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【第3話】評価される者と、されない者

トップバッターとして呼ばれた4人組がステージに立つ。


その瞬間、空気が変わった。

今まで彼らがレッスンで受けていた視線とは全く違う、アイドルの素質を探られている感覚だった。


音が鳴る。

しかし、最初の一歩目からスニーカーの床をこする音が不快にズレた。

彼らは引きつった笑みを浮かべながらパフォーマンスをしていた。


ただ、必死さは観客に届く形に整えられておらず、焦りだけが増していく。


ステージを見終えたJINが、淡々と告げる。

「見る価値さえない、ひどいステージだった」


言い終えた瞬間、彼らの結果は確定した。

【Fクラス】


クラスが宣告されたと同時に上下していた肩が深く落とされた。

誰も声を出すことができない痛いほどの静けさが広がる。


次に呼ばれたのは大手事務所の精鋭5人組だった。


彼らのステージは針の穴を通すかのように緻密だった。

ステップの乱れも、歌のピッチもあっていた。

魅せ方も理解している。


だが――それだけだった。


それ以上がなかったのだ。

胸に響く「この子たちを応援したい」と思わせる力はなかった。


LUNAは小さく息を吐くと

「綺麗なだけね」


それは誉め言葉でなく、基準の中に収まりすぎているという意味だった。


結果は【Sクラス】


完璧であることが、記憶に残ることとイコールではないという事実が練習生たちの脳裏に焼き付いた。


中盤に登場した3人組はオーラからして違った。

彼らはかつてデビュー経験のあるグループに属していた。

しかし、デビュー後も人気が出ることがなく、契約更新されることなく解散が決まってしまった。


リーダーである北尾蓮(きたおれん)は再起をかけてこの番組への参加を決めた。


パフォーマンスは安定していて、崩れも、穴もない。


ただ、どこか保守的になっている。


しかし、北尾がセンターになった瞬間爆発的なエネルギーが生まれた。


評価は、蓮のみ【Gクラス】候補生、他の2人は【Sクラス】に決まった。

蓮が【Gクラス】候補生に選ばれた瞬間歓声が一瞬だけ上がった。


LUNAが静かに北尾に評価をつげる

「あなたの以前のステージを見たときとは違う、鳥肌が立つような気迫を感じたわ」

「まだあなたには伸びる余地があると思った」


初めて【Gクラス】候補生が指名された瞬間だった。


次に呼ばれた3人組のパフォーマンスは、空気を自分たち色に染めなおした


その中心となっているのは碧斗と晴希だった。


晴希は最初から最後まで全力だった。

一つ一つの動作に迷いがなく、指先まで熱を込めて踊っていた。


しかし――その熱は制御を失って暴走していた。

観客には力いっぱい踊っているという印象にしかならなかったのだ。


対照的に碧斗は違った。

身体の軸はどんな時もブレず、どんなに踊っていても歌のピッチが外れることなくロングトーンを歌い切った。

そして、他の誰よりも彼なりの曲のイメージが伝わってきた。


歌とダンスが干渉せず溶けあって、曲の世界観を伝えてくる。


結果は明確だった。


黒崎が評価を告げる。

「望月碧斗、【Gクラス】候補生」


少し間が開いた後、

「藤沢晴希、【Sクラス】」


晴希の表情が固まった。

拳が白くなるほど握りしめられている。


「……なんでですか」


LUNAが晴希から目をそらさずに伝える。

「あなたのパフォーマンスには努力の跡が見て取れた」

「けれど観客はあなたの努力を見に来ているのではないのよ」


晴希はうなだれるしかなかった。


次のグループが出てきた瞬間、空気が少し軽くなった。

センターに立つのは上原翠(うえはらすい)という少年だった。


動きは軽いが、技術は粗い。

完成度だけで見れば、決して高くはない。


しかし――

カメラが寄った瞬間、印象がガラッと変わる。


翠は「カメラ」を見ているのではなく、その奥にいる「誰か」を見ているようだった。


松田が初めて小さく笑い

「……これは、面白いわね」


結果は衝撃的だった。

翠のみ【Sクラス】だと評価された。

他のメンバーは全員【Cクラス】。

能力ではなく、ステージの魅せ方で評価が変わった。


そして――最後に近い順番で名前が呼ばれた。


『次、天音璃桜』


ざわめきが起こる。

グループではなく、一人。

このオーディション中、一人でパフォーマンスを行うのは璃桜だけだった。


璃桜はゆっくりとステージに上がる。


音がかかる。


一音目の動作で違和感が生まれる。

彼は魅せるための動きをしているわけではない、それなのに自然と視線が引き寄せられる。


璃桜の動きは羽のように軽やかなはずなのに、存在感に重みがあった。一度見てしまうと目を離すことができないのだ。


彼の周りには重力などまるで存在してないかのように、はねた後の着地音すら聞こえない。


パフォーマンスが進むにつれて、違和感は大きくなっていく。

誰も理由はわからない。

それでも目が離せなかった。

瞬きすらも惜しかった。


歌が始まる。


その第一声でまた空気が変わった。

トレーナー陣の表情もわずかに変わった。

(……理解できない)


言葉が驚くほど耳に残る。

気づけば歌の世界の中に入ってしまっていた。


少し前までは隣の人話し声が聞こえていたのに璃桜が歌い始めてからは、自分の呼吸音すらうるさく感じる。

まるで彼のどんな息遣いも聞き逃したくないみたいに。


ピッチが狂うことはなかった。

リズムもメトロノームのように正確に、美しくリズムを刻む。


トレーナー陣ですら息を呑んで璃桜のステージを見つめていた。誰も評価シートに手を伸ばさない。それは、まるで今はパフォーマンスを評価する場だということを忘れたかのように。


璃桜のパフォーマンスが終わる。


残響が消えても、誰も動かず、言葉を発することができない。


拍手すら起こらない。

いや、起きないのではない。皆まだ終わったと理解できていないのだ。


「上手い」という一言では片づけることのできないステージだった。


なぜ目を離すことができなかったか、何が他の練習生たちと違ったか。

わからないことが多かった。


しかしトレーナーたちにはその違和感の正体が見えていた。

璃桜は技術だけでは達することのできない領域にいたのだ。

例えば――振りのテンポが切り変わる瞬間。

普通なら誰もが次の振りに移るために、無意識に体が先行する。


ところが璃桜は違った。

ほんの一拍――いや一拍にも満たないわずかな溜めが存在していた。

ほとんどの人が気づかないであろう溜め。


次の振りのタイミングには完璧にあっている。

それだけなのに振りには不思議な余裕が生まれた。

そしてわずかな空白が、次の動きを何倍にも大きく、鮮やかに見せていた。

まるで今音楽に合わせてその場で振りを生み出しているかのようだった。



しかし、練習生たちが共通して感じたのは、今この場で印象に残ったステージだったということだ。


沈黙だけが残る。


『次――』


零だけが動けた空間が、その一言で再び動きだす。


『――以上の結果、【Gクラス】は以下の5名とする』


その一言で、スタジオの空気がさらに深い緊張へと沈み込む。


それは結果を待つ緊張でも、期待でもなく自分の立ち位置が確定してしまうことに対する圧だった。


望月碧斗

北尾蓮

斎藤葵(さいとうあおい)

西ヶ谷悠太(にしがやゆうた)


そして――天音璃桜


『以上だ』


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