

『34回目』

『下でオーガ当てた分は?』


「お前、下の2体は見てないだろ」


 ハズレは何も言わず、ヘルメットの縁を少し下げた。


「でも、なんで剥がれたんだろう。一つの岩なら、小石は当たって落ちるだけのはずなんですけど」


 口に出した声が、自分でも分かるくらい弾んでいた。


『外れたのにうれしそう』

『オーガ倒したときより声高い』


 剥がれた所の前にしゃがんで、しま模様の境目の細い割れ目に指を当てた。土を流せば、割れ目がどこまで続いているか分かる。

 残りのMPで、割れ目に詰まった土を少しだけ動かす。乾いた土が粉になって、割れ目に沿って一筋こぼれていった。

 粉は指先から数センチ進んで、そこで止まった。指先の手応えも、同じ所で途切れる。


「割れ目は浅いです。この奥は、一つの岩ですね」


『数センチで分かるもん?』

『兄が言うならそうなんだろ』


 隣のしまの境目にも、指を当てる。

 今度は、土が一粒も動かなかった。残っていたMPは、さっきの粉で尽きている。

 指先に手応えが何もない。


『MP切れで土も出ない』

『見に行けないオチ』


 これはもう笑うしかない。

 ノートを開いて、さっきの行の下に書き足した。

 書いたのは、『踊り場の壁 剥がれた。確かめる』の1行だ。


 階段の上から2段目で、ハズレが小石に戻った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。