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最弱の土魔法Fで戦えない地質研究員ですが、Aランクが引き返した崩落を岩ひとつ壊さずに通ってバズりました  作者: 月見まっちゃ
第3章 検証

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17/23

第17話 岩

 3匹目のゴブリンの肩に、手を置いた。

 土曜、多摩ダンジョンの第5層で配信している。この辺りは通路が広く、床の土も厚い。


 ゴブリンの足を土で固めて動けなくしてから、肩に触る。先週見つけた倒し方を、今日はもう手が覚えている。

 脇に固めておいた土の玉を引き寄せる。土の玉はまっすぐ飛んでこめかみを打ち、ゴブリンは魔石を残して消えた。


【レベルアップ。Lv7からLv8になりました】

【《土魔法》がLv8になりました】


『3匹目』

『ペース早くない?』


 先週は、刃物が目の前をかすめるたびに息が止まっていた。今日は数を数える余裕まである。同時接続数はもう10,000を超えていた。

 ハズレは少し離れた床に座って、半分下りたまぶたのまま俺の手元を見ている。見物料を取りたい。


 魔石を拾ったところで、通路の先から足音が近づいてきた。

 苔の光る壁に重い靴音が揃って響く。ゴブリンの足じゃない、人だ。


 目の端で、ハズレが体をヘルメットの中に引っ込めた。

 残ったのは焦げ茶の丸い石1つで、通路の小石と見分けがつかない。


『ハズレ消えた?』

『擬態できるんかい』

『引っ込めるんだそれ』

『ちょっとかわいい』


 ライトの光が苔の上を通り過ぎ、足音は分かれ道へ折れて遠ざかった。

 聞こえなくなったとたん、石の下から短い足が2本出てきた。


 人が来たら石、いなくなったら足。都合のいいやつだ。


「人見知りか、お前」


 返事はない。


『なんで隠れたの』


「俺に聞かれても」


 本人に聞いたところで、答えたためしがない。


 気を取り直してステータスを開く。さっき天の声が言ったとおりだ。


 Lv:8

 スキル:《土魔法》 Lv8/《引力》 Lv1


 8なら試したいことがある。

 《引力》の説明文には『土と認められる範囲は、《土魔法》の段階に応じて広がる』とあった。段階というのは、《土魔法》のレベルのことだと考えるのが素直だ。

 レベルが上がったら岩を引き寄せてみる、と先週ノートに書いておいた。


 壁際に転がっていた拳ほどの岩を拾い、腕1本先の床に置く。

 Lv7までは、この大きさの岩を手元へ引き寄せようとしても、ぴくりともしなかった。


 床に左手をつき、その甲を右の指で押さえる。引き寄せる先は、俺の左手だ。そこへ岩を引き寄せる。

 ごつ、と左手の小指に固いものが当たった。


 見ると、岩が手元まで転がってきていた。


『岩動いた!?』

『ころって来た』

『あれ、岩って無理なんじゃ』

『土F兄の顔が完全に子ども』


「岩ですよ、岩」


 ただ、1回なら偶然かもしれない。念のため隣の岩でもう一度やると、こっちも来た。

 ゆるんだ顔が戻らないんだから仕方ない。


 床に転がっている岩が急に全部、使える物に見えてきた。


 ついでに、ノートのもう1行も片づける。俺の土壁の硬さだ。


「《土操作》、《硬化》」


 《土魔法》の技を2つ続けて、足元の土を寄せ集めて固める。湿った匂いが立つ。

 硬さは、固めた土にいつもの丸い小石をいつもの高さから落とし、できたへこみの深さで測る。何年も10か11ミリから動かなかったへこみが、今日は6ミリしかない。


 魔力の値が20に上がったぶんだ。

 これなら、ホブゴブリンの棍棒でも1回は受け止められる。


 次のゴブリンは岩で倒す。


 やり方は同じでいい。触ったゴブリンへ、土の玉の代わりに岩を引き寄せる。

 膝の高さまである岩の左隣に立ち、待つ。両手で押しても、たぶん動かない大きさだ。


「試すか」


『岩でいくの?』

『それ当たったら絶対痛い』


 痛くなかったら困る。


 ところが4匹目は待ってくれなかった。

 通路の角から、刃物を振り上げて突っ込んでくる。足を土で固める暇がない。


 固めるより先に、肩に触れた。触った物が、引き寄せる先になる。岩はゴブリンへ飛ぶはずだ。

 右脇の岩を強めに引き寄せる。


 ゴブリンが、浮いた。


 俺の手の下から抜けて、右へ。

 岩のほうへ。


 ごしゃっ。


 背中から岩に叩きつけられ、ゴブリンはずり落ちたきり動かない。

 岩はびくともしていなかった。


『ゴブリンのほうが飛んだ』

『岩じゃなくてそっち!?』

『自分から岩に突っ込んでったぞ』

『結果オーライ』

『倒したからヨシ!』


 いつの間にか、岩の根元にハズレが座っていた。倒れたゴブリンの鼻先だ。


「外れ。8回目」


「……倒したんだけどな」


『倒したのに外れで草』

『判定きびしい』


 ハズレは、俺の読みが外れるたびに回数を言う。岩が飛ぶと読んだのは俺だから、外れは外れだ。


 足を押さえていなければ、軽いほうが動く。

 《引力》は、触った物と引き寄せる物を引き合わせ、軽いほうを動かす。岩よりゴブリンが軽いから、ゴブリンが岩へ飛んだ。

 先週からの4匹が飛ばなかったのは、足を土で固めていたからにすぎない。


「ノートに書いたの、俺なんだよな」


『何を』

『急に反省会』


「反省会じゃなくて、答え合わせです」


 《引力》は、触った相手の魔力で弱まる。ゴブリンの魔力で弱まって、それでもあれだけの勢いで飛んだのなら、力は足りている。


 なら、ゴブリンより軽い岩を使えばいい。今度は岩のほうがゴブリンへ飛ぶ。


 5匹目の足音がした。


 膝までの岩はそのままにして、壁際から頭ほどの小さい岩を両手で抱え上げた。通路の真ん中に下ろし、そのすぐ脇に立つ。


 来た。

 今度はゴブリンの足を固めずに、こっちから踏み込む。固める手間を省けば、そのぶん早く触れるからだ。


 俺はゴブリンの肩に触れた。取った、と思った。

 刃物が横から来る。


 左の袖が、裂けた。


 痛いかどうかはあとだ。引き寄せる。

 足元に下ろしておいた頭ほどの岩が床を離れ、ゴブリンの脇腹にめり込んだ。

 ゴブリンが崩れ落ち、魔石が転がる。


『うわっ』

『今切られた!?』

『腕! 腕!』

『倒したけど今のはダメだろ』

『土F兄、大丈夫か』


 袖の裂け目から、前腕の赤い線が1本のぞいている。指でなぞると血がつく。ただ、浅い。

 痛みはあとから来た。袖ごと押さえて、血が止まるのを待つ。


「大丈夫です。皮だけです」


『皮だけでも切られてんのよ』

『心臓に悪い』


 ハズレが裂けた袖の端をじっと見ている。何も言わない。


 倒すことは倒した。


 でも、足を固めても固めなくても、触るたびに俺は刃の届く所に立っている。


 5匹倒すあいだに、MPがだいぶ減った。今日はここまでにする。


 袖の裂け目を指でつまむ。

 引き寄せる先を、刃の届かない所に置けないのか。

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