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【第4話】序列を刻むステージ

レベル分け審査という、始まりとしてはあまりにも重い試練が終わり、練習生たちはそれぞれのクラスへ振り分けられた。


だが、『プリズム・ステージ』は始まったばかりだった。


『今から、皆さんが世界に向けて発信する最初の曲――【プロローグ・ナンバー】を発表します』


スクリーンに映し出されたのは、この番組の象徴となる楽曲。


『Prism Flare(プリズム・フレア)』


その楽曲は、花火のようなエネルギーをもつと同時に、燃え上がった後に消えていくはかなさも感じられる、オーディション番組にぴったりの楽曲だった。


『来週、この楽曲のMV撮影を行う』

『しかし、全員が平等にパフォーマンスをする機会が与えられるわけではない』


立ち位置が明確に分けられていた。


スポットライトを一心に浴び、もっともカメラに映りやすいメインステージ最上段。

その位置に立てるのは【Gクラス】のみ。


メインステージ最上段から一段下がった場所の前方に【Sクラス】。


そして【Sクラス】の後ろに【Cクラス】。


最後に――ステージの最下層。

スポットライトの光が全く届かない影の位置、おそらく全体を映すためにひいた時しか、カメラに映らない位置に追いやられたのが【Fクラス】だった。


同じオーディション番組に出ている練習生なのに、扱いはまるで別物。

実力差以上の存在価値の格差が視覚的に突き付けられた。


静まり返る空気の中、ダンスのトレーナーを務めるJINがゆっくり歩み出る。

「今回、私が『Prism Flare』の振り付けを担当した」

「今から振り付けを2回だけ実演するから、30分後に発表しろ」


静寂からざわめきが生まれた。

認められようと必死に見つめる者や、脳が理解を拒み、ただ突っ立っているだけ者もいた。


しかし無情にもJINはすぐに音楽をかけると踊り始める。


「……ふぅ、以上が『Prism Flare』の振り付けだ。」


振り付けした本人ですら2回踊り終わったころには息が切れていた。


『練習を始めてくれ』


練習開始の合図が告げられたが、ほとんどの練習生はすぐに動けない。


有名事務所で練習生として何年も過ごしている、振り付けを見る前は余裕そうだった桐生光輝(きりゅうこうき)は、顔をひきつらせたままつぶやく。

「……無理だろ、あれ」


誰も否定できなかった。


――30分後


時間は無情にもすぐに過ぎ、再び審査の場へと変わる。


「Fクラス、前へ」


JINに促され、最下位クラスの練習生たちがステージへ向かう。


音楽が始まった瞬間、半数以上の練習生の体が止まる。


覚えきれていない。

動きを思い出そうとしているのか、どんどん曲から振りが遅れていき、その振りも頭から飛んだのかフリーズする練習生も増えてきた。


JINは無表情のまま彼らを見つめる。


しかし、一人だけ最後まで踊り続ける少年がいた。


上手くはない。

手の角度も甘く、足運びもよく遅れていた。

振り付けを間違える場面も多かった。


しかし、一度も彼の体は動きを止めることがなかった。


一拍遅れれば追いつくために振りを速めて追いつき、振り付けがあいまいになれば覚えているところまで自分なりに振りを考えていた。


誰よりも必死だった。


曲が終わった瞬間、彼はその場にへたり込んだ。

ネームプレートには「水無月白琉(みなづきはくる)」とある。


肩は大きく上下し、汗が床に落ち続けている。


JINは手元のボードを見ながら

「下手だな」


容赦のない一言だった。


しかし続けて

「振りも雑だし、体もできてない」

「ただ――この中で一番ガッツがあった」


その一声で白琉はうつむいていた顔を上げた。


「30分前よりはましになっていた」

「以上だ」


誉め言葉では決してない。

期待されたわけでもなかった。


しかし――今日否定をされ続けた白琉にとってその一言で十分だった。


「次、Cクラス」


呼ばれた瞬間空気はさらに重くなる。


彼らは倒れているFクラスの練習生たちの間を通り、トレーナー陣の前へ進む。


だが、結果は残酷だった。


Cクラスには見どころがあると判断されたものは誰もいなかった。


形にもなっていない、崩壊したパフォーマンスだけが存在していた。


「次、Sクラス」


それぞれが自分の力を示そうと必死だった。


その中に一人だけ妙にいらだった表情の少年がいた。

――西野緋凪(にしのひなぎ)


レベル分け審査でSクラス判定を受けたが、誰よりも結果に納得していない顔をしている。


緋凪はJINの振りを再現するのではなく、自分の表現を入れようとしていた。

だからこそ完成度が下がってしまっている。

けれども、注目されなくても目だけは死んでなかった。


光輝は振り付けを正確に再現することに全神経を集中させる。

しかし――それは限界ギリギリの劣化版のコピーに過ぎなかった。


一方の翠は、形が崩れているにも関わらず、どこかカメラを意識した王な仕草が混ざる。

技術の拙さを魅せ方でごまかしていた。


その中で、JINの目に留まったのは晴希だった。


彼だけが違っていた。

ただ必死なだけでなく、視線の角度までカメラの位置を見て修正している。

身体は完全に追いついてはいないが、意識だけは前に進んでいた。


「藤沢晴希。さっきのステージよりいい」

「レベル分け審査ではじぶんのことしか考えられてなかった」

「今回はカメラで撮られていることまで意識できていた」


晴希は息を切らしながら頭を下げる。


隅で光輝が舌打ちをし、翠は視線をそらした。


おなじSクラスでも、すでに格差が生まれ始めていた。


「最後、Gクラス」


値踏みをするような視線がGクラスを包む。


「どうせ運が良かっただけだろ」

「30分じゃたかが知れてる」


しかし――その予想はすぐに壊された


音楽がかかった瞬間、Gクラスのダンスは完成されていた。


迷いがなく、崩れもない。

30分という時間の制約を感じることができないくらいに。


激しい踊りでもそろって見える。


だが――視線は中央に吸い寄せられる。


視線の先にいたのは――璃桜。


彼を一瞬でも見てしまうと、目を離せなくなってしまう。


正確だった。

JINの振り付けを完全に再現している。

けれど、同じ振り付けを踊っているはずなのに、璃桜だけ時間が引き延ばされているように感じる。


璃桜は振り付けを覚えたのではない。

自分のものにしていた。


気づけば会場にいる人の視線が、一つに固定されていた。


音楽が終わる。


「……なんだよ、あれ」

思わず誰かがつぶやく。


少し間を開けてJINが講評を始める。

「……望月碧斗、お前は完ぺきだ。すぐにステージをこなせるレベルだ」


碧斗は小さく微笑んだ。


そしてJINが璃桜を見る。

「……天音」

「普通の人間ならまずコピーから始めるが、お前は再現じゃない。書き換えている」

「正直気味が悪いくらいだ」


JINはそこで言葉を切った。

「だがお前のパフォーマンスには向ける先があるのか?」

スタジオが予想外の問いに静まり返る。

「お前は客の存在を意識してない」

「誰かに伝えようとして踊ってない」

「もしここにお前のファンが100人いても同じ気持ちで、同じように踊るだろう」


璃桜は小首を傾げながら答える。

「……はい」


何が問題かもわかっていないその返答にトレーナー陣は目を細めた。

JINは深い溜息を吐く。

「やっぱりな」

「おまえ、そのままだとアイドルとしては失格だ」


その言葉に周囲は驚きを隠せないでいた。


沈黙を破ったのは零だった。

『今日の練習は以上だ』


一拍おいて続ける。

『そして、全員気になっているであろう『Prism Flare』のセンターは――』


全員が固唾をのんで次の言葉を待つ。


『【Gクラス】から選出される』


その瞬間、あきらめにも似たため息が会場を覆った。


「ふざけんな」

緋凪が思わずつぶやいた一言が、誰の耳に届くことなく消える。


璃桜はステージの片隅で軽く息を整えていた。

(センターとかどうでもいいから、早く終わらないかな……)

(早く飯食って、寝よう)


とても現実的な思考だった。


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