それぞれの戦場
俺は、新聞を読んでいた。
この世界にも新聞があるのは、最初は少し驚いたが、王都や大きな街では定期的に発行されているらしい。紙質は粗いが、内容は中々に刺激的だ。
見出しは大きく踊っている。
『異世界より転移した三人の勇者、訓練を終え遂に旅立つ!』
……勇ましい限りだなぁ。
記事によれば、あの三人は王都の特別訓練施設で数か月の訓練を受け、十分な戦力として認められたらしい。剣士、魔法使い、僧侶。絵に描いた様な編成だ。
魔族討伐の象徴。
王国の希望。
そんな言葉が並んでいる。
……俺は?
俺はこんな中途半端な状態だって言うのに。
肉体は無い。だが消えもしない。
勇者でも無ければ、完全な幽霊でも無い。
新聞を畳み、ふっと外を見る。
中庭の端。
爆薬さんが、何やらせっせと地面を掘っている。
「そこは三歩ズラせ!湿気が溜まりやすい!」
誰に指示してるんだ。
霊鋼をマジックハンド状に伸ばし、土をかき分け、小さな筒状の物を埋め込んでいる。
……爆破罠だな。
しかも木の上にも、何か仕掛けている。
枝の分岐に、小さな袋。
「高所爆裂式、落下連鎖型だ!」
やっぱり一番よく分からん。
ミーヤが横で、冷静に記録している。
「威力は制御済み。城壁内では使わない」
「任せろ!」
軽い。でも爆薬さんの輪郭は以前より安定している。役割を与えられ、行動しているからだろう。
外敵に対する備えは、着実に進んでいる。
――一方で。エリシアは、幽霊仲間達と仲良くやっている様だ。
城内の一室。
丸い卓を囲み、チェスの様な盤を挟んでいる。
盾さんが駒を動かす。
磁石さんが盤面を読み、進言する。
守くんは、じっと見つめている。
ユーシアは背後で腕を組み、無言で見守る。
「ここで王を動かすのは、危険では?」
磁石さんが言う。
「だが、攻めねば詰む」
盾さんが低く返す。
エリシアは、少し考えてから、駒を進めた。
「では、ここで受けます」
……強いな。ただ遊んでいる訳じゃ無い。
戦略を練っている。
守くんの輪郭が、また少し濃くなった。
“逃げない”。
その言葉の意味を、学んでいる様にも見える。
俺は、静かに漂う。
勇者達は、王都から華々しく旅立つ。
新聞に載る存在。喝采を浴びる存在。
一方で、ここには新聞には載らない戦いがある。
資金の流れ。
軍備の強化。
幽霊の訓練。
爆破罠の設置。
政治的駆け引き。
どちらが正しいとか、上とか下とかじゃ無い。
戦場が違うだけだ。
「なあ、ポチ」
ネルが、ふわりと隣に現れる。
「羨ましいか?」
新聞の見出しを指す。……少しだけ、な。と思ったが
「いや」
俺は、首を振る。
「今は、ここでいい」
ネルが、にやりと笑う。
「そうか」
窓の外。爆薬さんが、また何かを埋めている。
「完璧だ!」
完璧じゃねーよ。俺は、小さく笑った。
まあ――上手くやってれば、いいな。




