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最弱の土魔法Fで戦えない地質研究員ですが、Aランクが引き返した崩落を岩ひとつ壊さずに通ってバズりました  作者: 月見まっちゃ
第3章 検証

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第14話 生配信

 壁に立てかけたスマホの同時接続数が4桁になった。


 日曜の昼に、第2層のいつもの行き止まりから、初めての生配信をしている。

 入口は《硬化》の土壁で閉じてある。ただ、スマホの電波が届くように、上に拳ほどの隙間だけ残した。

 外から撮るのは、陽菜に譲られたドローンだ。


 3,100。

 この数字の前で何を言えばいいのか、誰にも習っていない。


「えー……どうも。土魔法Fの、黒沢です。今日は《引力》の実験をします」


 視聴者0の頃の挨拶しか、俺は持っていない。誰も見ていなかったから、言い終わる前に土を触っていた。続きなんて考えたこともない。


『声ちっさ』

『お兄さん緊張してる?』

『ハズレは?』

『ハズレ出るまで待機』


 ドローンのレンズを見るのか、コメントの流れるスマホを見るのか。どっちを見るかも決めてこなかった。

 題は、〔引力 視聴者の仮説を試す〕にしてある。


 コメントの言うハズレは、昨日の録画に映った喋るモンスターだ。今日は着いてから一度も見かけていない。あいつの予定なんて、分かるわけがない。

 小石の列は昨日のまま壁際に並んでいる。

 その列の端の、やけに丸い石の下で、目が2つ開いた。


『いた!』

『ハズレだ』

『本物いるじゃん』

『録画のやつ』

『ジト目かわいい』


 そいつは石のヘルメットの下から短い足を2本出し、列の端に座り直した。

 画面の向こうの何千人には目もくれず、並べた小石を眺めている。何千人が小石に負けた。


「……ハズレ、っていうらしいぞ。お前」


 返事はない。

 口に出してみると、案外なじむのが悔しい。


「じゃあ、録画にもらった仮説を試します。道具の要らないものから」


 昨日みたいに爪で床に線を引くのは、もうやめた。

 代わりに、通り道の脇へ《土操作》で土を親指ほどに盛った。

 床の小石を1つ指で押さえ、離して置いた別の小石を引き寄せる。転がってくる小石がこの盛り土の横を過ぎたら、《引力》を止める。爪の線の代わりの、止める合図だ。

 小石が止まると予測した所には、もう1つ盛り土を作る。こっちは印と呼ぶ。


『盛り塩?』

『お墓並んでる』


 墓じゃない。誰も埋まってない。


「いちばん多かったのが、ハズレが見てると《引力》が強くなる、って説です。目隠しします」


 ノートを立ててハズレの目をふさぎ、押さえた小石から手のひら3枚分離した小石を弱めに引き寄せる。

 見られていなくても、小石は昨日と同じだけ印を越えた。

 ノートの陰で、ハズレが口を開いた。


「外れ。4回目」


 視聴者の仮説の外れまで、俺の外れに数えている。


「待て。今のは俺の仮説じゃない」


『視聴者の外れも兄のツケで草』

『連帯責任』


「止めるときは声に出せ、って説もあります。念じるだけだと止まりが遅いそうです」


 腹から「止まれ」と叫んでみた。

 でも、小石は黙って止めたときと同じ所まで転がっていく。叫んでも、止まるまでは1秒と少しかかったままだ。


「外れ。5回目」


『さっきの挨拶より声でかい』


「床が傾いてる説。これは向きを変えれば分かります」


 反対側にも盛り土を作り、押さえた小石から手のひら2枚分と3枚分の所から転がす。

 右から来ても左から来ても、越える幅は同じだった。


「外れ。6回目」


『テンポよく外すな』

『ハズレの仕事が早い』


 仮説は空振りでも、測った数字はノートに残る。

 その数字を見ているうちに、手が止まった。

 合図の盛り土で止めてから、小石が行き過ぎた幅は、2枚分の所からなら指2本。3枚分の所からなら指4本。

 向きを変えても幅は揃うのに、遠さを変えると揃わない。


「……あ」


『兄が固まった』

『今「あ」って言った』


 遠くから転がってくる小石は、合図の盛り土に着くまで長く引き寄せられる。だから、そこに着いたときにはもう速くなっている。

 なのに、《引力》を止めてから小石が止まるまでは、どの小石も同じ1秒と少しだ。


 速いほど、行き過ぎる。


 昨日、3枚分先の印を指2本分の所に置いて越えられたのも、それでだ。2枚分先の行き過ぎ方のまま、速く来る3枚分先を予測していた。

 床は傾いていなかったけど、試したのは無駄じゃない。


 今度は、引き寄せる小石を、押さえた小石から手のひら4枚分先に置く。合図の盛り土は、押さえた小石のそばのいつもの所に盛る。


『2本、4本ときたら次は6本?』

『等差数列』


 俺も一瞬そう数えた。

 でも、さっき3枚分先から転がした小石は、押さえた小石から遠い、出だしの1枚分をのろのろ転がっていた。勢いがついたのは合図の盛り土が近くなってからだ。遠いほうでは引き寄せる力がまだ弱いのだと思う。


 合図の盛り土を越えた先に、印の土を盛る。

 気づいたら、ハズレに向かって印を指さしていた。昨日もやったな、これ。


「いいか。昨日より1枚分遠い。けど、足したのはのろのろ転がる出だしの1枚分だから、合図に着くときの速さはほとんど上がらない」

「だから、行き過ぎも指4本から1本延びるだけ。止まるのはここ、指5本分。見てろよ」


 ハズレはこっちを見もしない。

 代わりに、何千人が見ている。


『指5本って言った』

『外したら7回目』

『ハズレ、数える準備できてる』

『言質とった』


 うるさい。こっちは本気だ。


 引き寄せる。

 小石が転がり出す。

 合図の盛り土を越えた。

 《引力》を止めて、数える。


 1秒と、少し。


 小石は、印の土の真横で止まった。


 ハズレの目は止まった小石に向いている。

 半分下りたまぶたはいつものままだ。

 俺はあの平板な声を待った。


『え』

『当たった!』

『マジか』

『予告ホームラン』

『ハズレが黙った』


『当たったら何も言わないのかよ』

『ハズレ、ちょっと悔しそう』

『鳥肌立った』

『お兄さんやった』


「……予測どおりだ」


 ノートに書きつける字が、自分でも分かるくらい跳ねた。


「まあ、1回だけどな」


『1回でも当たりは当たり』

『謙遜すんな兄』


 コメントの流れがひとつ速くなった。


『測って当てるの、計算の力ってすげー(なお土魔法F)』

『次これ試して』

『2個同時に寄せたら?』

『ハズレも転がしてみて』

『ハズレに当てたら数え直し?』


「ハズレは転がしません。2個同時は、ノートに書いときます」


 6,200。

 空振りを3回見せていたあいだより、当たりを1回見せたあとのほうが増えている。


 MPも減ってきた。もう半分くらいは使っている。


『上の隙間から光漏れてない?』

『ゴブリンって音と光に寄ってくるよね』

『兄、声でかくなってきたし』

『ここ上層だろ、普通に出るぞ』


「大丈夫です。入口は塞いでありますから」


 上に残した隙間の向こうで、何かが土を引っかいている。


 見上げると、ドローンが隙間のすぐ前に浮いていた。俺を撮るのにちょうどいい高さだったらしい。

 あの隙間を電波のために開けたのは、俺だ。


『今の音なに』

『ゴブリン?』


 引っかく音が壁の下のほうへ移っていく。

 俺の腰ほどの高さで、壁の土がひと塊、内側へ落ちた。

 《硬化》で固めた壁だぞ。

 開いた穴から、刃こぼれした刃物の先がのぞく。握っている指は緑っぽい。


 向こうで足音が重なる。聞き分けられるだけで3つある。


『ゴブリンだ!』

『逃げて』

『そこ行き止まりだろ』

『ハズレ隠れて』


 何年も上層でやってきたのは、壁を立てて、モンスターがあきらめて離れるのを待つことだけだ。


 その壁を、向こうが削っている。


 刃先が穴の縁をえぐった。

 土が、またひと塊落ちた。

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