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最弱の土魔法Fで戦えない地質研究員ですが、Aランクが引き返した崩落を岩ひとつ壊さずに通ってバズりました  作者: 月見まっちゃ
第3章 検証

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16/26

第16話 何年分

土F兄の引力検証を見守るスレ part2


212:名無しの冒険者

昼の土F兄の配信見たやついる?

塞いでた壁をわざわざ開けて、ゴブリン1匹だけ入れてた


213:名無しの冒険者

足を土で止めて、自分から肩に手を置きに行ったとこで声出た


214:名無しの冒険者

置いた瞬間、脇の土の塊がすっ飛んできて直撃

ゴブリンひっくり返って、そのまま魔石


215:名無しの冒険者

土Fがモンスター倒すとこ初めて見たわ


216:名無しの冒険者

>>215

本人も初めて見たみたいな顔してたぞ


 日曜の夜、俺は居間のテーブルで、自分のことを書かれたスレッドを読んでいた。

 陽菜は自分の用事で出ていて、まだ帰ってこない。


 初めて見たみたいな顔、というのは合っている。

 脇の塊は先に固めて置いた土で、肩に触れて《引力》をかけると、ゴブリンの魔力で弱まりつつも飛んできた。

 知らない人の文章の中で、昼の俺がもう一回ゴブリンを倒している。

 倒したときより、読むほうがよほど照れくさい。


231:名無しの冒険者

兄チャンネルの過去回、掘れるとこまで掘ってきた

5年分、ほぼ土壁を立てては崩してるだけ


232:名無しの冒険者

>>231

壁しか立ててなくて草


233:名無しの冒険者

壁職人


234:名無しの冒険者

壁職人、ついにモンスターを倒す


 呼び名としては文句のつけようがない。


240:名無しの冒険者

まじめな話、なんで土Fで倒せたの

攻撃魔法の威力って、スキルLvと魔力の掛け算だろ


241:名無しの冒険者

引力が実は隠れ攻撃スキル説


242:名無しの冒険者

>>241

引力ビーム出るなら見たい


 出ない。


251:名無しの冒険者

本人が配信で読み上げてたけど、Lv7で土魔法Lv7な

どうせレベルアップのスキルptで上げただけだろ


252:名無しの冒険者

安全な所でいくら壁立てても、習熟度なんかほぼ積もらんし

壁職人が何年壁立ててても無駄ってこと


253:名無しの冒険者

>>252

言い方


 スキルは使って習熟度を積めばレベルが上がる。ほぼ積もらないのも知っていて、毎週使った分を捨てていると思っていた。


 居間の壁際の棚へ行き、サンプル瓶のあいだに挟まった方眼の実験ノートを、抜けるだけ抜いてテーブルに積んだ。ノートが何年分あるのかは、数えたことがない。

 ページの端には、毎回その日の《土魔法》のレベルを書いてある。隣は魔力だ。固めた土の硬さは、魔力で決まる。


 めくってもめくっても、端の《土魔法》のレベルは6から動かない。

 画面の中で無駄と笑われている何年分が、手元では6の縦の列だ。


 でも昼の《土魔法》の7には、スキルptを1つも使っていない。レベルアップでもらった2ptは、画面に残っている。

 ゴブリンの前で使った土は、壁を何枚かと、足を止めた土と、ぶつけた塊1つぶんだけだ。

 何年も動かなかった数字が、それだけで動いたとは思えない。


 捨ててたんじゃない。溜まってたんだ。


 安全な行き止まりで何年も使った分の習熟度は、少しずつしか積もらなくても、消えずに残っていた。そこに初めて戦いながら使った分が加わって、7に届いたのだ。


 6の縦の列を指でなぞる。

 顔がゆるむのが自分で分かる。誰もいない居間でよかった。


 玄関で鍵の回る音がした。


「ただいまー! 兄ちゃん、見たよ昼の!」


 陽菜がスマホを握ったまま、靴も揃えずに居間へ飛びこんでくる。

 誰もいない居間は10秒ももたなかった。


「帰りの電車でアーカイブ見てたら、声出ちゃってさ。隣のおじさんにめっちゃ見られた」


「電車で出すなよ」


「出るって。あたしの兄ちゃんだもん」


 陽菜はテーブルをのぞきこんで、6の列と俺の顔を見比べた。


「……何これ。てか兄ちゃん、なんでにやけてんの」


「《土魔法》のレベル。6から7になっただけだよ」


 陽菜はいちばん下のノートを引っぱり出して、表紙の日付に目をやる。


「これ、あたしまだ高校生のときじゃん」

「その1つって、このノート全部ぶんでしょ」

「すごいじゃん。よかったね、兄ちゃん」


 肩を平手で2回叩かれた。加減というものを知らない妹だ。

 それでも、否定する気にはならなかった。


 陽菜は俺の横に座りこんで、勝手にスマホの画面を送りはじめた。


271:名無しの冒険者

で、土F兄はいつランク上がんの


272:名無しの冒険者

>>271

上層の中間ボス倒せばFから一気にDまで飛ぶ

多摩なら第10層のホブ


273:名無しの冒険者

土Fがホブは無理

ゴブリン1匹でこの騒ぎなんだぞ


274:名無しの冒険者

>>273

1匹倒せたなら2匹目もいける理論


275:名無しの冒険者

ホブも1匹だから実質ゴブリン


「ほら。兄ちゃんなら、Dランク狙えるじゃん」


 Dランクへの近道も、第10層のホブゴブリンも、冒険者証を取った日から知っている。

 ただ、土魔法Fが中間ボスを倒す筋書きに自分を当てはめたことは、一度もなかった。


 無理だとずっと決めていた。


 今は、分からない。


「……どうだろうな」

「どうだろうな、じゃないの。あたしは狙えると思って言ってんの」

「あたし、Fのとき、パーティで第10層のホブゴブリンやったよ。それで一気にDまで上がったの」


「どうだった」


「あたしの光線でちょっとずつ削って、やっと倒したの」

「皮も肉も分厚くてさ、奥まで通んないんだよね」

「おまけに魔力も高いって有名だし」


 触った相手の魔力が高いほど、《引力》は弱まる。


 昼のゴブリンには弱まっても届いた。ホブゴブリンでどれだけ弱まるのかは、まだ分からない。


「あと棍棒ね。重くて長いから、届かないと思った所の一歩先まで来るの。こっちが下がりすぎちゃう」


 陽菜の話を聞きながら、俺はノートの新しいページを開き、次の土曜の日付を書いた。

 試すことは2つある。1つは、モンスターと戦いながら《土魔法》を使うこと。危ない場面ほど、習熟度は多く積もる。

 もう1つは、岩が土のうちに入るかどうか。《土魔法》のレベルが上がれば、土として扱える物の範囲も広がるかもしれない。


「あ、そうだ。これ見て」


 陽菜が自分のスマホをノートの上に置いた。

 誰かの配信の切り抜きだ。第10層の広間で、《土魔法》の冒険者が土壁を立てている。

 《土魔法》で配信している人は、俺のほかにもいたらしい。


 立て方は手慣れていて、固め方も悪くない。


 奥の暗がりからホブゴブリンが歩いてくる。

 昼に倒したゴブリンの倍の背丈だ。

 丸太を削ったような棍棒を床に引きずっている。あの長さなら、陽菜の言うもう一歩先まで届く。


 棍棒が横に振られて、土壁が真ん中から割れて崩れ落ちた。


「ね。土壁なんか一発だよ」


 怖がるより先に、陽菜のスマホを取って巻き戻していた。

 どこから割れたのかを、もう一回見たい。


「兄ちゃん。そこ、怖がるとこだから」


 分かってる。

 でも、壁の硬さを決める俺の魔力は、昼のレベルアップで16から18になったばかりだ。


 俺の壁なら、何発だ。

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