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最弱の土魔法Fで戦えない地質研究員ですが、Aランクが引き返した崩落を岩ひとつ壊さずに通ってバズりました  作者: 月見まっちゃ
第3章 検証

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第18話 砂

 ゴブリンに触りに行くのは、もうやめる。


 岩を引き寄せる行き先を、ゴブリンじゃなくて俺の体にする。

 日曜の昼、第2層のいつもの行き止まりで配信をつけた。


 入口は《硬化》の土壁で塞ぎ、上に拳ほどの隙間だけ残してある。

 スマホは壁に立てかけ、ドローンは天井の近くから俺を撮る。


『土F兄きた』

『袖、縫った?』

『今日はゴブリンなし?』

『左腕大丈夫?』


「大丈夫です。今日は、こっちを使います」


 行き止まりの奥の壁際を指さした。

 天井から落ちた岩が10個ほど積もっている。拳くらいのから頭くらいのまで、根元は砂と小石をかぶったままだ。


 何年もここで魔法を試してきたが、こいつらだけは一度も動かせなかった。

 昨日、岩が寄ってきたのを、正直まだ半分信じきれていない。


 でも今日から、こいつらは材料だ。


 説明より先に、体が山の前へ行っていた。しゃがんで根元の床に手をつく。


「これを、俺のほうへ引き寄せます。寄ってきたのを周りに積めば、盾になる」


『岩の盾!』

『昨日のあれ見たあとだと安心する』


 気づくと、壁際にハズレが座っていた。

 実験を始めると、こいつは必ずいる。


 床から手を離し、立ち上がる。手を伸ばせば、いちばん近い岩に指が届く。

 左手を胸に当てて、引き寄せる先を自分の体に決めた。

 《引力》は、目で見て選んだものを寄せる。選ぶのは、山の中で俺にいちばん近い岩だ。その岩と根元に積もった砂と小石を、目でまとめて囲む。

 寄ってきたら目の前で止め、足元に並べればいい。


「引き寄せます」


 力は弱めにした。


 端の岩がごろりと山からこぼれた。

 床を離れる。

 まっすぐ、こっちへ来る。


 止まれ、と念じた。

 岩は止まらない。


 右腕を上げる。


 ごっ。


 前腕の骨に、重いのが響いた。

 その後ろから、ざあっ、と砂が来る。

 根元の砂と小石が筋になって追いかけてきたかと思うと、ヘルメットから襟の中まで降りそそいだ。


『自爆』

『盾じゃなくて的』

『岩に撃たれる配信』

『頭から砂かぶってて草』


 腕を押さえて顔を上げると、すぐ前にハズレが座っていた。

 ジト目だった。


「外れ。9回目」


 俺の見立てが外れるたびに、こいつは数える。

 止まらなかったのも当たり前だ。念じてから岩が実際に止まるまでには、1秒と少しかかる。そのあいだに、岩は俺まで来てしまう。

 知ってたはずなんだけどな。


 口の中がじゃりじゃりする。

 砂を吐き出して首筋を払った。払っても払っても、襟から出てくる。

 岩しか引き寄せてないのに、なんで砂まで来るんだ。


 ……いや。


 目で囲んだものは、丸ごと来る。


 方眼ノートを開き、事故の週に《引力》の疑問を並べたページをめくった。

 最後の行は、一枚岩の前で2回目に試したときのことだ。小石を引き寄せたら、足元の砂までついてきたやつだ。


 なんで、砂までついてきた。


 空けたままだったその下の行に、書いた。


 俺が、砂まで見てたから。


『急にノート出てきた』

『砂払ってから書いて』


 ページの上にも髪から砂がぱらぱら落ちてくる。

 2週間近く分からなかったことが、頭から砂をかぶったら分かった。


 靴に目を落とすと、さっきより半歩、山のほうへずれている。

 俺の体も、岩のほうへ引き寄せられていたらしい。


「《土操作》、《硬化》」


 床に手をつくと、足元の土が靴を包んで這い上がり、足首まで固まった。これで足は床から動かない。


 あとは、岩が俺まで来る前に止まればいい。だから引き寄せる力を弱めて岩を遅くし、念じるのも早めることにした。そう決めて3回試した。

 ところが弱めても、岩は床を離れたとたんに速くなる。念じた頃には、もう腕の前にいる。

 ハズレは1回ごとに律儀に数え、12回目まで来ている。


 盾の前に、腕のほうが硬くなる。


『腕が盾』

『右腕もう紫だろ』


 ただ、受けるたびに1つ気になっていた。

 腕で受けるのは同じでも、念じてから岩が止まるまでが1回ごとに短くなっている。最後のなんて、1秒もかからずに止まった気がする。


【《引力》がLv2になりました】


 ステータスを開く。


 スキル:《土魔法》 Lv8/《引力》 Lv2


「……Lv2。上がってる」


『引力のLv上がった!』

『おめでとう』

『腕の犠牲は無駄じゃなかった』

『レベルアップの瞬間に立ち会えた』


 使えば、伸びる。


 今日は来てから、数えきれないほど引き寄せている。

 それなら届く所も変わったはずだと思った。さっきの岩は、手を伸ばせば指が届く所にあった。


 足は床に固めたまま、今度は山の向こう側で壁にもたれている岩を2つ選ぶ。山を挟んで、さっきの倍は遠い。昨日までなら、何も来なかった距離だ。

 今度は砂を囲まず、2つの岩だけを1つずつ別々に目で囲んで、引き寄せる。

 2つとも来た。しかも砂は山の根元に残ったままだ。


 砂を置いていけるなら、話が早い。


 1つは右の前腕で受けた。もう1つは腕の端で弾かれ、俺の右の床を、後ろのほうへ転がっていく。

 拾いに行くのが面倒なので、転がっているうちに引き寄せた。


 岩が床を離れる。

 まっすぐ俺へは来ない。転がっていた勢いで横へそれながら、俺の右の脇腹すれすれへ寄ってくる。

 腕を上げ、止まれと念じた。


 来ない。


 岩は脇腹の横をすり抜けて、目の端から消えた。

 風が背中をなでる。

 左の床で、ごとん、と鳴った。


 ハズレが、俺の右から左へゆっくり目で追い、床の岩を見て止まった。


『今、後ろ回った?』

『背中側を通過したぞ』

『岩が兄をよけた』

『なにいまの』


「……回った」


 床の岩と、自分の脇腹を見比べる。

 まっすぐ引き寄せた岩は、まっすぐ俺に来た。でもさっきのは横から来た。

 公園にある、柱に紐でつないだボールを思い出す。あれは横から叩けば、ぶつからずに柱の周りを回る。


 横から入れれば、回るかもしれない。


 当たらない岩が、俺の周りを回り続けたら。

 試したい。今すぐ。

 なのに、体がだるくて頭がぼんやりする。


「ちょっと座って休みます。MPを戻さないと」


『ここで休憩!?』

『回すの? 回すんでしょ』

『正座して待つ』

『ハズレも休め』


 同時接続は11,000になっていた。


「MPが戻ったら、岩を回らせます」

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