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最弱の土魔法Fで戦えない地質研究員ですが、Aランクが引き返した崩落を岩ひとつ壊さずに通ってバズりました  作者: 月見まっちゃ
第3章 検証

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13/22

第13話 録画

 石のヘルメットをかぶったモンスターは、最初から数えていた。


 行き止まりで小石を転がした日の夜、俺は居間のテーブルで、胸元のカメラの録画をスマホで見返していた。

 昼の実験が、まるごと残っている。途中で現れた、喋る小さなモンスターもだ。


 苔の光の中に、大きさ順に並べた小石と、爪で引いた線が浮かんでいる。

 並べ終えたばかりのコマから、列の端にはもう、やけに丸い石が1つ交じっていた。


 録画の俺が手を伸ばし、その石をつかみにいく。

 石に目が2つ開いたとたん、画面がぐるんと天井を向いた。

 続くのは、両腕を上げて固まる俺と、短い足で座っただけのそいつだ。


 最後の平板な「外れ」と「3回目」まで、胸のマイクはちゃんと拾っていた。


 何年も上層を見てきた男が、目の付いた石を拾いに行っている。


 方眼ノートを開くと、小石を強めに引き寄せた実験の行の端に、昼の俺の字で書き込みがある。


 途中で跳ねた? 録画で確認。


 だから、その実験まで録画を戻してコマ送りにした。

 1コマずつなら見落としようがない。


 転がってきた小石が線に差しかかる。爪で床を引っかいただけの、浅い溝だ。

 次のコマで小石は溝の縁に乗り上げ、下に細い影の隙間ができた。


 ……跳ねてる。


 測るために爪で引いた線が、測る小石を跳ねさせていた。


 なので次からは、線を小石の通り道に引かない。ノートのその行に、そう書き足した。


 何年も実験記録をつけてきて、これだ。

 しかも跳ねたと最初に言ったのは俺の実験が外れた回数を数えているモンスターで、そこがまた腹立たしい。


 止まる位置の予測として爪で付けた印を、小石が越えた実験も同じようにコマ送りにした。

 こっちは跳ねておらず、小石は線も印もなめらかに越えて、指2本分先で止まる。


 止めようとしてから小石が止まるまでの間も、コマで数え直して1秒と少し。

 昼の俺の数え方は合っていた。


 なら、なんで越えた。


 越えた理由は分からない。でも、録画はもう流していい。

 力の名前は分かったし、規則も名前を念じると開く説明文に書いてある。分からないのは止まる位置の予測がずれた理由だけで、予測どおりにいかなかった実験なら何年も流してきた。


 題は、いつもどおり結果をそのまま書いて〔引力 小石の止まる位置を予測する 外れ〕にした。

 そいつの映っている所も切らずに残す。


 増えた登録者のお目当ては事故の話で、実験記録を最後まで見る人なんて、せいぜい数人だろう。


 公開を押してから、台所へ麦茶を取りに行った。

 戻ると、通知が画面の端まで積み上がっていた。


『しゃべった!?』

『拾いに行くな』

『上層何年目だよこの人』

『列の端の石が本体なの何』

『ジト目かわいい』


 実験の話は1件もない。


『引力? 磁力系じゃなかったのか』

『この子、名前ないって言ってた』

『外れ。3回目←この声好き』

『外ればっか言うんだから、ハズレでいいだろ』

『ハズレ』

『ハズレちゃん』


 やっと実験の話が来た。


『印越えたの、床が傾いてただけでは』

『ハズレが見てると強くなる説』

『ハズレが何かしたに一票』

『兄の数えるのが遅いだけ説』


 数えるのが遅い説に、コマで数え直しても1秒と少しでした、と返信を打った。


『返信きた!』

『お兄さん、ハズレは何食べるんですか』


 数え方の話をしたはずだ。


 公開から1時間で、再生は2万回を超えた。


 数人という見積もりとは桁が違い、コメントの流れる速さまで変わっていた。


『石どこ? ……あ、いた』

『ハズレのために登録した』

『実験パートは倍速で見ました』

『さっき開いたとき、再生まだ3桁だったぞ』

『ハズレの出てる所だけ切り抜いてくれ』


 倍速はやめてほしい。


 外れを数えられているのは俺なのに、ハズレと呼ばれているのはそいつだ。


 でも、仮説の中には明日すぐ試せるものもある。

 床の傾きなら、転がす向きを変えるだけで確かめられるし、道具も要らない。

 試せるものを手間のかからない順に、ノートへ写していった。


 居間のドアが開いた。


「兄ちゃん、お風呂あいたよ。……何それ」


 陽菜が俺の肩越しに画面をのぞき込む。


「モンスター」

「モンスター?」


 録画を、目が開く少し前まで戻した。


 陽菜が画面に顔を寄せてくる。気づけば俺も一緒に寄っていた。


 並んだ小石の端で、丸い石のまぶたが持ち上がった。


「開いた! 目、開いた! え、かわいい、なにこれ」

「喋るぞ」

「喋るの!?」


 少し先までそのまま流した。


「……今『3回目』って言った? 兄ちゃんの外れ、数えてんの!?」


 陽菜はテーブルを叩いて笑った。

 そこは笑うところじゃない。


 笑いが収まると、陽菜は画面の上の題に目を止めた。


「てか、《引力》って何。兄ちゃんの石を引き寄せるやつ、名前分かったの?」

「昼に分かった」

「そういうのは先に言ってよ!」


 陽菜は自分のスマホで同じ動画を開き、コメントを指で送っていく。


「うわ、ハズレって呼ばれてる。ひどい、かわいい」


 どっちなんだ。


「仮説もめっちゃ来てんじゃん。これ全部やるの?」

「安いのから」

「じゃあ明日、生でやりなよ。みんなの前で試せば、その場で答え出るじゃん」


 いつもなら、背中を押すのは俺のほうだ。


「配信の声と明かりは、モンスターを呼ぶだろ」


 モンスターは人の声と光に寄ってくる。俺が静かにやってきたから、あの行き止まりには何年も誰も来なかったのだ。


「入口、塞げばいいじゃん。兄ちゃんの得意なやつで」


 土壁か。

 それなら何年も立ててきた。入口を土壁で塞いで、《硬化》で石のように固めておけば、モンスターが来ても入れない。


「でも、外から撮るものがない。胸のカメラじゃ、手元しか映らない」

「ちょっと待ってて」


 陽菜は部屋へ引っ込み、手のひらに小型の撮影用ドローンを載せて戻ってきた。


「予備。ほとんど使ってないから、あげる」

「いいのか」

「いいの。兄ちゃん、自分のは絶対買わないでしょ」


 その場でチャンネルに、明日の昼から生配信をする、と予告を出した。

 1分もしないうちに、コメントがつく。


『ハズレ出ますか』

『ハズレの出欠確認からお願いします』

『引力の検証(ハズレ待ち)』

『ハズレいなかったら、兄が1人で外れるだけでは』


 小石の止まる位置なら、予測とのずれまでノートに数字で並んでいるので、ひと晩あれば次の予測が立つ。

 でも、そいつが明日もあそこにいるかどうかの材料は、ノートのどこにもない。


 こればかりは予測が立たない。

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