善意の使者
ふらふら〜。
俺は、特にやる事も無いので街をふらついていた。
エリシアの護衛はユーシアと盾さん達が居るし、爆薬さんはミーヤと研究室で騒いでいる。磁石さんは街道の地図作りに夢中だし、守くんはユーシアの後ろで訓練の真似事をしている。
ネルは……またどこかへ行ってしまった。
あいつは本当に自由だ。
となると、俺は完全に手持ち無沙汰だ。
まあ、街の様子を見るのも大事か。
城壁の方へ漂って行く。
職人達の掛け声が響いていた。
石材が積み上げられ、足場が組まれている。
新しい防御塔の骨組みも見える。
なるほどな。
城壁の強化工事が、どんどん進んでいる。
防御力を上げてるんだな。
王都と事を構える可能性もある以上、守りは固めておかないといけない。
ふっと、城門の方に目をやる。
……ん?
やけに綺麗な馬車が止まっている。
この街では珍しいくらい豪華だ。
黒塗りの車体。金の装飾。
護衛の騎士も、装備が整っている。
貴族か?
俺は、ふわりと近付いて覗き込んだ。
馬車の中では、二人の男女が話している。
服装からして、役人か貴族の使者だろう。
「私共が第二王女に派遣されるとは」
男が、少し困った様に言った。
女の方が肩をすくめる。
「そうね」
紅茶のカップを持ちながら、淡々と答える。
「私達は善意の為に派遣されたのよ」
善意、ねぇ。
男は小さく息を吐いた。
「しかし……第一王女殿下も何を考えているのか」
女は、くすっと笑った。
「単純よ」
「敵対するより、味方にするって話」
なるほど。
王太子と対立しているって事か。
男が腕を組む。
「第二王女も立場がはっきりしませんからね」
王位争いの渦中。
敵にも味方にもなり得る存在。
女は窓の外を見た。
城壁工事の様子を眺めながら言う。
「まあね」
「でも様子を見て、上に上がろうって話は聞かないわ」
「むしろ……」
少し考える。
「地盤を固めてる」
男が頷く。
「辺境の統治力を高めていると」
「そう」
女は笑った。
「だからこそ、今のうちに関係を作るのよ」
「貸しを作る、と」
「そういう事」
……なるほどな。
第一王女の使者って訳か。
俺は少し考える。
敵……では無さそうだな。
少なくとも、今のところは。
王都から来た人間だ。
何か裏があっても不思議じゃない。
俺は、ふわりと城の方へ向きを変えた。
これは――
エリシアと魔女に、報告した方がいいな。
第一王女の手が、辺境に伸びてきた。
善意の顔をして。




