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最弱の土魔法Fで戦えない地質研究員ですが、Aランクが引き返した崩落を岩ひとつ壊さずに通ってバズりました  作者: 月見まっちゃ
第3章 検証

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第19話 公転

 足首まで土で固めて、右手のすぐ先に土の山を1つ盛った。

 同じ日曜の、第2層のいつもの行き止まり。休憩でMPも少し戻った。配信はつないだままだ。

 正面の床には岩を1つ転がしてある。ハズレは壁際に座っている。

 休憩の前に、転がった岩がたまたま俺の背中を回った。今度はそれを狙ってやる。


 やり方は、こう考えた。

 正面の岩を右の土の山へ引き寄せ、岩が走りだしたら、引き寄せる先を俺に切り替える。

 切り替えても、土の山へ引き寄せる力は0.9秒ほど残る。先週から俺の予測を何度も外させてきた、力を切ってから効きが消えるまでの遅れだ。

 残った0.9秒のあいだに、岩は土の山のほう、俺から見て横向きに走る勢いをつける。

 だから俺に引き寄せられ直しても、まっすぐは来ないはずだ。横へ流れながら、俺の周りを巡る。


 外れの原因だった0.9秒を、横の勢いに使う。


「じゃあ、やってみます。たぶん外します」


『待ってた』

『外す宣言で草』

『ハズレがもう構えてる』


 ハズレは壁際から、ジト目をこっちに向けていた。


 岩を土の山へ引き寄せて、切り替える。

 岩は土の山を素通りして、そのまま奥へ飛んでいった。


「切り替えが遅い」


 慌てて早めにやると、横の勢いがつかないまま、岩はまっすぐ俺に来た。


「早すぎたっ」


 太ももに当たった。地味に痛い。

 それから土の山を少しずらし、岩も軽いのに変えてみた。それでも岩は、飛んでいくか俺に来るかのどちらかだ。そのたびに、どこで切り替えたかを頭の中で数え直す。


「外れ。13回目」


『仕事が早い』

『太もも大丈夫か』

『自分に岩投げてる人』


 14回目、15回目と、平板な声が続く。

 岩より先に、ハズレの数字ばかりが増えていく。


 それでも失敗を並べると、ちょうどいい頃合いが見えてきた。

 土の山に着くよりだいぶ前、岩がまだ遠いうちに、先を俺に移しておく。


 もう一度、岩を土の山へ引き寄せる。

 まだ遠い。

 そこで切り替えた。


 岩が土の山の手前で曲がる。

 俺の脇をかすめて、背中側へ入った。

 反対側から出てくる。


 落ちない。


 2周目に入った。

 腰より低い所を浮いたまま、俺の周りを巡っている。


 止まらない。


『は?』

『回ってる』

『回ってる回ってる』

『浮いてる、岩が浮いてる』

『何これ何これ』


「回せた。1つだけですけど」


『だけじゃないが』

『1個で十分おかしいんだよ』


 なら、もう1つ。

 ただ、引き寄せる先は一度に1つしか決められない。新しい岩を土の山へ走らせるには、巡っている岩の行き先まで土の山へ移すことになる。

 承知のうえで先を土の山に切り替え、床の岩を1つ引き寄せる。

 とたんに、岩の描く円がぐらりとよれた。巡っていた岩まで土の山に持っていかれかける。

 まずい。

 新しい岩が同じ円に滑り込んだところで、引き寄せる先を俺に戻す。


 どうにか2つになった。

 2つの岩が互い違いに俺の周りを巡っている。


 欲を出して、もう1つ足しにいく。

 3つ目の岩は円に乗る手前で、ぼとりと床に落ちた。


「あ」


 意識できるのは2つまで。《引力》のLv2では、そこが限界らしい。


『増えた』

『あ、落ちた』

『衛星じゃん』

『惑星だろ』

『これ名前ないの?』


 コメント欄で、勝手に呼び名探しが始まっている。


『公転』

『公転だな』

『公転してる』

『公転で決まり』


「いや、名前はいいです。ただの実験なんで」


『公転』

『公転』

『公転です』

『あきらめて』


 同時接続数が13,000になっていた。


「……公転、でいいです」


『土F兄、そのまま歩いて』

『歩けたら最強じゃん』


「それができたら、苦労しないです」


 岩を巡らせているかぎり、俺はこの場から一歩も出られない。


 岩を引き寄せている間は、俺のほうも岩に引き寄せられているからだ。足首の土を緩めたら、たぶん俺のほうが岩に引きずられる。


 しかも1周ごとに、MPが減っていく。ステータスを開くまでもなく、目に見える速さで減っているのが分かる。


「いったん《引力》を切ります。切れば、落ちるはずなんで」


 《引力》を切って、0.9秒。


 岩は、落ちなかった。

 円からほどけるように、外へ飛んでいく。

 片方の行く先にハズレがいる。


 ごん、とハズレのすぐ横の壁が鳴った。


 ハズレは目をまん丸にしていた。

 石のヘルメットが体から浮いている。

 こいつのこんな顔を見るのは初めてだ。


『ハズレーー!』

『あぶねえ!』

『今の顔!』

『目まん丸じゃん』

『ヘルメット浮いてて草』


 ハズレはヘルメットをすとんと戻し、まぶたを半分まで下ろした。


「外れ。16回目」


「……悪かった」


『ハズレに謝ってる』

『数えるのは忘れないの偉い』


 《引力》を切ると、岩はどこへ飛ぶか分からない。


 だったら切らずに、飛ばす先を前もって作っておけばいい。


 足首は固めたまま、しゃがんで床に手をついた。


「《土操作》。《硬化》」


 床の土が、いちばん近い壁の根元へ寄って盛り上がる。壁に貼りついたまま固まって、岩を受ける的になった。岩の巡る円から腕2本分ほど外だが、Lv2で倍に延びた《引力》なら届く。


 飛んでいった2つを1つずつ土の山へ走らせ、先を俺に戻して、もう一度俺の周りに乗せる。頃合いはもう分かっていて、今度は一度で巡りだした。

 岩の向こうに、壁に固めた土が見えている。


 引き寄せる先を、その土に切り替えた。


 2つの岩が円を離れて曲がる。

 弧を描いて壁へ飛び、ごつ、ごつ、と続けて的の土にめり込んだ。


『止まった』

『着地した!』

『今度はハズレ無事』

『片付けまでできるようになった』


「よし。狙った所に飛ばせました」


 MPはもうだいぶ減っていた。

 しゃがんだまま見回して、ハズレの位置が変わっているのに気づいた。


 俺の周りを岩が巡っていた円の、すぐ外側に座り直している。昨日までは、もっと壁際にいたやつがだ。

 手を伸ばせば、ヘルメットに指が届きそうだ。


「打たれかけた所に、なんで寄ってくるんだよ、お前」


 返事はない。ハズレはジト目で、岩の通っていた床を見ているだけだ。


 2つの岩は壁の土にめり込んだままだ。

 ゴブリンは子どもほどの背丈だから、腰より低く巡る岩なら、ちょうど胴を払う。

 ゴブリンになら、これで足りる。


 でも、陽菜に見せられた切り抜きが頭に浮かんだ。

 《土魔法》の誰かが立てた土壁を、ホブゴブリンが棍棒の一振りで割っていた。


 《引力》は相手の魔力で弱まる。ステータスの説明文に、そう書いてあった。

 それでもゴブリンには効いた。

 ホブゴブリンならどうだ。

 魔力の高い相手でどこまで弱まるのか、俺はまだ自分で確かめていない。


 確かめるなら、あの棍棒の前に立つことになる。

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